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Zwei Rondo  作者: グゴム
四章 黄金の皮算用
54/121

4. 儲け話

4


「今回のVerUP。新レシピは大体試したけどどれも小粒でね。大稼ぎは出来そうにないんだ」


 気を取り直したシオンが喋り出した話題は、やはり新パッチについてだった。すでに彼は自身がリーダーを務める生産ギルド『グラムリジル』で、今回のパッチについて多くの検証を重ねていた。


「まあ【鍛冶】は人口が多いからな」

「そうそう。ただ新レシピの一つにちょっと変わったのがあってな。"コンポジットブレイサー"って奴なんだが、これ、複合レシピっぽいんだ」


 複合レシピとは、数種類の生産スキルを必要とするレシピの事である。メインとするスキル以外に別のスキルも必要とするため、作成する難易度が高い一方、比較的高い性能を持つ装備が多く存在していた。

 ウドゥンが少し呆れた様子で言う。


「複合っつっても、お前に作れない鍛冶製品は無いだろ」


 シオンのメインスキルは【鍛冶】【木工】【鉱石採掘】である。他にもサブスキルでほとんどの生産スキルを所持している為、そんな彼でも作れない複合レシピがあるとすれば、それはもうメインスキルで共に100越えという、通常のプレイヤーには確実に作れない領域しかありえなかった。


「いや、それがどうも作れないんだ。【鍛冶】と【革細工】が必要な事はわかってるんだが、俺の【鍛冶】スキルが足りないって事はありえない。って事は【革細工】が100オーバー必要なんだろ」

「そりゃ無茶なレシピだ」


 例えばシオンの【鍛治】【木工】のように、複数の生産スキルをメインに設定し、その両方のスキルランクが100を越えている生産プレイヤーは、実は希少な存在である。多くのプレイヤーは戦闘スキルをメインスキルに加えているのが普通だった。

 その理由は、純粋に生産スキルだけで『ナインスオンライン』をプレイをする事は難しいからである。

 ゲーム内には多くの戦闘コンテンツが用意されている。フィールド探索とそれに伴う素材集め、NPCから依頼される通常のクエストにユーザー同士による相互クエスト、そしてトーナメントをメインとしたPvP――それらのコンテンツを捨て、生産のみでプレイするという事は、行動を制限された難しいプレイスタイルだった。


「だろ? だからお前の所にきたんだよ。協力作業しようぜ」

「そういう事か」


 ようやく彼が工房に来た意図を理解したウドゥンが、納得したように頷いた。シオンが口にした協力作業とは、互いの生産スキルを用いて生産を行うシステムのことであり、複合レシピの製作によく使われるシステムだった。


「別に構わんが、俺でいいのか? スキルランク的に」

「お前いま【革細工】いくつだっけ?」

「173だな」

「えっ!」


 黙って2人の話に耳を傾けていたリゼが、突然驚いた。


「なんだよ」

「ウドゥンって、そんなに【革細工】のスキル高いの?」

「別に。シオンの【鍛冶】スキルに比べたら全然だろ」

「シオンさん、いくつなんですか?」

「ふふふ。234だ!」

「えぇ!」


 シオンがドヤ顔で答えると、リゼは目を見開いて驚いていた。そのやり取りを、ウドゥンが冷ややかな視線で見つめていた。


「すごすぎる……私なんかまだ【裁縫】60台なのに」

「気にするな。こいつが異常なだけだ」


 ウドゥンが淡白に言うと、シオンは上機嫌に頷いた。


「そーそー。230を越えてるなんて、多分このサーバーじゃ俺だけだし」

「うーん……」


 2人が声を掛けたが、リゼはうらやましそうに黙り込んでしまった。プレイを始めて一ヶ月ほど経ったリゼだが、プレイ時間は一日数時間で、しかも裁縫以外のコンテンツも多く楽しんでいる。

