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Zwei Rondo  作者: グゴム
五章 深紅の戦乙女
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19. インパクトガード

19


「アクライちゃん、すごーい」


 リゼはアクライが実行した、小太刀の切先を突きつけるという華麗なガードに思わず声をあげた。ガードが得意だと思っていた自分だが、あのようなやり方でファナの攻撃を受け止めるのは難しいだろう。リゼはそう感じていた。

 すると突然、隣に座っていたウドゥンが立ち上がった。


「ばかな……」


 彼はひどく動揺していた。信じられないものを目撃してしまったように、大きく目を見開いていたのだ。


「ウドゥン、どうしたの?」

「……インパクトガードだ」

「えっ?」


 ウドゥンは戦闘が行われる広場を見下ろしながら、そう一言呟いた。

 敵の攻撃をタイミング良くガードする技術はジャストガードと呼ばれ、広く知られている技術だ。しかし『ガード』というシステムにはもう一つ、あまり知られていないシステムがあった。


「インパクトガードって?」

「……敵の攻撃のタイミングに合わせて、こちらも攻撃を合わせることで衝撃を倍返しにするカウンター技だ」

「えっと……?」

「簡単に言えば、攻撃に対して攻撃をぶち当てるガード方法だ。例えばそこのヴォルが得意なガード方法でもある」


 ウドゥンは少しこわばった声でそう言った。リゼが少しヴォルのほうに顔向けると、彼もまたひどく驚いた様子で目を見開いていた。

 リゼは首をかしげる。


「えっと。なんでそんなにおどろいてるの? アクライちゃんなら、それ位できて当然じゃないの?」

「……インパクトガードってのは対人戦(PvP)だとほとんど使えないシステムなんだよ」

「使えない?」

「あぁ。普通はPvPだと、大振りなトリックに対するカウンターにしか合わせるくらいしかできない。それだけインパクトガードは発動タイミングがシビアなんだ」


 システムによるサポートを受けて発動するトリックは、強力なものが多い代わりに軌道やタイミングが限定的になるという弱点がある。そこを読みきって攻撃を当てることで、敵の武器耐久を削り体勢を大きく崩せるというのがインパクトガードの利点だった。

 しかしその反面、攻撃に攻撃を当てるという行為は高度な読みと精密な武器の扱いが求められるため、実際にPvPで使用されることは稀だった。


「ヴォルでさえ完璧なインパクトガードを入れられるのは、対人だとトリック発動時だけ、しかも状況はかなり限定される。それだけ難しい技術なんだよ。それなのに――」


 アクライはそれを苦も無く実行した。しかもトリックを使用せず、無造作に切りかかった【戦乙女ヴァルキリー】ファナの斬撃に、その小太刀の切先・・を突き入れたのだ。


 それは常識はずれのガード方法だった。点を点で止めるような、無謀で酔狂なガード方法。そんな冗談のようなガードを実行するプレイヤーは誰もいなかった。

 ただ1人、あるプレイヤーを除いて――


「インパクトガードをあんな形で使う奴なんか、俺は1人しか知らない」

「えっと、誰?」


 ウドゥンは大きく息を吸って、円形闘技場コロセウムの戦闘フィールドを睨みつけた。


「リズだ」

「え?」


 ウドゥンの口から突然、トリニティのリーダー・リズの名前が出てきたことにリゼは面を食らってしまう。


「え、それってどういう――」

「ウドゥン!」

「ウドゥン様!」


 ウドゥンとリゼが観戦している場所に、慌てて駆け寄る男女がいた。それは少し離れた場所で観戦をしていたガルガンとキャスカだった。


「おいウドゥン、ヴォル! 今のアクライの動きはなんだ!?」


 ガルガンが大声で詰め寄ってくるが、その巨体を細腕で制してキャスカが前に出る。


「ウドゥン様。運営からの知らせをご覧ください」

「知らせ?」

「はやく!」


 いつもは冷静なキャスカがひどく急かしてきた。ウドゥンもかなり混乱気味だったが、とにかくパネルを操作し、彼女の言う通りに公式サイトの掲示を確認する。

 運営からの知らせ――その最新の項目である『意識不明者について・続』という項目を開いた。


『皆様へ


 先ほどの意識不明者についての続報です。数名のプレイヤーについて、現実に医療機関に搬送されていることを確認いたしました。またゲーム内における彼らのキャラクターデータの一部に、想定されなていない異常も確認されております。現在判明している該当プレイヤーは以下になります。


 アルザスサーバー所属『アクライ』『ガスキンズ』『ロン』


 原因究明の為、関係のあるプレイヤーからの情報を募集したいと思います。最近上記のプレイヤーと接触された方は、運営宛メッセージで申告していただきますようお願いします。


 皆様のご協力をお願い致します』


「なっ……」

「えっ?」


 ウドゥンとリゼが言葉を失う。そこに書いてあったのは『アクライの中の人は意識不明に陥っている』という、信じられないような内容だった。

 ウドゥンが混乱する頭をなだめながら呟く。


「意味が分からない。アクライが意識不明だと? それじゃあ、あそこにいるのは……」

「もしその知らせが本当だとすれば、あそこで戦っているアクライ様は本物では無いということになります」

「本物では無いだと? ばかな」


 ガルガンもまたひどく動揺した様子だ。彼はすぐに傍に居たヴォルに声を張り上げた。


「ヴォル! 貴様、先程アクライと戦ったのだろう? どうだったのだ」

「……いや、ちょっと待て」


 ヴォルもまた、慌てふためくウドゥン達を見ながら首をかしげていた。そして事態を把握できていない様子のまま、周囲を落ち着かせるように掌を上げる。

 しかし次に彼は、とても奇妙なことを言ったのだ。


「……俺はアクライと戦ったのか?」

「……なんだと?」


 皆、信じられないような表情でヴォルをみつめた。しかし彼は続けて言う。


「そもそも俺は今回のA級、参加できなかったと思うんだが」

「いや待って、それは無いよ。確かに出場してたって」


 話を聞いていたシオンが慌てた様子で言う。彼は今回のA級トーナメントは一回戦からすべて観戦していた。その際、ヴォルが順当に勝ち上がって行く姿を目撃していたのだ。


「ヴォル、お前は準決勝まで残って、そこでアクライと戦ったはずだって」

「いやな。俺も少し奇妙だとは思うんだが、さっき気がついたら円形闘技場コロセウムの受付に居たんだ。だが、その前に何をしていたのか思い出せない……記憶が無いんだよ」

「記憶の欠落……」


 キャスカが呆けたように呟いた。そして同時に、周囲も気がついた。

 ヴォルが最後に戦った相手は、今決勝を戦っているアクライだということに。


 その時、円形闘技場コロセウム全体に高らかな笑い声が響いた。



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