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Zwei Rondo  作者: グゴム
五章 深紅の戦乙女
84/121

18. 反省会

18


「ごめんなさい……」


 試合を終えたリゼがウドゥン達の前で頭を下げた。ニキータとセリスの2人が優しく声をかける。


「お疲れ様! 頑張ったね、リゼ」

「すごかったよー。感動したー」

「えっと、ありがとうございます」


 リゼは照れたように頬を掻いた。ナインスオンラインをプレイし始めて一ヶ月ほどのリゼが、サーバー最強と名高い【戦乙女ヴァルキリー】ファナとあそこまで戦えたことにニキータ達は大いに喜んでいた。大健闘だといってリゼをたたえる。

 しかし多額の金を賭けていたウドゥンとシオン、そしてドクロの3人は暗い顔を突き合わせていた。


「ウドゥンお前、マッチには20Mだったが、他にいくら賭けてたんだ?」

「……合わせて30Mだな」

「っふ、甘いな。俺なんか50M吹っ飛んだぜ」


 シオンの言葉を聞き、隣に座っていたドクロがニカリと笑う。


「俺もマッチに10Mほど賭けてたからな、俺達だけで一億弱か、派手に負けたな! がはは!」

「どんまい三人とも」


 セウイチがニヤニヤとした様子で声をかける。彼もいくらか負けたようだが、この三人のように大金は賭けていなかった。

 沈み込むウドゥン達に、リゼがおずおずと近づいてきて謝る。


「ウドゥン、シオンさん、それにドクロさん。ごめんなさい、負けちゃった……」


 すると、ウドゥンは彼女の顔の前に掌を広げてみせた


「お前が謝る事は何も無い。賭けに負けた俺達がアホだっただけだ」

「そうそう。リゼちゃん、自分を責めちゃあだめだよ」

「ファナに勝つってこと自体が、基本的には無茶な話だったからな」


 三人は一様に言う。彼らは賭けに負けたはしたが、その対象であるリゼに怒りを向けることは無かった。自分達がリゼに勝つと予想し、納得して賭けたのだ。その予想が外れたら、それは自己責任であることぐらい彼らはよく理解していた。

