第三章
そこに立っていたのは予想外の人物である。
凍りついた表情をしたのは田宮麗子教諭だった。
「どうして、貴方達がそれを知っているの」
こういうときに口達者で、社交辞令に長けた綾小路が役に立つ。
「ただ、八番目がある、という噂を聞いたもので」
中学生にでも感じられる、妖艶な空気を漂わせた足を絡ませ、田宮教諭が口篭る。
「どうしても知りたいんです、先生」
柳沢までも便乗し、請う。
すると一瞬間、どこか遠くの歓楽街を羨望するような目を見せるや否や、虚空に包まれた曇った双眸になる。その下端にある口から零れた言葉は、泡のようであった。
「傘」
図書室に佇んでいた三人共々、すっとんきょうな顔になった。
「え?」
聞き違いかと思い、自らが聞く。
「田宮先生、今何ておっしゃったんですか?」
雷に打たれたかのようにはっとなり、首を振る。
「貴方達、今のは聞かなかったことにして。先生なんか疲れてるみたい。これから職員会議があるから、もう今日はおいとまさせて頂戴」
黒塗りのヒールで床の木目を踏みつけ、逃げるように西側にある扉へ駆け寄った。白衣をなびかせがら、閑散とした廊下へ霧に溶け込むようにいなくなる。