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Zwei Rondo  作者: グゴム
四章 黄金の皮算用
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11. 気づき

11


 やがて少し間を空けた後、シャオはゆっくりと立ち上がった。


「それじゃ、そろそろ帰るよ」

「……もう来なくていいぞ」


 ウドゥンがシャオを見上げながらぶっきらぼうに言うと、彼は肩をすくめる。


「つれないなー。そんな無愛想じゃ、彼女に嫌われるぞ」

「そんなんじゃねーよ。さっさと出ていけ」

「あー怖い。それじゃあリゼ、話を聞かせてくれてありがとね」

「あ、はい……」


 手を払い追い出すような仕草をするウドゥンから視線を切り、シャオはリゼに小さく手を振ると、工房から出て行った。

 その背を見送った後、リゼが立ち上がって謝る。


「なんか、ごめんね。あの人ウドゥンのフレンドだって言うから……」

「別に。相手があのシャオじゃあ、仕方が無い。それより気が付いたか?」

「え、なにが?」


 ウドゥンがじっとリゼを見つめる。しかし彼女は、何のことを言っているのかわからなかった。

 彼は小さくため息を吐いた。


「まあ、気が付かなかったならいいや。それよりあいつ、マジで何しに来たんだ」

「ウドゥンに会いにきたんじゃないの?」

「あほか。そんな仲じゃねーよ、あいつは。見てて分かったろ」


 ウドゥンは眉をひそめながら言うが、リゼは心の中でそれを否定した。

 確かに今は仲が悪いのかもしれないが、それはきっと彼らが似た者同士だからだ。少しボタンの掛け違いがうまくいけば、きっと仲良くなれるはず――ーリゼはそう考えていた。


 小さく微笑んで黙るリゼに、ウドゥンは不思議そうに首をかしげ、視線をそらす。そして彼は先程のシャオとの会話を思い出し、反芻はんすうするよう呟いた。


「しかし、インペリアルブルーか……」


 今回、無駄話をそぎ落としてシャオから得た情報といえば『インペリアルブルーが嘘をついている』という一言、それだけだった。恐らく彼は、これを伝えにわざわざやってきたのだろう。

 シャオの行為が何の意図を持っているのかわからないが、ウドゥンはとりあえずこの発言について考察する事にした。


 発言の内容自体、特に不自然なことではない。大規模ギルド・インペリアルブルーは清廉潔白なイメージが強いが、トップギルドであることに変わりは無く、当然嘘やはったりの一つや二つ吐いていても何もおかしくはなかった。

 とくに幹部の一人であるコンスタンツは、幼げな外見と性格に似合わず、なかなかどうしてエグい作戦を立案すると有名だ。その彼女と、実質的にインペリアルブルーの中核であるキャスカの2人がなにかを隠しているとすれば、それは何か。


 言われてみると、確かに納得できないが点はいくつかあった。

 ドロップ散乱からノーマッドを思い浮かべるまでの遅さ。非効率的なPKK隊の配置。ヴォルが言っていた、8thリージョンでのドロップ散乱を把握していなかった事。

 総じていえば、インペリアルブルーは今回の事件の対処に消極的すぎるような気がした。


「待てよ……」

「え?」


 突然ウドゥンは、はっとしたように声を上げた。リゼが不思議そうに声を掛ける。


「どうしたの?」

「……」


 ウドゥンはそれを無視して、すばやくパネルを表示した。そして一心不乱にパネルを操作し、メッセージを作成する。

 それを送信し、しばらくすると返信が来た。それを読み、ウドゥンはにやりと口元を緩ませる。


「そういう事か」

「えっと――」

「だがそれだと一つわからないな……」

「……」


 彼は完全に自分の世界に入ってしまっていた。リゼはその後も何度か声をかけようとしたが、結局諦めた。邪魔をしてはいけない――リゼはそう思い、真剣な様子で考え事をするウドゥンの表情を見守る事にした。

