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Zwei Rondo  作者: グゴム
五章 深紅の戦乙女
67/121

1. ファナファナ

五章・深紅の戦乙女ヴァルキリー


1


 女の前には無数の死亡デッドパネルが並んでいた。色を失った白髪から覗く瞳は血のように紅く、他人から奪い取った装備は統一感も無くばらばらだ。

 ファナがナインスオンラインをプレイし始めたのは3日前の事だった。キャラクターメイクを終えるとすぐフィールドに出て、目に付くプレイヤーことごとくにPK(Player Kill)を仕掛けていった。

 自由に擬似殺人が出来る体験型ゲームは、彼女にとってひどく新鮮だった。


 やがて初心者しかいない1stリージョンで暴れまわっていると、PKK(Player Killer Killer)を名乗る連中がファナを襲うようになった。

 最初はPvP(Player vs Player)に慣れたPKK達の動きに圧倒された。ナインスオンラインのシステムを熟知し、対プレイヤー戦に特化した戦闘方法をみせる彼らに、ただケンカの延長の気分でプレイしていた彼女は手も足も出なかった。


 しかし彼女は懲りなかった。

 ファナは次から次へとPKを行い、そしてPKKに襲われた。アルザスの街では変なPKが1stリージョンを占有しているという噂が広まっていたのだが、彼女は気にせずにただただ襲い掛かってくる強敵との戦いを楽しんでいた。


 ファナは何度も負けた。しかしすぐにやり返した。自分よりも強い敵がいることに、彼女の心はいつも沸き立っていた。

 負けた連中は一人の例外なくぶちのめす。それが楽しかった。だがその愉悦は一日も続かなかった。彼女は同じ相手に二度と負けなかったのだから。


 やがて彼女の前でPKKを名乗る者がいなくなってしまった。仕方が無いのでPKを繰り返すも、雑魚ばかりだった。

 連戦連勝を続け、徐々に挑戦者が減ってきた事で彼女に沸いてきたのは、このゲームはもう極めてしまった――残りは雑魚ばかりだろうというおごった感情だった。


 彼女は開始3日目にして、すでにナインスオンラインに飽きかけていた。


「お前がファナファナ(・・・・・・)か?」

「……」


 背後から掛けられた女性の声。ファナが振り向くと、そこには妙に明るい笑顔のプレイヤーが立っていた。銀色の軽鎧を身に着け、栗色の長髪を跳ねさせた女が、腕組みをしながらからからと楽しそうに笑っていた。


「こいつみたいだね。最近噂のPKってのは」


 女の右手側にいた糸目の男が言った。短い金髪と高い身長が印象的な、軽薄そうな男だった。大剣と大斧を両手に構えた二刀流をしているのが、ファナにはひどく不恰好に見えた。


「そうみたいだ。どうだ、見所がありそうか?」

「……実際に戦闘を見ないと、なにも言えん」


 女が聞くと、それには左手側にいた黒髪の男が無愛想に答えた。ひどく影の薄い男だった。見たところ彼は武器を持っておらず、手ぶらのようだ。


 ファナは奇妙な三人組がやって来たな、と思った。また同時に、正義感にあふれるPKKがのこのこやって来たのだろうとも思った。

 久しぶりの獲物に、ファナは早速三人を睨みつける。


「おう怖い。そんなに睨むなよ。照れるじゃないか」


 真ん中の女がひらひらと右手を振った。その表情はいかにもフザケた様子で、舐めきった態度だった。

 ファナが大きくため息を吐く。


「……なんだ。久々の挑戦者かとおもったら、弱そうだな」

「ぎゃははは!」


 嬉しそうに反応した栗色の髪の女が、大きく身振りをしながら言った。


「どうやら、随分と天狗ちゃんになってるみたいだな」

「……」

「いいか。お前がやってるのはな、地元のゲーセンで小学生相手に連勝していい気なってる、中坊みたいなもんなんだよ。要するに井の中の魚ってやつだ!」

かわずな」


 黙り込むファナを指差し放たれた啖呵たんかに、無表情な男から突っ込みが入る。しかし女は一切気にせず続けた。


「私が本当のPvPっての教えてやるよ!」

「……御託はいい。さっさとかかって来い」

「あは!」


 女は嬉しそうに短く笑うと、両隣の2人に対し下がるように身振りした。2人は視線を合わせ、肩をすくめながらも無言でそれに従い、少し離れた場所でどかりと地面に座り込んでしまった。


「がんばってねーリズ」

「つまらん戦いにするな」


 そんな2人の野次を受けながら、中心にいた女――リズはニヤニヤと笑みを浮かべ、パネルを操作しメイン武器のレイピア、そしてサブ武器としてマインゴーシュを取り出した。右手と左手にそれら持ち、一歩前へと進み出る。


「あ、間違えた」


 突然、リズはわざとらしく言った。そしてとぼける様にふんふんと鼻歌を歌いながら、彼女はメイン武器であるレイピアを地面に突き刺した。

 そして左手に持った、短く頼りない短剣マインゴーシュの切っ先だけをファナへと向ける。


「お前みたいな世間知らずの天狗ちゃん。これだけで十分だった。さっさとかかって来い(・・・・・・・・・・)

「ほざけ……!」


 ファナは一気に飛び出し、挑発するリズに向けロングソードを振るった。リズがそれを身体をずらしてよけると、ファナは手首を器用にひねって剣筋を反転した。的確な軌道修正により、彼女の白刃がリズの首元に襲いかかる。

 しかしリズは余裕げに笑ったままだった。


 次の瞬間、ファナの目の前には青空が広がっていた。


「なっ……」


 同時に自身の身体が宙に浮いている感覚に襲われる。すぐに足払いをされたのだと気がついたが、すでに立て直しが効かなかった。


「ぎゃはは! やっぱり初心者だな!」


 リズはそう言って、目にも留まらぬ速さでマインゴーシュを振り下ろす。それは狙い済ましたように、ファナの細首へと突き刺さった。

 彼女が他人から奪って身につけていた装備はかなりの高性能だったが、リズの攻撃はその隙間を縫い、防具の一番弱い箇所をピンポイントに突き刺してしまった。


「いつでも相手になってやる。強くなれよ。【狂気ファナティック】ファナ」


 リズは太陽のように明るい笑顔で、死亡デッドするファナを見送った。



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