庭にて
――レディンが生まれてから1年、いやもうすぐ2年が経とうとしていた。
「レン!こっち来いよ」
「あっ、待ってよアス兄」
普通の人間より成長が早い龍族の血が混ざっているため、まだ2歳に満たないが、もう発音はハッキリしている。それに、体型の方も5歳並みの大きさになっている。
家(…と言うよりは城と言った方がしっくりくる)の広大な庭で、レディンの先を3歳上の兄、ジーアスが走っていく。レンというのはレディンの愛称だ。ジーアス、レディンと続いてエドガード、シャルロアとその付き人となっている。
「まったく、とんだわんぱくな兄弟だな…」
「あなたの子なんだから当たり前よ、エド」
「…どうだかな」
エドガードは苦笑いをした。
今日は庭でピクニックをする事になっていた。この日は、レディンにとって初めて外に出ることを許された日だ。それまでは一切外に出ることは許されず、広い家の中での生活だけがレディンの世界だった。
許されない理由として、外に出ると常時守れなくなるというのがある。龍族、エルフは、ほかの種族に狙われやすい…ということではなく、龍族の子どもは自らの力で暴走しやすいということから、常に親の目の届くところでの生活を強いられる。そしてもう大丈夫となれば、このように家族みんなで過ごすのだ。
「こっちこっち!」
ジーアスが止まってこっちを振り返り、手招きをしている。
「ねぇ!どこまで行くの?」
「行くまでのお楽しみだっ!ねっ父さん、母さん」
「そうだな。でも、景色が一番良いところで、父さんが母さんにプロポーズしたところ、とだけ言っておこうか」
「そうだったわね。懐かしいわ〜。もう何年前の事かしら…」
「おっと…こんなことを言ってもレン達にはまだ早いな…」
いつの間にかジーアスとレディンに追いついたエドガードは、レディンたちの頭を優しく撫でた。
(そうなんだ…。でも早くないんだけどな…)
『しょうがないよ。君が"誠也"としての記憶を持って転生している、なんて知りっこないんだから』
(っ!いきなり出てくんなっ!…それにしてもほんとに生まれ変わってんだなって実感させられるよ…もう2年ぐらい経つのにな…)
『そうそう!慣れてほしいもんだよね〜』
(母さん…元気かな……)
『…あれ…無視ですか…?』
「……ン…レン!…どうした?」
「はうわっ!!」
(やべっ!)
(不覚にも)天死との会話に集中していたため、家族の声を聞いていなかった。ジーアスの呼ぶ声に驚いて飛び跳ねてしまったレディンは、それに驚いたジーアスたちに心配の色を含んだ目で見られた。
「はう……え?って大丈夫か?意識飛んでなかった?」
「あぁ、うん。大丈夫だよ!だってどんなとこだろうって思ってたらつい…」
「そんな顔してなかったと…なぁ良いけど」
「…心配かけてごめんなさい…」
「いや、平気なら良いんだ。それに、レンにとっては初めての外だしな。無理もないな。っと…」
エドガードはかがみ込むと、レディンとジーアスを片方ずつ腕に抱え上げた。
サイナスの空は地球の空みたいに青い空が視界に広がっている。違う点が見つからないくらいそっくりだ。
(2年ぶりの外…懐かしいな……)
『そっくりだもんね〜。ここって』
(…?天死がちかいところを選んだんじゃねぇの?)
『そこはご想像にお任せしまーす。っとそれより、後で複数の方向からも対応できるように練習しようか…。別に変な目で見られるのを気にしないのなら良いんだけどね〜。あれだと誰だってどうした?ってなると思うから』
(…そうだな…。…の前に思うんだが、天死が喋んなきゃ良い話しじゃねぇのか?)
『律儀に答えてくるレディン君に言われたくないね〜。だって〜…』
――云々
(………………)
『…おーい、レディン君〜?』
(…何だよ。律儀に答えなきゃ良いんだろ?だから答えなかったんだけど?)
『…それはそれでつまんないね…』
(…それで?)
『うっ…ご、ごめんよ。前言撤回!反応してくんないとむなしいよ…悲しいよ…』
押しに弱い天死であった。