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Zwei Rondo  作者: グゴム
一章 迷い森の白兎
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9. クリムゾンフレア

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 もし初心者狩りの犯人がクリムゾンフレア内に居るとすれば、そいつは自分と同じギルドの新人に手を出したことになる。一方でクリムゾンフレアは、身内をPKする事は絶対にありえない――それは良く知られている事実だ。

 ヴォルが態度を変えたのはこれが理由だった。睨みつける彼に対して、ウドゥンが淡々と言う。



「街で気になる噂を聞いた」

「どんな噂だ」

「クリムゾンフレアはファナがリーダーになって、歯止めが効かなくなっている――」

「そんなこと無い!」


 今度はウドゥンの隣に座っていたアクライが大声を上げた。そしてのしかかる様にして掴みかかってくる。


「ファナ姉様は立派な方だ! いくらウドゥンでも、姉様を侮辱したら許さない!」


 半分馬乗りになりながらウドゥンの胸倉を掴むアクライ。その顔は怒りで真っ赤になっていた。


「俺に言われても困る。実際に噂されてるんだからな」

「全く、迷惑な話だな」


 アクライに怒るタイミングを奪われてしまったヴォルが、少しばつが悪そうに言った。そして一度、大きく息を吸ってから続ける。


「俺達が初心者狩りなんてダサい真似、する訳がないだろうに」



 クリムゾンフレアはPKを容認するギルドだ。アルザスサーバーでそれを知らない者はいない。ただ実際にクリムゾンフレアの連中がPKをすることは、一般プレイヤーが噂するよりはるかに少なかった。というのも彼らはPKについて、いくつかのポリシーを持っているからだ。

 その中には『身内をやらない』や『PKは当人同士の問題』の他にも『ダサイPKはしない』というものがある。

 これは明らかな実力差の相手にPKを仕掛けたり、人数差をもって相手をいたぶるようなPKをすれば、それは連中にとって"ダサイPK"という事になり、行った者は他のギルドメンバーから相手にされなくなってしまうものだ。その境界がひどく感覚的な物なので、ウドゥンもどこからが"ダサい"のか分からないが、とにかくそういう決まりだった。

 これはつまり、クリムゾンフレアは戦闘ギルドであってPKギルドでは無いことを意味していた。彼らには最強の戦闘ギルドとしてのプライドがあるのだ。


「俺だってヴォル、お前がエリアリーダーの頃のクリムゾンフレアなら、初心者狩りも身内をPKするのもあり得ないと思ったさ。ただ、今のリーダーはあのファナだろ。あいつはギルド運営なんか出来ない女だ」

「……っち」


 諭すように言うウドゥンの言葉に、ヴォルは怒るでもなく、ただ舌打ちをして答えた。


「……まあな。ギルド運営は今までと同じで、ほとんど俺がやってるよ。ファナの奴はお前の言う通り、全てのギルド運営を放棄して、今日もスキル上げに精を出しているはずさ」

「ヴォル兄!」


 アクライがウドゥンの胸倉を掴んだまま、今度はその牙をヴォルに向ける。

 そしてまさに口を開いて叫ぼうとした瞬間、ウドゥンがアクライの頭をぽんと軽く叩いた。


「やっぱお前らは関係ないか」

「……え?」 


 その言葉の意味が分からず、ポカンと口を開くアクライ。その隣でヴォルは、いぶかしむ様にウドゥンを睨みつけた。


「……俺とアクライを疑っていたのか?」

「そんなことは無いさ」


 言いながらウドゥンは、体に乗っかっていたアクライを放り投げる。振り上げた拳を下げられず、不完全燃焼といった様子のアクライが、置物のようにころりとソファへ転がった。

 アクライがすぐに立ち直って聞いてくる。


「そんな。どういう意味だよ!」

「だから、探りを入れただけだ。ダメ元でな」



 ウドゥンは2人に、ある程度怒りを買うことを承知で、シオンから聞いた噂を確認することにした。そして予想通りの反応に安堵することになる。今の反応からは、少なくとも2人は今回の件に無関係のようだからだ。

