シルビアさんは御立腹(仮題)
現在行っています改稿作業次第で、変更の可能性が有る為仮題と致しました。
「「逆告訴おぉー?」」
翌日ユーステティア、ジャンヌ、シルビアの三人がシンリの屋敷を訪れていた。
内容は、まずは審議会自体の正式な白紙撤回。ちなみにシンリはビルゲールが独断で保釈として帰らせてくれていたのだが、これで晴れて正式に無罪放免となる。
「良かったですねお兄様」
大人数での対応もどうかと思ったので同席させたのはシズカだけだ。最初に聞きたかった報告が聞けてかなりご満悦な様子。
「帝都在住の密偵に内情を調べさせましたが、今回の審議会の決定はあまりにも不自然なんです!」
そう怒り心頭で話すのは、目の下に隈を作ったシルビアだ。
彼女によればいかなS級冒険者だとて、ここまで異例の早さで捕縛、審議会迄の流れが実行される事は有り得ないらしい。それもこれもガイウスの家が帝国の名家『シュトラウス家』だと言う事が大きく関連している様なのだ。
代々、帝国に於いて優秀な将軍を輩出して来た『シュトラウス家』は帝国で押しも押されもせぬ絶対的な地位を持つ。ガイウスはそこの三男で、元将軍だった長男は軍事顧問、次男が長男を継ぐ形で将軍に抜擢されていた。
ちなみにあの戦いを見ていたガイウスの連れた冒険者の一人がガイウス暴走の件を話し、その真偽が確認された為、魔剣破壊は止む無しとの結論が正式に出されている。
「シンリ様の正義は、改めてこの真偽官ユーステティアの名に於いて証言致します!」
「師匠は正しかった!本当にすみませんでした!」
あの後面談などで数回会い、俺と普通に話す様になった二人がそう言うと、シズカが『師匠』に反応して睨んで来た。
…いや俺は本当に何もして無いんだが。
「本来二ヶ月以上かかる筈の審議会の強引な開催決定、加えてあちら側の担当真偽官への偽証の強要疑惑。恐らく審議員の者にも圧力がかかったのでは無いかと。こちらに非が無い以上疑わしいのは全てあちら側です」
俺の一件でストレスが溜まっているのだろう。いつも冷静なシルビアがここまで露骨に嫌悪感を表わしたのは見た事が無い。
俺もあれからシルビアが王女である事を聞いていた。では何故ギルドで秘書などしてるのかとの問いにシルビアは城が窮屈だからと何でもない様に答えたが、ダレウスが側に居ればまあそれはそれで王都で最も安全な場所なのかも知れない。
「ですから今度は王国側がシンリさんを擁護します!ガイウスを逆に告訴して糾弾しましょう!」
とまあ、ここで俺とシズカが冒頭の言葉を口にするのだが…。
「私とジャンヌちゃんは、先に帝都に戻り真偽院に報告します。恐らくは、真偽官を真偽会にかけると言う異例の事態になる筈です」
「私の『正義』を弄んだガイウスの野郎に一発打ち込んでやらなきゃ気が済まねえ!」
何とも妙な盛り上がりを見せる三人に、今聞かされたばかりの俺達はついて行けずにいた。そんな俺達に構わずシルビア達は話を続ける。
「相手に付け入る隙を与えない為にこちらは正規の手順に沿って、審議会の開催を申請します。恐らく早めに話が纏まっても二か月位は掛かるでしょうが、シンリさんには別件で先に帝都に入って欲しいんです」
「別件?」
「はい。今回の件で私とダレウス本部長はシンリさんを目立たせない様に今の地位に留め置くのも問題が有ると判断しました。そこで王国はシンリさんのS級昇進を正式に認可する事に決定しました。S級に成れば今回の様な戯言に付き合う機会は減ると思いますよ」
「おめでとうございますお兄様!」
それを聞いて一番に反応したのはシズカだった。立ち上がって両手を胸の前で組み羨望の眼差しを向けて来る。俺は、そっとシズカを制して座らせると話を進める。
「ですが俺は御前試合をしていません。ジャンヌに聞いた話だと確か試合を国王に見せる必要があった筈ですが?」
「ダレウスが勝てないシンリさんが、今更誰と試合をすると?お父様は確かに見たがっておられましたが、そこは既に説得済です。ただ帝国側はそうはいきませんので、帝都に向かうこの二人に申請の書状を持たせます。それから対戦相手の選抜が行われますので、帝都での御前試合は早くて一か月後位かと思います」
「それまでに帝都入りして欲しいと言う訳ですね」
そこまでの話を聞いて考えを整理しているとシルビアは徐にシズカに向きを変える。
「それとシズカさん、貴女も今回S級冒険者の認定を受けて頂きます!」
「わ、ワタクシが?何故ですの?」
突然自分に話を振られ、たった今までうっとりと俺を見続けていたシズカが、驚いて勢いよくシルビアに向き直った。
「私の口からは何とも。ですがこれはダレウス本部長の強い要請があっての事です」
ダレウスはああ見えて俺達を除けばこの世界最強に最も近いであろう男だ。その本能的な部分でシズカに秘められたものを感じ取り、ある種俺以上に危険だと判断したのかも知れない。
「もちろんシズカさんも王国のお墨付きです。後は帝国でシンリさんと共に御前試合を行って頂く事で晴れて御二人共S級冒険者になれますよ」
お兄様とお揃い…と呆けた顔で連呼するシズカを余所に、それまでシルビアの話を二人でうんうんと頷きながら聞いていたユーステティア達が身を乗り出して来る。
「寂しいですが私達は『真偽院』から迎えの[飛竜]が来ますので、それで先に帝都に帰ります。帝都に着いたら真っ先に私を訪ねて下さいね!」
「師匠の配下の方々と剣を交える日を楽しみに、日々努力致します!」
そう言って二人は俺と握手を交わして、シルビアと共に帰って行った。
二人を見送った後厨房に行くと、そこには俺とシズカ以外の全員が集まっており机の上にはお茶とお菓子が並んでいる。
「俺達にもお茶をくれないかラティ?」
突然の俺の声に全員がびくっと身体を震わせる。そうなる理由が彼女達にはあったからなのだが、もちろんそれを俺はとっくに気付いていた。ラティからお茶を受け取り机の上のお菓子を一口食べる。
「さて、皆がエレノアの魔法で聞いていたのは知っている。そんなに硬くならないでくれ。俺達は仲間であり家族。別に隠したくて同席させなかった訳じゃ無い」
俺の言葉に全員が安堵しエレノアはやや気まずそうに微笑んでいる。
「今後の話を相談したいがここでは狭いな。リビングに行かないか?あとセイラとラティは全員分のお茶をもう一度淹れて欲しい。この美味しいお菓子も忘れずに!」
そう言って全員でリビングに移動した。
お読み下さる皆様は、素人でこれが処女作である自分にとって、先生であり師匠であり編集者さんであり、この作品と言う同じ話題を共有出来る友であります。
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そしてこの作品に一瞬でもアクセスして下さった全ての方に最大の感謝を!