 三人はリゼを責めず、ただ賭けの失敗を嘆いていた。


「ファナの奴、たしかにキレたように見えたのに、すぐに立ち直るとはな。正直予想外だった」

「だな。やはり現サーバー最強は間違いないか。あの動きをトリーヴァ杯でも見せれば、今回のファナはかなり有力だろう」


 ドクロもまた言う。月末に迫っている、全サーバー合同のS級トーナメント・トリーヴァ杯。それに出場予定のファナは優勝候補の筆頭だ。

 今回のリゼとの試合を見る限り、弱点である短気癖さえも修正されており、弱点らしい弱点がなくなってしまっていた。


「やれやれ。昔から学習能力の高い奴だとは思っていたが、ここまでとは」

「素直に脱帽だねー。強くなったよファナは」


 セウイチが嬉しそうに笑いながら言う。ゲームを始めたばかりのファナを知っている彼は、あのじゃじゃ馬がここまで成長したことを懐かしみ、喜んでいた。


「さて。決勝はファナ・ヴォルか?」


 ウドゥンが聞くと、ドクロが首を横に振って答える。


「いや。アクライだ。準決勝でヴォルに勝った」

「なんだと?」


 思わずウドゥンは驚いてしまう。セウイチもまた意外そうに笑った。


「へぇ。やるじゃん! 公式戦だと初じゃない?」


 クリムゾンフレア内の格付けで言えば、アクライはヴォルよりもかなり格下だ。実際ウドゥン達も、アクライがヴォルに勝った場面など見たことがない。

 そのアクライが決勝戦に進出したと聞いて、ウドゥンは打ちのめされたような気分に陥ってしまった。


「なんだ、複勝(クィネラ)も大外しだったのかよ。今回は最悪だったな」

「アクライが上がってくるのは読みづらいよ。実際ヴォル・アクライ戦のマッチの倍率、相当偏ってたし」


 シオンが先ほど行われたもう一つの準決勝の様子について話すと、それを聞いたセウイチが言う。


「次の賭け(マッチ)も、ファナの倍率超低そうだね」

「アクライ相手なら、そうだな、1.2倍弱って所だろうな」


 ドクロがパネルを操作しながら言った。すでに次の決勝戦に向けて賭け(マッチ)の受け付けが開始されていた。


「ちょっとでも取り戻すために、ファナに賭けとくかーくそー」


 シオンはぽりぽりと顔を掻きながら言った。

 決勝のカードであるファナ対アクライというものは、これまで何度か実施されている。もちろんいつもファナの圧勝だ。

 アクライが勝った試合は一度も無く、今回ヴォルを倒すという番狂わせを起こしているとはいえ、普通に考えればファナの勝利は疑いようが無かった。

 しかしウドゥンはなんとなく、ファナに賭けるのは気が乗らなかった。


「……俺はやめとく」

「ウドゥンー。ファナが負けるはず無いだろ? 落ちてる金を拾うようなもんだぜ」

「負けてる時にさらに賭けてもろくな事にならないんだよ。とにかくリゼが負けた時点で、今回俺は手仕舞いだ」

「ちぇーつまんねえな」


 そんなシオンを適当にいなしてから、ウドゥンは自身のパネルを開く。そしてセリスに撮影していてもらっていた、ファナ対リゼの第一ラウンドの動画を再生し始めた。

 するとリゼが隣に座ってパネル覗き込んでくる。


「ウドゥン。何見てるの……って、さっきの試合じゃん」

「お前、第一ラウンドだが、いくら予定外の戦い方をされたとはいえ、いやに動きが悪いな。最初から二本目の動きをしていれば一本目取れたかもしれないのに」

「えっと……それはね」

「うん?」


 リゼは少し困ったような表情で、もじもじと指を弄くっていた。


「なんなんだよ」

「ううん。なんでもない。でも第二ラウンドからはちょっとがんばったよ」

「まあな」

「褒めてくれる?」


 リゼが期待するような上目遣いで言うと、彼は無表情に答えた。


「そうだな。まあ、二本目最後のジャストガード。あれは完璧だった」

「ほんと? やった!」


 リゼが嬉しげに顔をほころばした。その姿を横目に見ながら、ウドゥンは皮肉っぽく付け足す。


「ただ負けちゃあ意味が無い。次は勝てよ」

「うん。頑張るよ!」


 その時、ウドゥン達が座る観客席の前の通路を、のそのそと歩く長身痩躯な赤毛の男がいた。最初に気がついたセウイチが手を振って声をかける。


「お、ヴォルだ。おーい! こっちだ!」

「……ん。あぁ」


 ヴォルはウドゥン達に気が付くと、少し疲れた様子で近づいてきた。いつものような明るい様子は無く、ショックを受けている様子だった。近づいてきた彼にウドゥンも声を掛ける。


「ヴォル。お疲れ様」

「あぁ。やれやれだ。まったく何がなんだかだな」

「お前にしては不覚だったな。ま、すぐに決勝が始まるから一緒に見ようぜ。クリムゾンフレア同士の決勝だ」

「ファナと……アクライか。なんだリゼは負けたのか?」


 ヴォルがウドゥンの隣に座る少女に目をやり、少し微笑みながら言った。リゼが苦笑いで答える。


「えっと、ダメでした」

「まあ、ファナ相手じゃあ仕方ないか。一ラウンドくらい取れたのか?」

「はい。二本目は取れたんですけど……」

「なんだヴォル、こいつの試合、見てなかったのか?

「ん。まあな」


 ヴォルは妙に歯切れ悪く答える。いつも明るくからからと笑っている彼には珍しく、少し疲れた様子に、ウドゥンは首をかしげた。


『アルザスサーバー・A級トーナメント決勝戦

 ファナ VS アクライ

 の試合を間もなく開始します』


 円形闘技場コロセウム内にアナウンスが流れると、観客席のあらゆる場所から歓声が上がった。

 それによって会話が中断されると、ヴォルは空いてる席に腰をかけた。代わりにシオンが嬉しそうな声を上げる。


「始まるみたいだぜ」

「うん!」

「アクライの奴がどこまでやる見ものだな」


 大歓声が鳴り響く中、決勝戦を戦う二人が姿を現した。

 まずは先ほどリゼとの準決勝に勝利したファナが、機嫌よさげな笑みを浮かべながら登場する。右手に小型盾バックラー、左手にロングソードを構えたいつもの装備のまま、向けられる歓声を気負う事無く受け止めていた。

 一方、対面に現れた小柄なアクライは、金髪のツインテールを二つに結い、裁縫スキルによって製作された俊敏性重視の浴衣装備で身を固めていた。彼女は両手に小太刀を構えたままだ。

 その表情はいつもの元気な様子でなく、緊張したようにこわばっているように見えた。


「ファナさん! アクライちゃん! 頑張って!」

「ファナ! 負けるなよ!」

「アクライー!」



 そして、決勝戦が始まった。





 戦闘開始の合図があっても、2人は動かないでいた。共にクリムゾンフレアのランカーとしていつも顔を合わせている彼女たちにとって、PvPを行うことなど日常茶飯事だ。そのためか、緊張感の無い雰囲気が2人の間には漂っていた。

 やがてファナが上機嫌に声をかける。


「アク。こうしてトーナメントで当たるのは久しぶりだな!」


 対戦相手のアクライは特に反応することなく、二本の小太刀を手にゆらりゆらりと上体を揺らし続けていた。あまりに反応の薄さに、ファナが呆れたように言う。


「なんだ元気ないなー。何かあったのか?」

「別に……なにもないよ。姉様、それより――」


 アクライは小太刀の片方を目の前に持ち上げると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべてみせた。


「お腹がすいたんだ」

「はぁ? おいおい大丈夫か、アク!」


 ファナはなんの冗談かと、からからと笑って答える。ファナが笑い終えると2人は、厳しい目つきでにらみ合った。


「いくぜ!」

「……」


 ファナが飛び出す。先程終えたリゼ戦の熱も冷めない様子で、烈火のごとく襲い掛かると左手のロングソードを力任せに振るった。

 一方アクライは小太刀を無造作に操作すると、振り下ろされるファナの攻撃を、その切先の一点で受け止めた。ガードでも受け流しでもない、剣先の一点で斬撃を受け止めたのだ。


 キン――


 澄み切ったガード音が周囲に響きわたる。絶好のガードを決めたアクライだったが、なぜか余裕げに立ち尽くし、攻撃をはじき返され後ずさりするファナの様子を見送っていた。

 一方のファナは眼を見開き、その身体を固まらせた。彼女はまるで、幽霊にでも出会ったかのように立ち尽くしたのだ。


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