 稼動時ローンチからプレイし、さらにインしている時間の大半をスキル上げに費やしているシオンやウドゥンと差がついてしまうのは当然の事だった。

 シオンが気を取り直して話を続ける。


「しかし173かー。思ったよりも高いな」

「グラムリジルにも、これくらいのはいるだろ」

「いや、ウチの所の革細工担当がまだ150にも届いてなくてさ。役に立たなかったんだよね」

「まあ、俺でも足りないかもしれないがな。やるならさっさとやるぞ」


 ウドゥンが促すと、シオンは頷いて自身のパネルを開き、持ち物欄(インベントリ)を操作し始めた。


「そういえば、素材も問題なんだった」

「素材? 何を使うんだよ」

「"コカトリスの革"」


 シオンの言葉に、ウドゥンは小さく眉をひそめる。


「あいつかよ。また面倒な」

「だろ? だから、ちょっと困っててな」


 コカトリスは6thリージョン・ラース山脈に少数だけ存在するモンスターである。その革は今まで利用価値が殆ど無く、コカトリス自体の厄介な能力もあり、まったくと言っていいほど狩られない存在だった。


「あいつら石化攻撃をしてくるんだよ。当たったらかなりの確率で固まる。革だけ探そうにも、バザーでほとんど見当たらないしさー」

「まあ、今まで需要が無かったからな」

「それでお前、コカトリスの革も持ってねーかなって思ってたんだけど……」


 機嫌を伺うように言うシオンに対し、ウドゥンがインベントリを確認しながら答える。


「無い事はないが……2枚しかないな」

「お、十分。ちょっと試しに作らせてくれよー」

「別に構わんぞ」


 ウドゥンはパネルを操作し、すぐにコカトリスの革を取り出した。彼自身、何時何処で手に入れたのか分からないほどにマニアックな素材だが、どうせ持っていても使わないので提供する事にした。


 シオンが黄金色に輝くハンマーを取り出す。"オリハルコンハンマー"と呼ばれる、現サーバーで彼を含む数人しか持っていないといわれる最高級工具を手に、余った手でパネルを操作し始めた。

 続けてウドゥンの前に、協力作業の確認を示すパネルが現れ、彼は自身のヘッドナイフを左手に持ったままそれを承諾した。


 2人の間にある作業台の上に載せた素材が光を放ち、次の瞬間にそれは鈍いエンジ色をした篭手に形を変えた。


「お、出来た」


 シオンがお気楽な声を上げる。銀色の霊銀ミスリルと硬質なコカトリスの革を融合させた、奇妙な質感の篭手だった。出来上がったそれを手に取り、シオンはすぐにデータを確認する。


「防御値は435、重量31か。金属篭手にしてはかなり軽いな。ふーん……」


 しばらく詳細な能力値を計測した後、シオンは頷く。


「これは、結構性能高いな。ちゃんと強化エンチャントすればかなり売れそうだぜ。デザインも悪くないし」

「だが、コカトリスの革が面倒だろ。数が無い」

「取りに行くしかないな。6thリージョンならなんとかなる。ちょっと石化能力が面倒だけど」

「グラムリジルで集めるのか?」

「いや、今から行こうぜ。お前、暇だろ?」


 シオンが誘うと、ウドゥンは大きく眉をひそめた。


「面倒くさ――」

「楽しそう! 行きたい!」


 2人の話を隣で聞いていたリゼが、勢いよく食いついた。シオンが嬉しそうに彼女に向き直る。


「お? リゼちゃんは6thリージョンまでいけるの?」

「はい。グリフィンズのみんなと、この前5thリージョンをクリアしました」

「へぇー。すごいじゃん!」


 嬉しそうに話すリゼにつられ、シオンもまた楽しげに答える。しかしウドゥンが横槍を入れた。


「こいつ、行くだけなら8thリージョンまでいけるぞ」

「えっ、まじ?」


 今度は本気で驚くシオンだった。リゼがおずおずと説明する。


「えっと、この前ファナさんに連れられて8thリージョンまで行ったんです。かなり無理矢理だったけど……」


 リゼはかなり言いづらそうにしていた。所属自体は《ナインスギルド》であるトリニティなので、《エイスギルド》であるクリムゾンフレアのファナが一緒ならば、街からショートカットして8thリージョンまで行く事が可能だった。

