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Zwei Rondo  作者: グゴム
三章 喪心の銀ギルド
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短編3. Boy Meets the Heart

短編3『Boy Meets the Heart』



『H級ソロマッチ・トーナメントの参加を受け付けました。プレイヤー名・Wooden。試合開始まで、少々お待ち下さい』


 円形闘技場コロセウムの受付を終えると、目の前に確認のメッセージが表示される。すでに何回も同じ文面を見せられていた俺は、またかと辟易しながらすぐにそのメッセージを閉じた。


「ちょいちょい、そこの君」


 試合開始までの時間をどうやって潰そうかと考えていると、突然見知らぬ女プレイヤーから声をかけられた。話しかけられているのが自分かどうか、周囲を確認してから返事をする。

 

「……俺か?」

「そうだよ、神経質そうな君だ」


 いきなり失礼なことを言う奴だという不満をこめ、俺はその女を睨みつけた。しかしそいつは、意にも介さずに近づいてきた。


「ちょっと聞きたいんだが――」


 意志の強そうな銀色の瞳と、太陽の様に明るい笑顔が印象的だった。栗色のロングヘアーは毛先が外に向かって飛び出し自己主張しており、見るからに活動的な雰囲気だ。背は自分より頭一つ小さいだけ。女性プレイヤーとしては大柄なほうだろう。

 目に付いた点は装備だった。粗末な鉄製の軽鎧とミニスカート。足元もやはり鉄製のブーツで、すべて女性用の初期装備である。まだ始まったばかりとはいえ、戦闘プレイヤーばかりが集まるトーナメントの会場では、彼女の格好はひどく浮いているように見えた。


 見るからに初心者。しかしなぜか威圧感がある奇妙な女――その女の第一印象はそんな感じだった。


「トーナメントってのはどうやって参加するんだ?」

「……そこの受付に話せばいい」

「ふーん。君は出場するのか?」

「まあ……」


 俺は既に何回か、この円形闘技場コロセウムで行われるトーナメントに参加していた。

  VRMMOゲーム・ナインスオンラインが稼動ローンチしたのは一昨日だ。多くのプレイヤーがその日を楽しみにし、スタートダッシュを決めようと意気込んでいた。俺も一昨日からプレイを開始したのだが、数あるコンテンツの中で最初にやり始めたのは、PvPが行われるトーナメントだ。


 強さによってランクが分けられているトーナメントだが、最初は全員揃ってH級からスタートとなるため、現在絶賛カオス状態だ。強い奴も弱い奴も、ガチな奴も遊び半分なやつも、珍しい装備を見せびらかしたい奴も大っぴらにプレイヤーをキルしたいだけの奴も、全員ごちゃまぜだった。

 そんな状態であるため、一回戦二回戦くらいまでなら余裕で勝利できることが多い。ただ準決勝辺りからは、さすがに玉石混淆の玉のほうが残ってくるため、優勝となるとやはり難しいかった。実際、俺もすでに何回も敗退している。


 先ほどまで行われていた午前中の試合では、俺は【マインゴーシュ】と呼ばれる補助武器を用意して挑んでいた。いまだにほとんど使用者のいないこの補助武器による二刀流スタイルで勝ち進んだのだが、決勝戦でマインゴーシュは粉々に【武器破壊】され、負けてしまった。

 その時は悔しくて決勝終了後、対戦相手の男に「そんなスキル聞いたことが無い」と詰め寄ったくらいだ。


 確かに俺はゲームには自信が有った。しかし、初めて触れる完全体験型の戦闘に慣れるのが遅れ、いまだH級トーナメントを優勝できないでいた。そして今度こそ優勝すると意気込みトーナメント受付を終えたところで、この妙な女に捕まってしまったのだ。