 彼は口に手を当て、ブツブツと呟く。その表情はひどく生き生きとしていた。


「……時間が無さすぎる。仕方ねー、細かい所ははったりで何とかするか」


 最後にそう呟いたウドゥンは、少し急いだ様子で立ち上がった。


「ちょっと出掛けてくる」

「どこ行くの?」


 ウドゥンは皮肉っぽい微笑をうかべ、冗談めかして答えた。


「ラスボスの所だ」





「何でお前も来るんだよ」

「え、だってノーマッドってひどいギルドなんでしょ。一人じゃ危ないよ」


 リゼが両手を握りながら言った。そのやる気に満ちた表情に、ウドゥンは大きくため息を吐く。


「お前に心配されるとはな」

「なによー。もし戦闘になったら、ウドゥン一人じゃすぐやられちゃうじゃん」

「別に、ラスボスっつっても戦いに行くわけじゃねーよ」


 時刻は15時近くになっていた。2人は今、9番街の右通りを歩いている。いたって普通の街並みが続くこの通りに、目的地であるノーマッドのギルドホームが存在していた。

 最悪のギルドと評されるノーマッド――彼らの被害にあったプレイヤーなら枚挙にいとまないが、その形態について詳しく知っている者は少ない。特にリーダーである【悪童】セシルについては噂が一人歩きしており、凶悪な面構えをした大男だとか、PKの恐怖におびえるプレイヤーを見るのが生きがいの男だとか、とにかくさまざまな噂が飛び交っていた。


「フレンドに会いに行くだけだ」

「フレンド?」

「あぁ。セシルの野郎にな」

「えっ」


 その言葉を聴いて、リゼは驚いたような表情を見せる。


「セシルさんって、キャスが言っていた悪い人だよね。フレンドなんだ」

「悪い人って、ガキじゃないんだからな……」


 呆れたように言うウドゥンだったが、リゼが首を振りながら食い掛かる。


「でもでもPKするなんて、悪い人でしょ」

「そんな事言ったら、ファナやアクライも悪い人になるぞ。あいつらもPKくらいしてる」

「むー、そういうのじゃなくて……」


 リゼは不満顔で唇を尖らせる。ウドゥンがそれを無視して進んでいると、2人はやがてある酒場に辿り着いた。中に入ると、真っ直ぐに酒場のマスターの所へ向かう。


「いらっしゃい」

「『ハーヴィ』はいるか?」

「……」


 人のよさそうな笑顔を作って挨拶をしてきたマスターは、ウドゥンのその言葉を聴いて笑顔を固まらせた。そしてしばらく沈黙した後、言った。


「今はインしていないな」

「それじゃあ、取り次いでくれ」

「……こっちだ」


 隣のリゼが首をかしげる。2人の会話は全く成り立っていなかったが、マスターの男はついて来いと言って店の奥に消えた。


「えっ、どういう事?」

「いいからついて来い」


 ウドゥンがマスターの後を追い、それにリゼが続く。やがてマスターに追いつくと、小部屋の床にぽっかりと開いた大穴があった。

 男がその横に立ち、忠告する。


「中では勝手に動くな。降りた廊下をまっすぐ行けば大部屋がある。今ならボスはそこにいるはずだ」

「あぁ。わかってる」

「っへ。部外者が来るなんて久しぶりだな。お嬢ちゃん」

「え、っはい!」


 突然話しかけられたリゼが、緊張気味に返事をする。


「身包み剥がされないよう、せいぜい気をつけるんだな」

「えっ……」


 そう言うと、男は下卑た笑みを残して去っていった。リゼが心配げな様子でウドゥンの顔をうかがう。


「あれはノーマッドの挨拶みたいなもんだ。気にするな」

「……うん」

「それより、中に入ったら勝手な事はするなよ」

「えっと、黙ってればいいの?」

「話しかけられようが脅かされようが、一切反応するな。付け込まれると面倒だからな」


 強い口調で言うウドゥンの言葉に、リゼは緊張した様子で頷いた。そして彼が地下に続く縦穴に飛び込んだのを見て、彼女もそれに続いた。



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