 先日のインベイジョンの後、リゼはファナに無理矢理連れまわされる中で、8thリージョンにまで足を踏み入れていたのだ。

 事情を聞いたシオンが納得し、愉快げに笑い出す。


「あっはっは! なるほどね。初めて一ヶ月で8thリージョンか!」

「えっとあの、実力でクリアしたのは5thまでだから――」

「それでも十分凄いよ。ソロマッチでも頑張ってるみたいだしねー。この前優勝したE級の試合、観てたよー」

「え、本当ですか!? ありがとうございます」


 リゼはファナやアクライに誘われてソロマッチトーナメントを進めている。最近は文化祭の準備があったため出場していなかったが、すでにE級を優勝し、D級までランクを進めていた。


「えっと、明日のD級トーナメントに出場するんです」

「あー、夕方からあるやつね。応援にいくよー」

「本当ですか? 嬉しいなー」

「どうせ賭け目的だろ」


 ウドゥンが冷たく言う。シオンはリゼの強さに目をつけ、彼女がトーナメント挑戦を始めてからマッチ・ウィンに投資しまくっていた。

 シオンが得意げな様子で言う。


「いやいや。久しぶりに有望な新人が現れたからねー。賭けとかないと損でしょ。ウドゥン、お前は賭けて無いのか?」

「ばかにするな」


 ウドゥンが語気を強めて言うと、リゼが嬉しそうに表情を明るくした。


「こんな安全牌、賭けるに決まってんだろ。もう10M(10,000,000)は儲かってる」

「ちょ……」


 一転し、リゼはがくりとずっこけた。そのまま唇を尖らせながら二人に言う。


「2人とも、私の応援してるのか、お金が欲しいのか、どっちなのー」

「あ、いやいや。戦ってるリゼちゃん、カッコいいよー」


 シオンが取り繕うように言うが、いまいちリゼの信用は取り戻せていない。ウドゥンはといえば、すでに何事も無かったかのようにスキル上げを再開している。

 実際、元々の才能をキャスカによって伸ばされたリゼの強さは、既にC級程度までなら勝ち進めるほどになっていた。問題はガチの戦闘プレイヤーが集ってくるB級、そしてトッププレイヤーが集結しているA級トーナメントだと、ウドゥンは予想していた。


「まあ、C級あたりが打ち止めだろうな。お前の場合、スキルと装備が圧倒的に足りてないから」

「あ、うん。でも最近ファナさんやアクライちゃんと一緒にスキル上げに行ってるから、もうすぐ【エストック】と【ガード】は100になりそうだよ」

「それじゃあ、次は装備だねー」


 シオンが言うと、リゼがコクリと頷いた。


「そうなんです。でも、お金が全然足りなくて」

「ウドゥン。お前金持ってんだろ? リゼちゃんに装備買ってやれよ」

「やだよ。自分で買え」


 ウドゥンはぶっきらぼうに突き放したが、リゼは納得した様子で言う。


「大丈夫です。自分で溜めて買うんで」

「うーん……それじゃあ、これから行くコカトリス狩りで、革は俺が買い取るってことにしてみる? 1枚5k(5,000)でどう?」

「え、いいんですか!?」


 リゼが目を輝かして言う。コカトリスは6thリージョンの敵であるため、ウドゥンとシオンの2人だけでは結構な強敵だが、リゼも含めて三人ならば、少なくとも一匹ずつ安定して狩れる戦力となる。シオンはそう計算した上でリゼを誘っていた。


「待て、それじゃあ俺がただ働きになるだろうが」

「まあまあウドゥン。お前は"コンポジットブレイサー"の売り上げのほうから払ってやるからさ。付き合えよー、親友と可愛いギルドの後輩が一緒に狩りに行ってやるんだぜー」

「そうだよー。一緒に行こう!」


 なぜか偉そうに言うシオンと、それにリゼが乗っかってウドゥンを誘った。二対一の状況に追いこまれたウドゥンが大きく息を吐く。


「ったく。行かないとは言ってないだろうが」

「やった!」

「んじゃ、今から行こうぜー」


 シオンがそう言って勢いよく立ち上がると、ウドゥンがヘッドナイフを放り投げてそれに応じた。リゼも嬉しそうに2人に続き、ウドゥン達は6thリージョン・ラース山脈に向け出発した。




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