1. 夏休み
6章『黒騎士の侵攻』
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・サービス一時停止のお知らせ・続
『VRMMOゲーム・ナインスオンラインをプレイしていただいている皆様へ。今回の致命的な不具合に対し、現在原因の究明を進めております。お客様にご安心してプレイしていただくため、もうしばらくお時間をいただきますようお願いいたします。皆様には大変なご迷惑をおかけしておりますが、何卒ご了承ください』
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ナインスオンライン・意識不明者まとめ
確定 (運営報告)
アルザスサーバー所属
『アクライ』『ロン』『ガスキンズ』
ほぼ確定
アルザスサーバー所属
『ファナ』
:注意
・すべてアルザスサーバーに所属。それ以外は共通項が見当たらない。
・7/10に開催されたA級トーナメントにて、被害者の一人『アクライ』が活動している姿が目撃されている
・他にも数人が被害にあっている?(ソース不明)
:コメント
「何が起きた?」
「誰かが"アカウント乗っ取り"をしているじゃないのかというのが有力」
「あのファナに勝ったんだろ? タダ者じゃあないぜ」
「俺、インペリアルブルーに所属しているけど、どうも上層部は犯人に心当たりがあるらしい」
「あの噂が本当だったってのは、やっぱりというかなんというか」
「黒騎士に殺されたら、現実世界でも死んでしまうって奴か。あんなの信じてる奴いたの?」
「いたから噂になったんだろ」
「だが、実際ファナはアクライに化けた黒騎士にやられたせいだってきいたぜ」
「あほらし。それよりさっさとサーバー再開してほしいわ。いつまでメンテしてんの?」
「時間かかりすぎだな」
……
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件名 ☆☆オフ会のお知らせ!☆☆
送信者 Xion
受信者 Wooden
本文
参加者の皆様へ。下記の通り、オフ会の詳細が決まりましたのでお知らせします。皆様とお会いできる日を楽しみにしています。
会場 ビストロマンマ(場所は下記URL参照)
日時 7/20 13:00~18:00
会費 一人4000円
参加者一覧
Xion☆
Nikita☆
Gargan
Caska
Konstanz
Baloth
Vol
Docro
Wooden
Seuiti
Serith
Rize
(☆は幹事)
……
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件名 Re. 待ち合わせ
送信者 Cecil
受信者 Wooden
本文
了解した。仕事が終わってからになるから、21時過ぎに予約をとっておく、場所は前に言ったところだ。『天野』でとっておくから、その名前を訪ねてくれ。
……
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「柳楽ー。来たぞー」
起動させていたメーラーを閉じた時、階下から間延びした声が聞こえた。和人はそのままパソコンの電源も切り、用意しておいたスポーツバッグを肩にかけ、部屋を出た。
ナインスオンラインがサービスを停止して、すでに2週間が過ぎた。その間に和人達が通う桜実高校は終業式を終え、夏休みに入っている。しかしナインスオンラインの公式サイトでは原因の追究に手間取っているという謝罪の掲示が続き、いまだにサービス再開の見通しはたっていなかった。
和人がのろのろと階段を下り、玄関のドアを開けると、まだ低い位置にある太陽に目が眩み、おもわず手で顔を覆ってしまった。
「お、出てきた」
「おはよう。柳楽君」
「……ども」
手をどけると、目の前には背の高い茶髪の男と、柔らかな笑顔の女性が立っていた。和人の通う高校の卒業生である、下村博と坂本翠佳だ。
和人は挨拶もそこそこに、玄関前に止めてあった軽自動車のトランクを開き、スポーツバッグを押し込んだ。
「安全運転でお願いしますよ。先輩」
「あはは! まあ任せとけって」
「ほら。早く早く。次は莉世が駅前で待ってるんだから」
翠佳が急かし、三人は車に乗り込んだ。
◆
「おはようございます! よろしくお願いします!」
駅近くのコンビニの駐車場で合流した莉世が、元気よくあいさつをしてきた。下村が手をひらひらと振りながら応える。
「まあ、都内までならたいした距離じゃないよ。2時間あればつくんじゃない?」
「そうだけど、運転があんただから心配なのよ」
翠佳が彼の隣で腕を組みながら、あきれたように言う。聞けば下村は、先日VR機を用いた教習システムで普通免許をゲットしたばかりで、長距離運転と高速道路は初めてだという。
その話を聞いて少し不安になった和人だったが、結局は心配しても仕方がないと諦めることにした。隣でぽかんとしていた莉世に声を掛ける。
「荷物、入れるぞ」
「あっ、ありがとう」
トランクを開き、和人は莉世の真っ白な旅行鞄を持ち上げて放り込んだ。和人はその鞄が自身のそれよりも、随分と大きなサイズであることに気がついた。
「一泊二日だろ? なんでこんな大荷物になるんだよ」
「だってー。楽しみなんだもん。私東京行くの初めてだし」
そう言って、莉世は嬉しそうに車の後部座席に乗り込んでいった。和人もそれに続いて、携帯パネルを取り出し座った。
「柳楽君。運転中に文字を読むと、気持悪くなるよ?」
「別に、酔ったことはない」
「本当?」
莉世が心配げなまなざしを向けてくる。長い栗色の髪をサイドテールにし、短い袖の白ワンピースの上から日差し避けのカーディガンを羽織っていた。先ほどまでは小さめの麦わら帽子をかぶっていたが、車に乗ったときに脱いだようだ。彼女はそれを両手で持って、汗ばんだ肌を扇いでいた。
「まあ、気分悪くなったらやめる」
「うん。無理しちゃだめだよ」
2人がクーラーの効いた車の中で待っていると、下村と翠佳が戻ってきた。コンビニで買ってきた飲み物を和人達に放り投げると、下村が陽気な声を上げる。
「それじゃ行きますか。出発進行ー」
「おー!」
後部座席の莉世が楽しげにそれに呼応し、軽自動車が走り出した。彼らの目的は、東京で開かれるというオフ会だった。