「それじゃあ、受付の仕方を教えてくれよ。私、さっき始めたばかりでさっぱり分からないんだ」

「……はぁ」


 その女はなぜか胸を張って威張っていた。態度のでかさに眉をひそめながらも、暇なのは確かだったため、トーナメント参加の手順を教えることにした。


「といっても、本当にここの受付に話すだけだ」

「ほうほう」


 隣にやってきた女が、興味深げに受付NPCにタッチする。目の前に現れたパネルを見て、彼女は目を見開き驚いていた。


「おー。すげー」

「……で、トーナメント参加。一人か?」

「おう。そうだぜ」

「だったら、ソロマッチの項目をタッチして、それとランクはH級だな」

「んー……よしできた」


 女の目の前に、先ほど自分が受付を済ませた時とパネルと同様のものが現れる。


『H級ソロマッチ・トーナメントの参加を受け付けました。プレイヤー名・Riz。試合開始まで、少々お待ち下さい』


 それを横から覗き見たとき、初めて彼女の名前を知った。そういえばお互い、名乗ってなかったな。


「リズさんは――」

「ん。何で名前、知ってるの?」

「いや、そこに書いてあるから」


 パネルを指差す。そこに書かれたプレイヤー名を見ると、彼女はげらげらと笑いだした。


「ぎゃはは! なるほどね。私はリズだ。君は?」

「ウドゥンだ」

「ウドゥン! なんか暗い名前だなー」

「……」


 思ったらすぐに口に出す性格のようだ。しかも、割と失礼な思考をしている。


「ウドゥン。お前は初参加か?」


 再び睨みつけるも、リズは一切気にする様子もなく続けた。


「いや、一昨日から何回か……」

「へー、強いのか?」

「まだH級だ。決勝進出が最高だな」


 それを聞いたリズは弾けるように笑った。


「決勝までいけるくらいには強いってことじゃないか! ケンソンするなよ」

「リズさんは――」

「リズでいいぞ。さん付けとか体が痒くなる」


 リズはおどけるように自身の肩を掻き毟る動作をみせた。そして次の瞬間には何がおかしいのか、再びげらげらと楽しげに笑っている。

 話しかける度にいちいち腰を折られてしまう。かなりの喋りたがりな性格に感じた。


「……リズはその装備で参加するつもりか?」

「装備? 装備って何だ? 必要なものなのか?」


 何を言っているんだこいつは――その発言を聞いてげんなりとしてしまった。どうやらこいつ、チュートリアルクエストというものを受けていないらしい。

 もし順調に全てのチュートリアルを受けていれば、そんな発言はしないはずなのだから。


「このゲームでは普通まず、周辺エリアでモンスターを倒したり、酒場に行ってクエストを受けたりして、スキル上げをしながら金を溜めて、武器防具を買うものだ」

「ふーん。よくわかんないけど、対人戦にはいきなり来るもんじゃないのか」


 リズはうんうんと頷く。しかし彼女は笑顔を崩さず能天気に言った。


「私このゲーム、格闘ゲームが得意だったから始めたんだ。対人戦がしてみたくてな」

「あぁ。なるほど」


 思わず相槌を打ってしまった。俺も格闘ゲームはたしなんでいる。ほかにも一人称のアクションRPGやFPSもそれなりにやっていた。それらのゲームプレイはうまいほうだと自負し、今回ナインスオンラインのメインコンテンツであるトーナメントにも自信満々で挑んでいたのだ。

 しかし実際にこのゲームの戦闘は、今までのゲームとは余りにも勝手が違った。なにしろ感覚的には全身を使って操作しなければならない。レバーとボタン数個のアーケード機体でプレイする2D、3D格闘ゲームや、コントローラーで操作すれば自由に動き回れる一人称ゲームとは全くの別物だった。

 その操作に慣れる為に、俺は稼動ローンチ初日徹夜で1stリージョン・ミリー森林でファーラビットを狩り、ようやくある程度自由に動ける様になったくらいだ。

 

