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Zwei Rondo  作者: グゴム
三章 喪心の銀ギルド
35/121

4. 大規模戦闘

4

 

「だめか」

「もー。これに何の意味があるの?」


 2人はギルドホーム二階の廊下に居た。

 リゼが嫌がるクーネを抱きかかえ、木製のドアを無理矢理開けさせようとしている。「ニャーニャー」と抗議の声を上げる黒猫だったが、ウドゥンは構わず続けさせていた。


「開くわけ無いじゃん。ここってリズさんの部屋でしょ?」

「前はこいつ、この部屋の中にいただろうが」

「それは、リズさんが前に来てたってことになったじゃん」


 それはウドゥン自身が言ったことだった。そうとしか考えられないという消去法により、彼はこの前の出来事に一応の決着をつけていたのだ。

 だが先ほどのエレアの話に、彼は少し違和感を覚えていた。


「さっきエレアが、クーネと戯れているプレイヤーがいたって言っただろ」

「え? うん」

「おかしいんだよ」

「なにが?」


 きょとんとして首をかしげるリゼに対し、ウドゥンが早口で捲くし立てる。


「クーネは『幸運の黒猫』だ。あいつの噂は前からちょいちょい聞いていた。変わった使い魔が街をうろついているが、なかなか捕まらないってな。理由は勿論【不可視】だ」


 クーネのスキルの一つ【不可視】は視覚に一切映らなくなってしまうという強力な物だ。クーネが野良猫だった頃、姿を見せてはすぐに煙のように消えてしまっていた原因となっていたスキルである。


「でもウドゥンが捕まえたじゃん」

「そうじゃなくて、クーネをあやす様な奴がいるなら、そいつは簡単に捕まえられただろうが」


 ウドゥンがクーネを捕らえた時もそうだったが、【不可視】は単純に視界に映らなくするだけであり実体はその場所に存在する。しかしだからといって、クーネ自身が気を許し【不可視】を解除しない限り、普通のプレイヤーが喉をなでることなど不可能に思えた。

 しかしエレアの話では、実際にクーネの喉を撫でるプレイヤーがいたという。ウドゥンはその話に、あるプレイヤーの影を感じていた。


「喉を撫でてもらいたかっただけじゃないの?」

「そうかもしれないが……さっきエレアが話してくれたプレイヤーの格好。俺には良くわからなかったが、女っぽかったろ?」

「ていうか女の人でしょ。完全に」


 どこの世界にフリルつきのワンピースを着て歩く男がいるのかと、リゼが呆れたように言った。するとウドゥンは、少し迷った様子で口に手をあてた。


「そうなると、なんか、あいつの影がちらつくんだよな」

「あいつって? ……あ」


 リゼがはっとして目の前のドアに目を向ける。そこにはネームプレートもなにも無い質素な木のドアがあった。先日クーネが入り込んでいた時に見た、華美な雰囲気の内部が思いだされた。


「まさか、リズさん?」

「……あぁ」


 ウドゥンもまた自信なさげに返事をする。微妙な空気のまま、2人の間に静寂が漂った。

 その時突然、けたたましく警告音が鳴り響いた。


『緊急告知――緊急告知――』


 2人の会話をうやむやにする大げさな音と共に、強制的に2人のパネルが開き、目の前にメッセージが表示される。


『インベイジョンが発生しました。侵攻勢力は"トロール軍団"。到着予定時刻は6/15(土)・15:00。アルザスでは防衛作戦に当たるギルドを募集しています。有志は各通りの冒険者ギルドにて参加申し込みをしてください。詳しくはこちら――』


 先程の神妙な空気は一気に吹き飛んでしまった。リゼが説明文を読むうちに、どんどんと嬉しそうな顔に変わる。


「これがインベイジョン!? なんだか面白そう。どうすれば参加できるの?」

「……グリフィンズの連中は出るんだろ。なら何もしなくても、誰かが勝手に登録しに行くはずだ。今日はログインしてるのか?」

「この後、一緒に狩りに行く予定だったけど――あ、待って、今メッセージが来た」


 リゼは届いたばかりのメッセージをふんふんと頷きながら読むと、パネルを閉じてクーネを手から離した。


「今からインベイジョンの登録に行くの誘われたから、行ってくるね」

「クーネは借りとくぞ」

「うん。あ、フリーは引っ付けないでよ」

「分かってる」


 ウドゥンの使い魔である蚤のフリーは、必要時以外は彼の身に着けている皮製の装備に引っ付いている。

 フリーのスキルは【情報吸収テータドレイン】であって、吸血するわけではないのでクーネもかゆくならない(たぶん)と説明したのに、リゼは未だに納得していなかった。


「それじゃ又ね。あ、明日の帰りに文化祭の前準備するんだから、先に帰らないでよね」

「はいはい。分かったから、さっさと行け」

「じゃあねー」


 リゼは笑顔で手を振ると、ギルドホームの入り口に向かって駆けて行った。どうもセウイチの酒場で待ち合わせているようだ。グリフィンズのギルドホームも32番街に所属するため、待ち合わせに都合が良いのだろう。


 残されたウドゥンは投げ捨てられてポカンとしていたクーネを抱き上げ、再びドアに触れさせてみた。

 今度はしっぽを掴んで乗っけてみたが、やはり何も起きなかった。代わりに黒猫クーネが先程に倍する大きさで非難の鳴き声をあげるだけだった。






 ウドゥンの工房がある32番街にかぎらず、すべての通りには冒険者ギルドとよばれる施設が存在する。この場所はギルドの設立やサーバー間の移動申し込みなどシステム上の雑務を行なう場所だ。

