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Zwei Rondo  作者: グゴム
五章 深紅の戦乙女
72/121

6. 装備

6


「ウドゥン君。こっちの服のほうが良いと思うんだけど」

「それじゃあ防御値が足りないだろ。あいつはガード主体だから、回避力はそんなに必要ないぞ」


 金髪の猫耳をひくひくと動かしながら、ニキータロードのリーダー・ニキータは首を横に振った。


「わかってないなー、可愛さが重要なの」

「見た目で選ぶんじゃねーよ。真面目にやれ」


 ウドゥンが呆れたように言う。ニキータはウドゥンの工房にやってくるなり、部屋が埋め尽くされる程の量の装備を実体化させていた。今回彼女がこうして装備を持ち込んできたのは、ウドゥンとシオンによってリゼの装備を見繕ってほしいと依頼されたからだった。


「このニキータロードのニキータ様がじきじきに選ぶんだから、ダサいコーデなんか許さないよ」

「性能を優先させるんだよ。ガチで勝たないと投資した分が無意味になっちまう」

「まったくー。ウドゥン君もシオンもひどいよねー。あんな純粋な女の子を使って荒稼ぎしようだなんて」

「荒稼ぎじゃねーよ。投資だ。うまくいかねーと大損確定のな」


 リゼは先日、ウドゥンとシオンに対しある提案をしてきた。それは装備がほしいから金を貸して欲しいという内容だった。最初2人は難色を示していたが、彼女が提示した条件に彼らは興味を持ってしまった。

 それはトーナメントでの賭け金で装備代を支払うという物だった。本気でA級まで勝ち進むから、装備を揃えた自分に賭けて大儲けすればいい――リゼはそう主張してきたのだ。ウドゥン達は少し悩んだが、結局同意して装備を貸し、そして今週だけでC級とB級――二つのトーナメントをリゼは優勝した。

 それによる配当金額は、すでに最高級の装備を買いそろえれるほどになってしまった。そこでウドゥンはこうしてニキータを通してA級トーナメントに向け再び装備を新調しようとしているのだ。


「そういえば、肝心のリゼはどうしたのさ」

「今キャスカの奴と狩りに行ってるよ。明日テストがあるから早めに落ちるけど、その前にここに寄るとはメッセージがあった」

「そっか。それじゃあそれまでにいくつかパターン作らないとねー。あ、シオンの奴も早くこないと間に合わないでしょ」

「どうだろうな。もうそろそろ来るんじゃ――」


 ガタン――!


 その時ウドゥンの工房のドアに、何かが思いっきりぶつかった音がした。続けてどんどんとドアをたたく音が聞こえてくる、


「噂をすれば……か」


 ウドゥンが呟きながらドアのロックを解除する。すると勢い良く工房のドアが開き、小柄なシオンが雪崩れ込むように中に入ってきた。


「できたぜ! ついにリゼちゃん専用のエストックが!」

「大げさだな」

「何言ってんだよ、バカシオン」


 ドヤ顔で宣言したシオンを、ウドゥンとニキータは冷ややかに出迎えた。シオンはごほんと咳払いをし、気を取り直して言う。


「なんだよ、ノリが悪いなお前らは。そこはこうだろ。『もうできたのか』『はやい』『できた、メインエストックでき――」

「わかったから。さっさと物を出せ」

「最後まで言わせろよ!」


 ウドゥンが一瞥もせずに言うと、シオンは地団駄を踏んでくやしがっていた。彼は少し不満そうな表情をみせた後、しぶしぶパネルを操作し、銀色に輝くエストックを取り出す。


「"ケルベロスタック"。7thリージョン・スクイー大釜カルデラ出現(ポップ)するNM・ケルベロスのレアドロップ"ケルベロスの大牙"を使ったエストックの最高峰だ」

「"ケルベロスの大牙"? よくそんなの手に入れたねー」


 ニキータが猫耳をぴくぴくとさせながら驚いていた。ウドゥンが無表情に答える。


「オーンブルがだぶついてるって言ってたから、売って貰ったんだよ」

「オーンブルからかー。いくらしたの?」

「8Mって所かな」

「まあ、そんなところだろうねー」


 ニキータが頷くと、シオンはケルベロスタックを手に取り満足げにそれを眺める。


「まあ、物は最高級だけど強化エンチャントは全然だからね。正直今の所、強化エンチャントをしっかりつけた量産品ユニクロと性能は大して変わりないよ」


 シオンがわりと真面目な様子で言うが、ウドゥンは小さくを首を横に振った。


「ま、いいタイミングで"ケルベロスの大牙"が手に入ったからな。ついでだ」

「リゼちゃんがA級で活躍してくれるなら、問題ないか」

「でもひどい皮算用だよねー。実際」


 ニキータは顔をくりくりと掻きながら、呆れたように言う。


「本当にリゼって強いの? 私まだ戦ってる所見たことないんだけど」

「だからー。B級までを無敗で優勝だぜ? ここ最近じゃそんな奴見たこと無い。たぶんリズ以来なんじゃない?」


 シオンが言うと、ウドゥンは彼から手渡されたケルベロスタックをチェックしながら答える。


「リズがいた頃はまだA級とかあまり意味の無い時期だったからな。全員がH級とかG級とかのカオスな時期だった」


 シオンが少し興奮した様子で言う。


「いやー。リズがやばかったのは、G級以外の全てのランクに一番乗りした所だよ。まさに圧倒的だった」

「ウドゥン君はリゼの事、リズ級だと思ってるの?」

「……才能だけって意味ならな」


 ニキータの質問に、ウドゥンは少し言葉を選びながら応えた。確かにリゼには才能が有るとは思っていたが、それはまだ原石でしかない。もしかしたら一回でも負けてしまうと凹んでしまう可能性もあるし、さっさと飽きてナインスオンラインをやめてしまう可能性もある。