「俺もそんなノリで始めたけど、結構難しいぞ」

「まあ、とにかく戦ってみてーんだよ。武器は最初っから持ってたしな」


 リズはそう言って、腰に差していた鉄製の細剣を引き抜く。それはビギナーズレイピアと呼ばれる【レイピア】の初期装備だった。

 このビギナーズシリーズの性能は最弱であり、はっきり言ってこのシリーズでトーナメントに来る奴は皆無だ。

 大きく息をつき忠告する。


「その武器じゃあ、多分苦しいぞ」

「え、そうなのか?」


 リズはきょとんとした顔を見せる。しかしもうトーナメントに申し込んだ後だ。いまからキャンセルも一応はできるが、あまり推奨はされない。


「まあ、一回戦で楽なのと当たると良いな」

「あぁ。楽しみだぜ」


 一応気を使って言ってやると、リズは弾ける様な笑顔で答えていた。





『アルザスサーバー・H級トーナメント一回戦

 リズ vs ウドゥン

 1on1ソロマッチバトル』


 トーナメントが始まり、最初の対戦相手を見て驚いた。それは先程まで会話していた、初心者丸出しのリズだったのだ。


「よーよー。また会ったな」

「……」


 わくわくとした表情で円形闘技場コロセウムに現れたリズは、興奮した様子を隠さずに周囲を見渡していた。


「へー。すげーな。あそこに居るのは観戦者かー。おーい!」


 リズが観客席に向かって手を振ると、数人のプレイヤーが笑いながら手を返した。見た感じ、特に知り合いというわけでは無さそうだ。手を振られたから面白半分に振り返しているのだろう。

 しかしそれに気を良くしたのか、彼女は周囲全体に向けて手を降り始める。すると観客席から笑いが沸き起こっていた。


 どうやら結構な目立ちたがり屋でもあるらしい。初めての戦闘というのに、ここまで物怖じせずにいられるのはすこし感心してしまう。


「さーてやるか!」


 リズがくるりと回り、向き合ってきた。


「まだ戦闘開始まで時間がある」

「え、どこに表示あるの?」

「あそこだ」


 空中に浮いた掲示板を指差すと、そこには戦闘開始まで残り時間が30秒ほどという表示があった。それを見て、彼女は慌ててレイピアを引き抜く。


「あと30秒しか無いじゃん。やばやば。これで殴ればいいのか?」

「レイピアだから突くんだろ」

「ああ、確かに! どこ刺しても同じなのか?」

「いや、防具が薄いところを狙ったほうがダメージがでかいぞ。特に刺突剣はな」

「へぇー」


 一体こいつは何をしにきたのだろう。どうやら戦闘チュートリアルも受けていないらしい。本当にすべてのチュートリアルを飛ばしてきたようだ。さすがにこんな初心者丸出しの奴に負けるわけにはいかない。

 パネルを操作し、俺も装備を取り出す。片手持ちのロングソードを右手に、補助武器マインゴーシュを左手に構え、試合開始の合図を待った。


『戦闘を開始します』


「はあ!」


 戦闘開始の合図とともに、リズは先手必勝とばかりに突進してきた。そのまま右手一本で無造作に突きを放つ。

 しかし俺は右手に持ったロングソードを操作し、その攻撃を軽く受け流した。


「うお!? やるじゃん!」


 いきなりの速攻を簡単にいなされ驚くリズに向け、俺は受け流しに使用したロングソードをそのまま振るった。


「うわっと!」


 リズが身を翻してそれをかわす。なかなか素早い反応だ。彼女はそのままバックステップで大きく距離をとっていた。

 リズがレイピアを肩に担ぎながら首をかしげる。


「今のは何だ?」

「……【受け流し】だ」

「なにそれ?」

「敵の攻撃を武器で受けて、軌道をそらす防御方法だ」

「へー」


 リズが感心した様子で頷く。そして何を思ったのか、レイピアを寝かせるように横にして目の前に掲げると、子供のようにワクワクとした表情で言った。


「よし、来い!」

「……はぁ」


 思わずため息をついてしまう。どうやら「受け流しがしてみたいから、攻撃してこい」ということらしい。

 俺は今、H級トーナメントで真剣勝負をしにきているはずだ。それがいつの間にか、初心者相手の戦闘チュートリアル状態になっている。観客席にいる連中が大笑いしている姿が目に見えるな。


