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朝 -1-
向かいのホームで。青天の月を見るその人は、電車の到着を知らせるチャイムが鳴り終わると、手元の小説へ視線を落とした。
今という時が、一日の中で最も勉強になる。
喫煙スペースにさえ冷えた朝霧を感じさせるこの時間、ホームに現れたクリーム色の電車には、夜を人工の光の下で過ごしただろうくたびれたスーツが一車両に三、四着見える。
会社のビルの中か、繁華街のネオンか。
そして彼ら彼女らは自然光の中で、腕を組みあごをうずめて眠る。
誰も降りないのはいつものことで、乗降ドアはあっさりと閉まり、電車はしっとり消えていった。
気ままな駅員が流すラジオが7時を知らせる頃には、この駅にも人は増える。
通勤通学、旅行、鉄道を撮りに、それなりの人数が行き来するのが常だ。
私もそのうちの一人になる。
その人もそのうちの一人になる。
私のいる喫煙スペースの引き戸が音をたてた。
ホームの和やかな空気と朝の活気を引き連れて、煙草を片手に足を踏み入れる男性。
煙をあびるまえにと、一度ネクタイを触ってから外へ出た。
私は喫煙者ではない。
ホームへ出ると妙に暖かい。