夜の宴
あれから俺達は今後の方針を話し合った。
長期の旅になるが、セイラとオニキスは王都に残ってもらう事になる。オニキスに近所の同年代の友達が多数出来ている事も理由だが、密かにダレウスとセイラの進展を狙ったシズカの策略でもあった。
ラティに関しては美味しい料理を毎日食べたい女性達からの同行への強い要望があったのだが、道中『冥府の森』に立ち寄る予定である為危険であるとの判断から、やはり留守番組に入ってもらった。
いざという時は、俺の転移能力で連れて来る事が可能だという事で皆を説得する。
ラティの料理と言えば、彼女は今セイラ達と一緒に厨房に篭って忙しく調理を頑張ってくれている。
今日、我が家の庭を使いダレウス達ギルド関係者と迷宮付近で活動していたガゾム達親衛隊の面々を招いてシンリの帰還と迷宮到達階層記録更新の祝いの宴を行うからだ。
会場となる庭ではシズカの指示の元、数人の[骸骨の騎士]達がテーブルや椅子を運んで忙しなく動き回っている。シズカは彼等に執事服を着せ、宴の間も給仕を手伝わせると言っていたが、流石にそれは遠慮してもらった。
その夜、透明化したガブリエラが操る幾つもの光球が宴の会場を明るく照らし、テーブルにはラティ渾身の料理の数々が並ぶ。様々な飲み物も用意され準備は万端だ。
「おう黒、いやシンリよ来たぜ!」
最初に会場に顔を見せたのはダレウス。その後ろにはシルビアとギルド職員が続く。
ダレウスは俺への挨拶もそこそこに手に持った小さな花束を渡す為、セイラを探して何処かへ行った。留守にする期間の警備の問題もあるが何より俺自身、セイラには幸せになって欲しい。相手が元世界最強ならこれ程頼もしい相手も居ないだろう。
「兄貴御勤め御苦労様でした!」
まるでヤクザ映画の出所シーンの様なベタな台詞で現れたのは、ガゾムを先頭とした親衛隊の者達だ。
この日の為に新調してくれたのだろうか男性は黒の礼服(一部それが本職の方に見えてしまう奴もいるが)女性は黒のドレス姿だ。中でもシズカのファンはわかり易いな。当然全員黒のメイド服姿で来ている。
続いて近所の方々が入って来た。友達の姿を見つけたオニキスが走って行く。簡単な食事会だと言ってあったのだが、皆さん気を遣われたのか、いつもよりお洒落に着飾っている。
ちなみにオニキスもシズカお手製の黒の可愛らしいドレスを着ていて、今夜は主役級の輝きを放っていた。
来賓が揃い、全員に飲み物が行き渡るとシズカが立ち上がり内区城壁を背にした簡単な壇上に上がる。
今夜のシズカはいつもの『怨者の冥途服』では無く、彼女お手製の新作メイド服だ。いつもの腰から下がふんわりと膨らんだデザインと違い、新作はやや身体のラインがくっきりなマーメイドライン。随所にあしらわれたレースが華やかさを演出している。普段は地面に着く程のツインテールを上品に結い上げて纏めたその姿は、少女の姿のそれでありながら妖艶ささえ感じさせる。
シズカの挨拶が済むと、俺が簡単に挨拶した後、乾杯の音頭をとって宴が始まった。
「シンリさん改めて、記録更新おめでとうございます」
そう言って声を掛けて来たのはシルビアだ。銀を基調とした落ち着いた雰囲気のドレス姿だが、そこは流石に王女様。滲み出る気品と優雅さは控えめに装っていても隠せない。
「彼女達は、昼間帝都に向け出発しました。宴に参加出来ず随分悔しそうでしたよ。ふふふ」
彼女の鬱憤晴らしが進みだした事で機嫌はかなり良くなった様子。
ちなみにダレウスは端のテーブルでセイラと歓談中だ。主役に一言も無いとは盲目にも程が有る。
せっかくの宴、透明化して仕事だけさせるのは偲びない。これだけ人が居れば目立たぬだろうとガブリエラにドレスを着せ、翼を隠して紛れ込ませた。
しばし雰囲気を楽しんだ彼女だったが、俺ですら時折見惚れるその美貌が、人混み程度で隠せる筈も無く、親衛隊の中でも特に画力の高い者の一団、シズカ曰く『カメラ小僧隊』に発見され渋々モデルとなっている。
何の因果かこの中の一人が、この夜のガブリエラの姿に偶々想像で翼を付けた絵画を描き、その作品『降臨せし天使』が高い評価を受け、一目見ようと遠方から人々が押し寄せようとは今描いてる本人ですら想像もしてないだろう。
いつの間にかシズカは、すっかり親衛隊の者達の心を掌握したみたいだな。ガゾム達一部の面々はシズカの指示で給仕係と化していた。
アイリは動き易いのがいいと言う理由で、ゆったりとして光沢のあるシャツにサブリナパンツ。もちろん上下黒だが胸に紫の花を挿し、髪は後ろに流していてシズカ曰く『ジゴロ風』だそうだ。意味が解らず本人は動き易いとご機嫌だったが、気のせいか今夜のアイリはよく女性に囲まれてる気がする。
その隣で年配の女性達にやたら世話を焼かれているのはツバキ。まるで振袖を腰までで切った様な上着に膝上までのキュロット、膝まである編み上げのロングブーツを履いている。更に目を引くのは椿の花の刺繍が付いた左目の眼帯。いずれも色は黒。ツバキのドレスのデザイン希望「主様で!」と言う無茶振りをシズカが形にしたものだ。ある意味俺のコスプレみたいだったが評判は上々の様で本人もご満悦だ。
会場の一角に明らかに他と一線を画す異様な集団が出来ていた。その中心にいるのはナーサとエレノアの様だ。ナーサは黒のチャイナドレス姿なのだが今はダスラ側の様で、何故か手に鞭を持っている。その後ろに居る新調した黒の着物姿のエレノアが、膝と両手を地面に付かせた男性の上に座っているのは、幻だと思いたい。二人の前に跪く男性陣にダスラが鞭を振るってるなんて俺は絶対見ていない。
そんなある意味カオスな楽しい宴は、日付が変わるまで続いたのだった。
 