「行くぞ」

「おう!」


 一気に距離を詰め、右手のロングソードを振り下ろす。リズは横に寝かせていたレイピアでそれを受けた。

 キリキリと刃同士が擦れる音が響き、ロングソードはリズの横にずり落ちる。


「へえ! なるほどなー」


 受け流しを決めたリズが嬉しげに声を上げる。そしてぶんぶんとレイピアをぶん回しながら言った。


「サンキュー、だいぶわかってきたぜ。あ、そういや制限時間とかあるのか?」

「さっきの掲示板に表示されてるだろ。5分だ」

「おうおう! 本当だ!」


 嬉しそうに掲示板を見つめるリズに向け、痺れを切らす。


「もう普通に戦っていいのか?」

「え? 最初っから真剣勝負だろ?」

「……」


 呆れて言葉も出ない。こいつ、まじで何を考えているんだ。いや、何も考えてないのか。

 そう言うのであれば手加減は無用だろう。今度はこちらから無造作に距離を詰め、ロングソードを振り上げると、そのまま袈裟切りを放った。


「はっは! それはさっき見たんだぜ!」


 リズは笑いながらそれを受け流す。続けてレイピアを突き出してくるが、俺は左手に持ったマインゴーシュを操り、それを受け流した。


「え、ずるいぞ! 二刀流とか。私はこれしか持ってないのに!」


 文句を言うリズを無視し、俺は受け流されていたロングソードを反転、横殴りに振るう。


「おっとっと。あっぶねー」


 思ったよりも素早い反応で、リズはそれをぎこちなく受け流した。リズが大きくバックステップをして体勢を立て直す。そして、不満げに眉をひそめた。


「この受け流しって奴、いまいちタイミングがわからんな」


 戦闘中だというのによく喋る。本当に思ったことがすぐ口に出るんだな。


「嫌なら回避するか、ガードするしかないな」

「ガード?」

「あぁ。攻撃にあわせてタイミングよく自分の武器をぶち当てれば、ガード状態になる。要するにブロッキングだ」

「あぁ。ブロッキングの要領でやればいいのか」


 格ゲー用語で説明すると、リズはうんうんと頷いた。どうやら本当に格ゲー畑の出身者のようだ。

 しかしこれほどまでに読めない――マイペースで強引で、目立ちたがり屋の人種は初めて会った。このままでは、ずるずるとこいつのペースに巻き込まれてしまいそうだ。

 これ以上こいつに付き合う必要など無い。さっさと勝負をつけて――


「なーにボーっとしてんだよ!」


 考えているとリズが一気に距離を詰めてきた。バカの一つ覚えの様にレイピアを突き出してきたので、マインゴーシュで再び捌く。


「あは! またか!」

「……」


 これ以上は時間の無駄だ。一気に終らせてやる。

 俺は素早く回り込み、ロングソードを上段に構えた。


「よーし!」


 リズは笑っていた。なぜかその笑顔に嫌な予感がしたが、それを押し殺してトリック【二段斬り】を発動させる。

 本来の軌道と平行に、一瞬遅れて放たれる二つ目の斬撃。高価なトリックブックを買って覚えた、初心者には避けようのない攻撃だった。

 しかし次の瞬間、俺はぞっとする光景を眼にした。


 キキン――!


 リズは俺の【二段斬り】をレイピアの切先(・・・・・・・)でガードした。針のように尖った刺突剣の先で、二つの平行な斬撃を弾き飛ばしてしまったのだ。

 それは曲芸のような、信じられないガードだった。


「っく……」


 予想外の完璧すぎるジャストガードによって、ロングソードを持つ右手が大きく弾き飛ばされてしまう。慌てて左手のマインゴーシュを振るい、リズの喉下を狙いにいった。


「あは!」


 リズはぞっとするほどに無邪気な笑顔で、マインゴーシュの突きすらもレイピアで突き弾いた。とてつもなく素早い反応と、信じられなような精密さだった。

 両手に持った武器がそれぞれ弾き飛ばされ、俺は大きく両手を開く形となってしまう。全開となった俺の懐に向け、リズはレイピアを構えた。


「たしか、防具が薄いところを狙うんだよな」


 リズはそうつぶやき、精密に首を狙って突きを放った。それは寸分の狂いも無く、俺の喉仏を捉えていた。


 彼女の嬉しそうな笑顔がいつまでも眼に焼きついていた。





『勝者 無所属・リズ

 配当は3.31倍です。払い戻しは10秒後に自動で行なわれます』


「げえ! あの初期装備、勝ちやがった!」

「マジかよ。なんだよあの動き、ありえねーだろ」

「だまされたわー!」


 周囲の観客が一様に騒ぎ出す。一回戦で俺を破ったリズは、そのままH級トーナメント決勝戦まで勝ち進み、そして今決勝の相手すらも圧倒的な強さで撃破してしまった。

 

「あんな奴がいるのか……」


 俺は愕然としていた。

 昨日一昨日と、何度も何度もトーナメントに挑んでは敗退してきた。それでもまだ何とか戦える自信があった。負けはしたが、装備と戦い方しだいで勝てる道筋が見えていたのだ。


