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出発前夜

 あれから二年の月日が流れた。

 冒険者になる為、師匠との約束通り俺達は明日この『冥府の森』を出る。



 俺達は住処にしている洞窟で今後の事を三人で話し合っていた。


「とにかく馬車が必要だろう。馬三頭でもいいが、それでは荷が運べないからやっぱり馬車の調達を第一に考えないといけないと思う」

「でも、お兄様の魔眼なら荷物の心配は要らないのではなくて?」


 確かに能力の一つである【暴食眼(ベルゼブブ)】は、いわゆる『無限収納』として使える能力だ。いかなるサイズであろうとも収納、取り出しが出来、その容量やサイズの上限はこの二年間の検証でも未だ計り知れない。


「確かにそうだけど、こういった普通じゃない力は世間ではトラブルの種にしかならない。出来るだけ隠したいんだ」


そういう能力を使って国の依頼で大量の荷を運ぶ、なんて小説もあったけど僕のように魔眼、すなわち目の中に収納するなんて端から見れば気持ち悪いに違いない。


「では『シロナ』達に乗って行きましょ!シロナも行きたいよね~?」

「ガウッ!」


 半年前、クロに二頭の子供が生まれた。アイリは白い個体に『シロナ』黒い個体に『クロナ』と名付け可愛がっている。二頭はこの半年余りで二.五メートルほどまで成長しており、アイリが槍を片手にシロナに乗って駆けまわる姿は、某アニメの獣の姫さながらだった。


「アイリ、何度も言うけど行くのは俺達三人だけだ。その方がクロ達の為でもあるんだよ」

「す、すみませんシンリ様」


アイリの体に流れる狼としての血が、同種とも呼べるクロ達と波長があったのだろう。あれ以来彼女はクロにべったりで、すっかり生まれた二頭のお姉ちゃん的存在になっている。


「魔物の寿命は長い。またいつでも会いに来ればいいだろう?」

「はい……。いい?シロナもクロナも、お姉ちゃんが会いに来るまでにクロみたいに立派になるんだよ!」

「「ガウッ!」」


「では走って行きましょう!お二人には及びませんが、アイリでも馬なんかには負けませんよ!」

「だからそういうのも隠さないとダメなんだって……」


荒野を馬よりも早く駆け抜ける旅人……。響きは格好いいが、結局は異常だ。それになんだか旅の醍醐味ってものを感じない。


「あぅぅ、すいません」

「北にしばらく行くと村があるようだから、そこで馬車を手に入れよう。ダメだったら、さらに北に少し大きな街があるからそこでなら手に入るはずだ」


「ワタクシがスキルで馬車を作れれば、良かったんですが……」

「「絶対ダメだ!」です!」


 シズカのユニークスキル『残念な一張羅パーフェクトオートクチュール』で、これまでもいくつかの作品(・・)をシズカは作っている。しかし、やっぱりというか残念というか、とても常人向きではないキワモノばかりだ。

 例えば、握力が倍加する手袋は着用者の手を食べる。姿が消える帽子は内部から強力な酸を出す。つまり、姿が消えている間に身体も溶けてしまうわけだ。


「でも武器が作れましたので、ひょっとしたら……」


 そう、今シズカの横に立てかけてある武器はシズカが作った。全て何かの金属で出来ていて重そうな頭に細い一メートルほどの柄が伸びた、いわゆるハンマーだ。


 この『不壊痛塊槌(ピコピコハンマー)』は、とにかく頑丈で壊れない。

 しかし、相手に与えたダメージと同じ(・・)ダメージを使用者に与えるという、また馬鹿げた能力なので異常な防御力を持つ『怨者の冥途服(アキバラブソディ)』を着たシズカだからこそ、なんとか使える武器なのだ。

 ちなみに普通の剣や槍なども使わせてみたのだが、シズカはなんでも力任せに振るうので、ほとんどすぐに壊れてしまっている。

 逆に言えば現状、これしかシズカが使える武器は無いのだ。


「でも、あれ以来イメージしても武器は作れてないんだろ?それに、乗った人を食べる馬車とかが出来たら大変だから止めとこう」

「なっ!……はぁ……わかりましたわ」


 そんなやり取りをしていると、ふとアイリが持っている装備品が目に付いた。


「武器か……俺は師匠のこの剣があるからいいけど、アイリにはいずれきちんとした武器を何とかしなきゃ」


 アイリの今の武器はシズカが折った剣の刃を、『冥府の森』南にある『失われた楽園』に生えている『伸縮樹』という木で作った、長柄の先に縛って付けただけの長槍と森に落ちていた短剣のみだった。


「私はシンリ様が作ってくれたこの槍、気に入ってますよ!」

「そうは言っても、これから冒険者として各地を回り、どんな強敵と戦う事になるのかわからない。特にアイリには、俺みたいな『加護』があったり、シズカみたいに『不死』って訳じゃないんだから、しっかりとした武器装備を持っててほしいんだ」


「わ、わかりました。よろしくお願いします!」


 その夜俺達は、しばしの別れを惜しむように、みんなでクロに寄りかかるようにして眠った。

 ……森に投げ込まれ、クロに襲われそうになったところを師匠に救われ、どうにか今日まで……そんなことを思い出しながらクロを撫でる。


{あら、感傷に浸っているの?気持ち悪い。ふふふ}

(ミスティか、いいだろ今夜くらい)


{まあ、シンリと決して離れる事の出来ない私は、これからもなーんにも変わらないんだけどね}

(……離れたいのか?)


{バカね!これから物語が始まるんじゃない。こんな楽しそうな(トコ)、離れてあげないわよ!}

(はは。そういえば師匠が、俺が十二歳でミスティと契約した時、これほどの精霊を当時の俺が屈服させられるわけがないって言ってたけど……)


{あら、バレてたのね。そうよ私シンリについて行きたくてワザと負けたの。その方が面白そうだったから。それにハズレだったとしても格下なら、いつでもこちらから契約を無効に出来るからね}

(ぐぬ……)


{でも驚いたわ。シンリがあっという間に私を追い抜いて、さらにこんな高みに達するなんて。やっぱり、私の目に狂いは無かった!}

(いい師匠が、いてくれたからな……)


{そうね、あの()も本当に異質。それこそ一国を統べられるほどの器}

(ああ、生きてたら(・・・・・)、そんな未来もあったかもな……)


{でも、シンリはそれ以上の器よ!それこそ世界を統べるほどの……}

(まあ、そんなの俺はあまり興味が無いな)


{ふふふ、それもシンリよね。明日からの旅が楽しみだわ!私はシンリの側にいながら、この森の事も見える。クロ達の事も、それとなく見守ってあげるから安心しなさい}

(ありがとう。じゃあ、おやすみミスティ)


{おやすみシンリ}


そう言ってミスティの意識が深く沈んで消えると、僕もそのまま眠りに落ちた。

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