 ウドゥンの意図に気がついたヴォルが、愉快げに声をあげて笑った。


「くはは! まんまと乗せられたわけだ。さすがは《ナインスギルド》――『トリニティ』の【智嚢ウィズダム】だな」


 その言葉に、今まで余裕を見せていたウドゥンの顔色が変わった。眉を潜めて唇を真一文字にしてしまう。そして不愉快げな様子で、吐き捨てた。


「……その呼び方はやめろ。トリニティも、今は死んでいる」


 ヴォルは「どうだか」と肩をすくめ、したり顔で笑っていた。



「……だが俺とアクライに探りを入れるなんて、よほど当てが無いんだな」

「まあ……な」


 ウドゥン自身も、本気でクリムゾンフレアに初心者狩りの犯人がいるとは思っていない。ただシオンの言葉にも一理あると思い、情報収集もかねてフレンドであるヴォルを頼りにきたのだ。

 そして情報収集の一環としてヴォルとアクライに探りを入れた。それは予定通り空振りに終わったが、彼は特に焦ってはいなかった。


「まあ、この偽黒騎士事件はもうじき解決されるがな」

「どういう意味だ?」

「ガルガンがPKK隊を結成したんだよ」

「ガルガン……」


 隣に居たアクライが少しおびえながらその名を復唱したが、特に気にせずにヴォルが続ける。


「【アルザスの盾】が動いたのか。それなら確かに連中の正体が割れるのは時間の問題だな」

「あぁ。お前らクリムゾンフレアも絡んでないみたいだからな。ガルガンの旦那なら――」



――――


「昨日の連中、今日も同じ所でウサギを狩っていやがったな」

「学習能力ねーのか?」

「相変わらずリーダーっぽい男だけは少し使えるけど、他は雑魚だった」

「ぎゃははは! 雑魚乙ってな!」

「そういえば、さっき奴からメッセージがあってな。どうやらガルガンがPKK隊を結成したらしい」

「やっとか。いつ襲えばいいんだ?」

「PKK隊の動きが判明次第、また時間と場所を教えるってさ。ガルガン以外のメンバーは前PKした雑魚共らしいから、この人数で掛かれば楽勝だ」

「ぎゃははは! いいな。楽しくなってきたぜ!」


――――



「……どうした。ウドゥン?」


 目の前のヴォルが、突然言葉を詰まらせたウドゥンを不思議そうに見つめていた。


「あぁ。悪い……ガルガンの旦那なら、初心者狩りをするような連中に負ける訳が無いからな」

「確かに。あのクソ堅いガルガンが肉壁をやるなら、戦闘特化プレイヤーを大量に用意してもなかなか落ちないだろうぜ!」

「私、あの人苦手……」


 アクライがその小さな体をさらに小さくした。彼女の場合はガルガンと戦う以前に体型が違いすぎて、並ぶとほほえましい状況になってしまうのだ。

 今までも何回か蛇に睨まれた蛙状態のアクライとガルガンのやり取りがあったことを、ウドゥンは思い出していた。


「じゃあ、その事件はガルガンに任せとけば終わりだな。犯人が分かったら、一応俺にも教えろよ」


 ガルガンがPKKに乗り出したと聞いて、ヴォルはもう事件が終ったかのように陽気に笑っていた。元々、朝から晩までスキル上げとPvPの事しか考えていない連中だ。この話も、最初からあまり興味が無かったようだ。


「それよりウドゥン。この前俺達が7thリージョン・アシーノ無限砂漠を攻略した話は知ってるか?」

「ギルドランクが8になったってのは知ってる。だが詳細までは聞いてないな」

「くはは! やっと攻略できたぜ。まあ順に話してやるよ。俺達の武勇伝をな。まずはアクライがアリジゴク型のモンスターに捕まって半泣きに――」

「なんでその話からするの!? やめてよヴォル兄!」 

「詳しく頼む」


 慌てるアクライの口をふさぎ、ウドゥンは先を促した。






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