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Zwei Rondo  作者: グゴム
五章 深紅の戦乙女
87/121

21. お知らせ

21


「ファナ!」


 広場でアクライが異常な雰囲気でファナに襲い掛かった瞬間、ウドゥンの隣にいたヴォルが飛び出した。それを見て、ウドゥン達も慌てて観客席の最前列に向かった。

 ヴォルが人ごみを掻き分けて最前列に辿り着くと、そのまま両手を突き出す。


「……進入禁止のガードが無くなってる」

「なんだと?」


 追いついたウドゥンが、ヴォルの呟いた一言に驚愕する。

 本来トーナメントの戦闘中は、妨害を阻止するために観客席と広場は目に見えない透明なガードによって遮断されている。それが無くなっているといることは、つまり広場では現在戦闘が行われていないことを意味していた。

 状況がまったく把握できない彼らだったが、とにかく異常事態が起きていることだけは理解できた。


 ヴォルは躊躇せずに手すりを乗り越えて広場に下りていった。ウドゥンが慌てて声を上げる。


「セウ!」

「分かってる」


 セウイチがパネルを操作し、武器を取り出しながらヴォルの後を追う。あのアクライは尋常ではない――それはウドゥン達にも分かっていた。


「ウドゥン様、我々も行きます」

「とりあえず援護する……気をつけろよ」

「はい」

「任せておけ」


 キャスカとガルガンもまた広場に降りていった。通常進入禁止である客席から広場に降りていく彼らの姿を見て、ようやく観客達も異変に気が付きざわざわと騒ぎ出した。


 ウドゥンはクロスボウを構え、狙いを澄まして矢を放った。牽制の為に、とにかく数を重視して連射された(ボルト)が、放物線を描いてアクライに襲いかかる。


「……」


 攻撃の気配に気がついたアクライは、その攻撃をくるくると踊るようにかわしてしまった。その矢の雨が止んだ直着、アクライの元に辿り着いたヴォルが、巨大な両手剣(ツヴァイハンダー)を手に襲いかかる。


 キン――


 澄み切ったガード音が響いた。ヴォルの全力の斬撃まで、アクライはいとも簡単に防いでしまっていた。またしても曲芸の様なインパクトガードによって。


「っく」


 完璧なガードによってヴォルが大きくひるむ。アクライはそんな彼に向け、ゆらりと身体を傾けた。

 しかし続けて追いついたセウイチがそれを牽制する。


「はぁ!」

「……」


 アクライはセウイチの攻撃を素早く回避した。そして華麗なステップを踏んで踊るように跳ねると、彼らから大きく距離をとってしまった。

 そんな彼女を、セウイチは両手に大剣と大斧を構えたまま睨みつける。


「……お前は、アクライなのか? リズなのか? それとも……」

「……」


 アクライはそれには答えず、少し戸惑った様子できょろきょろと周囲を見渡していた。そこにはセウイチとヴォルの他に、追いついたガルガンとキャスカもまた武器を手にアクライを睨んでいた。さらに異変に気がついた数人のプレイヤーも、続々と広場に降りてきている。すでにアクライは円形闘技場(コロセウム)の中心で、包囲されかけていた。


「あっ……」

 

 突然、アクライは片方の小太刀を取り落とした。そして自身の掌を見つめると、わなわなと小刻みに震えだしてしまう。


「……?」


 セウイチ達が怪訝な表情を見せる。彼女が何をしているのか、まったく分からなかったからだ。

 しかしアクライはしばらく放心するような仕草を見せた後、脈略も無くくるりと背を向けてしまう。そしてそのまま、一目散に円形闘技場コロセウムの出口へ駆け出してしまった。


「なっ……待て!」

「……」


 セウイチを筆頭に皆が追いかける、しかし彼らが駆け出した瞬間、アクライは無言のまま、突然踵を返して飛び掛ってきた。残ったもう一つの小太刀を手に、彼女は先頭のセウイチに襲い掛かってきたのだ。


「っちい!」


 セウイチがそれを迎撃しようと、反射的に手にしていた大斧を振り上げる。アクライは股下から襲い掛かるその大斧にむけ、自身の小太刀を突き立てた。


 キン――


 澄み切った金属音を鳴らして、小太刀と大斧はぶつかり合った。完璧なタイミングで接したその衝撃は、すべてアクライの小さな身体を弾き飛ばすエネルギーに転換される。

 その結果、アクライの小さな身体は不自然なほど初速で弾き飛ばされていった。


「ばかな!」


 ガルガンが驚きの声を上げる。アクライは弾き飛ばされた反動で、気持ちが悪いほどに勢いよく飛び上がったみせたのだ。その大ジャンプは広場に降りて来ていた周囲のプレイヤー達の頭上を飛び越え、さらに広場の壁さえも飛び越えてしまい、観客席へと届いてしまうほどだった。

 そして観客席に着地した彼女は、そのまま人ごみの中へと紛れていった。


「そんな……」

「くそ!」


 慌てて追おうとするセウイチ達だったが、無駄だった。アクライはそれっきり、姿を消してしまったのだ。


 そしてその日のA級トーナメントは、優勝者無しで幕を閉じた。






『ナインスオンラインのサービス一時停止のおしらせ


 平素、ナインスオンラインをご利用の皆様へ。

 本日7/10(水)、アルザスサーバーで発生しましたトーナメント進行上の不具合を調査した結果、ゲーム進行について大きな妨げとなる不具合である可能性が判明しました。またこれと関連して、アルザスサーバーにてプレイしていたお客様の数名が意識不明となっている事態を確認しています。

 ナインスオンライン運営本部は、これらの原因を特定するまでサービスの一時停止の処置を取らせて頂くことに決定しました。

 できる限り早いサービスの再開を目指しますので、何卒ご理解の程をお願いいたします。 』






(五章・『深紅の戦乙女』 終)





 

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