「実際に強いかどうかはもうちょっと様子を見ないと分からん。とりあえず、次のA級だろうな」


 トントトトン――


 その時、特徴的なノックの音が響いた。ウドゥンがうなるように返事をすると、ツーサイドアップにした栗色の髪をふわりと跳ねさせながら、リゼが工房のドアを開けて入ってきた。


「ウドゥン、おっはよー。って、あ!」


 リゼがニキータとシオンの顔を見て表情を明るくする。2人は手を振ってそれに答えた。


「こんにちは、リゼちゃん」

「お邪魔してるよーん」

「シオンさん! ニキータさん! って、凄い一杯装備がある!」


 工房内に散らかされた装備に気がついたリゼが、キョロキョロと周りを見渡して嬉しげな声を上げた。ウドゥンが無表情に言う。


「A級に向けて装備を更新する。防具はここにある量産品ユニクロから選べ」

「え、いいの?」

「一緒に選ぼうー。可愛いの一杯持ってきたからさ」

「え、あ……はい!」


 ニキータがうきうきした様子で言うと、リゼもとても嬉しそうに頷いた。


「それで、武器はこれだ」


 ウドゥンが手にしていた"ケルベロスタック"を放り投げる。作業台の上に転がった銀色の両手剣に、リゼがおずおずと手をかけた。


「エストック?」

「"ケルベロスタック"。たぶん今実装されてるエストックじゃあ最上位の物だ」

「これって、高いの?」


 リゼの質問にシオンが答える。


「そうだねー。細かい素材まであわせれば10Mは下らないかな」

「ええぇ!」


 リゼが驚いて飛びのいてしまう。そして恐る恐る手にしていたケルベロスタックを机に置き、申し訳なさそうに俯いた。


「あの、こんな高価なもの貰えません」

「心配しないで。リゼちゃんにはもうそれくらい稼がせてもらってるから。なあウドゥン」


 シオンが上機嫌に言うと、ウドゥンも無言で頷いた。それでもリゼは遠慮する。


「私、賞金とかで100万位なら今持ってる。全然足りないけど、とりあえずあるだけ払うよ」


 彼女はそう提案したが、ウドゥンは面倒そうに溜め息を一つ吐いて答えるだけだった。


「そんなに払いたいなら、防具は自分で払っとけ。ニキータ、1Mあれば足りるか?」

「そうだねー。まあ今回はまけといてあげるよ。ただしリゼ」

「は、はい」


 びくりと緊張して体を固めるリゼに、ニキータはニヤニヤと笑いながら言った。


「私も一緒に選ばせてねー。とりあえずこのワンピ型から行こう!」

「ちょ、ちょっと待ってください。ニキータさんー!」


 猫のように俊敏な動きでリゼにまとわりついたニキータが、無理矢理装備を脱がせようとしていた。その動きを横目にシオンがウドゥンに話しかける。


「ま、これでアイテム関連についてはやる事がやった感じだね」

「あぁ。あとはスキルか。おいリゼ――」

「今こっち見ないで!」


 部屋の奥に連れて行かれていたリゼからは、なぜか叫び声が返ってきた。どうやらニキータによって強制着脱されているらしい。シオンは興味ありげに首を伸ばしていたが、ウドゥンは構わず質問をした。


「お前エストックとガードはスキルランク100になったのか?」

「え、えっと。うん。なったよ、さっきキャスと狩りに行った時に――ニキータさん! それは自分で決めます」

「まあまあ。いいじゃんいいじゃん。下着もこだわったほうがいいよ。短い裾の装備だと、ちら見えする時があるから」

「ニキータ! パンツは白で頼むぜ!」

「お前は黙ってろ! バカシオンが!」

 

 シオンが声を掛けるも、ニキータの怒鳴り声が返ってきた。彼は冗談っぽく肩を開いて同意を求めてきたが、ウドゥンは無視して話を戻す。


「スキルも最低限揃ったな。100あれば一応戦える」

「だね。じゃあスキルもおっけ。後は実際の戦略かー。俺はそこわかんないからなー」

「任せとけ。明日一日使って仕込む」

「頼むよ。今回はリゼを軸にかなり賭ける気なんだから」


 シオンがわくわくとした様子で言う。ウドゥンもまた今回投資した金を回収し、さらに倍増するために計算を開始した。

 今回のA級トーナメントでリゼの前に立ちふさがるのはあの女――ファナだろう。ウドゥン達はそう考えていた。強敵には間違いないし 、【戦乙女(ヴァルキリー)】とあだ名される彼女は賭けにおける人気も抜群だ。

 しかしそれは万が一リゼがファナに勝ったとき、配当がとんでもないことを意味していた。ウドゥンとシオンの二人が狙っているのも、そんな大番狂わせだった。


「じゃーん。どう、2人とも」


 工房の奥から出てきたニキータが陽気に聞いてきた。その隣で途中から楽しくなってきたのだろう、リゼは腰に手を当て、身につけた白のワンピースを見せつけるようにポーズを決めていた。


「だーかーら。トーナメント用だっつってんだろ。真面目にやれ。真面目に」


 頭を抱えるウドゥンの横で、シオンがげらげらと大笑いしていた。

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