 だがあいつはなんなんだ。全くの初心者――しかもチュートリアルさえ無視した初戦闘で、俺の必勝パターンを信じられない反応で防ぎやがった。

 その後は一戦毎にどんどんと動きのキレを増していき、ついにはH級トーナメントを優勝した。初期装備のまま、スキルも無しにPvPに挑み、圧倒的な強さで並み居るプレイヤー達を蹴散らしてしまったのだ。 

 あんな奴相手に、俺はこの先戦えるのだろうか。


「無理だろうな」


 本当のトッププレイヤーになるための才能、そんな物を間近で見てしまっては、もはや上を目指すモチベーションなど湧かない。別のことをして楽しむことにしよう。

 このゲームには対人戦以外にも楽しむべきコンテンツはいくらでもあるのだから。


 立ち上がり、出口に向かおうと足を踏み出す。するとその時、明るい声が観客席に響いた。


「うおーい! ウドゥン!」


 声のした方向に顔を向けると、そこには栗色の髪を振り乱して駆け寄ってくるリズがいた。どうやら決勝戦を終わらせてすぐにやってきたようだ。

 彼女は目の前までくると、ぱあっと明るい笑顔を向けてきた。


「お前のお陰で勝てたぜ。ありがとうな!」


 あまり唐突なお礼に思考が回らない。なんなんだ、こいつ。


「……俺はなにもしてない。お前が強かっただけだろ」

「いやーすっげー楽しかったぜー。ガードするのが最高に気持ちいい。ほら、お前が教えてくれた奴だよ」


 はっきり言って、教えたのは戦闘チュートリアルにあるような基本的なものだ。そんな事で感謝されても困ってしまう。


「勝てたのは明らかにお前の才能だ。多分お前、相当強くなれるぞ」

「ぎゃははは! ありがとうよ」

「別に……」


 俺が微妙な態度を取っていると、突然リズがぐいっと顔を近づけてきた。長いまつげを伴った銀色の瞳が、目の前でぱちくりと瞬きをする。


「しかしお前、本当にくっらいなー。ゲーム中にそんな湿っぽい顔して楽しいか?」

「……今はそんなに楽しくないかな」


 その言葉に、リズは目を見開いて息を呑んでいた。ぽかんとした表情で俺の顔を見つめた後、やがてげらげらと笑い出した。


「ぎゃはは! お前、楽しくないのにゲームしてんのか? マゾなのか?」

「あほか、そんなわけないだろ」

「じゃあお前、なんでナインスオンラインやってんだ?」

「なんでって、そりゃあ……」


 言いかけて、慌てて口にするのを止めた。今言いかけた言葉が、少し自分でも滑稽に思えたからだ。


「そりゃあ、ん?」


 リズがニヤニヤと笑みを浮かべながら聞いてくる。大きな瞳は上目遣いにこちらを見つめ、口元から白い歯がのぞき見えていた。いたずらっぽい表情で立つ彼女の姿を見ていると、なんとなく自分が意地を張っているような気がしてバカらしくなってしまう。

 俺は気が抜けるように息を吐き、観念した。


「そりゃあ、楽しいからだ」

「あは! だろ? だったら辛気臭い顔してんじゃねーよ。ほら、なんか賞金貰ったから奢ってやる。街をまわろうぜ」

「……いくら貰ったんだよ」

「ん、10,000とちょっとかな。多いのか少ないのか、全然分からないけど」

「じゃあ、俺が奢らないとな」


 そう言うと、リズはぽかんと口を開いた。顔に「何言ってんだお前」と書いてあるようだ。そんな彼女を納得させるために、俺はパネルを操作し先程得たメッセージを表示させた。


『払い戻し――120,818G

 倍率――3.31倍』


「……これって?」

「さっきの決勝。俺はお前の勝ちに全財産を賭けてたんだよ。それが当たって、これだけになって戻ってきた。ありがとうよ、儲かったぜ」


 次の瞬間、事態を把握したリズは腹を抱えて笑い出した。


「ぎゃはははは! なんだよ、楽しんでるじゃねーか! あははは! おもしれーなお前!」

「お前もな」

「よし、じゃあウドゥン。なんか奢ってくれよ! あ、ついでに装備についても教えてくれー」

「……それはチュートリアルを受けて来い」









 それが、俺とリズの出会いだった。



(短編3『Boy Meets the Heart』・終)

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