 街の中心から外周に向かって伸びる大通り、その中央に位置する噴水広場に建つ冒険者ギルドはNPC店舗の例に漏れず、普段はあまり利用者もおらず閑散としている。

 しかし今は街中を巻き込んで行われる一大イベント『インベイジョン』が告知されたことを受け、多くのプレイヤーが参加申し込みしようとこの場所に訪れていた。


「うわぁ。すごい人」


 リゼはギルドに入るなり歓声をあげた。そこまで広くない石造りの建物は、多くのプレイヤー達で騒然としていたのだ。カウンターで各種手続きをする者、情報交換の為に立ち話をする者、久しぶりに会って談笑している者などで建物内はすし詰め状態だった。

 そんな中、リゼと一緒に訪れていたグリフィンズのユウが慣れた様子で言った。


「インベイジョンの時はいつもこんなもんだよ。人気のあるイベントだからね」

「へえー」

「とりあえず受付に行こうか」

「うん」


 2人が人ごみを避けながら建物内を進んでいると、あるプレイヤーがユウの肩を叩いた。


「よう、ユウ」

「あ、ドカティさん。こんにちは」


 黒の短髪に精悍な顔つきをした、ガタイの良いプレイヤーだった。スポーツ選手の様な爽やかな笑顔が印象的で、装備は重厚な金属鎧を身に着けている点から、たぶん前衛かな――とリゼは推測した。


「今回もグリフィンズは参加かい?」

「はい。よろしくお願いします」

「はっは! こちらこそよろしくな。最近活躍してるグリフィンズだ。今回も当てにしてるぜ」


 ドカティがユウの肩を叩きながら言う。そして彼は、隣にいたリゼに目を向ける。


「こっちが噂の初心者か」

「え……?」


 リゼは予想外なことを言われて素っ頓狂な声を上げてしまったが、彼女はとりあえず自己紹介をしておくことにした。


「あ、あの。私はリゼといいます。よろしくお願いします」

「俺はドカティ。オーンブルのギルドリーダーだ。君の話は聞いてるぜ、リゼ」

「え……どうして?」


 リゼの戸惑った様子に、ドカティが笑いながら説明した。


「前のC級トーナメントで結構な立ち回りを見せたらしいじゃないか。『ブラッククロス』のラヴォスが嘆いていたぜ。ああ、ラヴォスはブラッククロスのギルドリーダーだ。君が準決勝で返り討ちにした前衛の男だよ」

「あ……」


 先週に開かれたC級チームマッチ・トーナメント。そこでリゼは、ほぼ一対一の状況から中堅ギルド・ブラッククロスのギルドリーダーを撃破してしまっていた。

 その番狂わせは、既に一部のプレイヤー達の中では噂になっていたのだ。


「えっと。あの……」

「はっは! まあグリフィンズには期待してるぜ。今回は『レイディラック』の連中も参加するみたいだし。楽勝だろうがな」

「前回も全滅させましたからね。頑張りましょう」

「あぁ。それじゃあ、また後でな」


 そう言ってドカティは2人から離れ、別の場所で違うプレイヤーに話しかけていた。リゼがほっと息をついていると、ユウが少し説明をしてくる。


「ドカティさんのオーンブルは《セブンスギルド》で、32番街を本拠にするギルドだと一番ギルドランクが高いんだ。だから全体の指揮はあの人が執るはずだよ」

「えーと。ギルドランクって?」

「あ、そうか。えーと、ナインスオンラインの世界に1stから9thまでのリージョンがあるのは知ってるよね?」

「うん。グリフィンズは4thリージョンまで攻略してるんだよね」


 リゼが答えると、ユウは笑顔で頷いた。


「そうそう。まだリゼには参加してもらってないけど、グリフィンズは現在5thリージョンを攻略中なんだ。だからグリフィンズはギルドランクは[5]――つまり《フィフスギルド》って事になる。それで、今回インベイジョンでは大量のモンスターが街を襲うわけなんだけど、敵の強さは『参加するギルドの中で最高ランク』に合わせて決定されるんだ」


 インベイジョンは番地ごとに分かれて防衛戦を行なう。そしてユウが説明したように敵軍勢の強さは、その番地から参加するギルドの最高ランクによって決定する。その為条件を満たす高ランクの戦闘ギルドを中心に、インベイジョンの防衛作戦を取ることが多かった。


「それって32番街でってこと?」

「そうそう。オーンブルはサーバーに十もない《セブンスギルド》の一つだからね。インベイジョンの時はいつも32番街全体の指揮をとるんだよ」


「なるほどー」

「あ、順番が空いたね」

「うん!」


 説明をしているうちに、ユウ達はギルドの受付嬢NPCの前に辿り着いた。ユウが彼女に話しかけると、現れた冒険者ギルド専用の項目の中から『インベイジョン』の項目を選ぶ。そして慣れた手つきで手続きをし始めた。

 リゼもユウの真似をし、受付のNPCと会話して冒険者ギルドのメニューを開いた。そしてギルド設立などの項目の中にある、インベイジョンに関する項目を選択する。

 そのままポチポチと項目を眺めて遊んでいると、ある画面にまでたどり着いた


『現実時刻6/15(土)・15:00から、アルザスサーバーにてインベイジョンが発生します。詳しい説明は以下の項目をタッチして確認してください


・インベイジョンとは

・参加について

・防衛成功時の報酬

・防衛失敗時のリスク

・インベイジョンに参加しますか?

 はい

 いいえ   』


 リゼは最初に、一番下にあった選択肢が目に入った。自分は参加するのだからと、深く考えずに『はい』の項目をタッチする。

 すると次の画面が表示された。


『インベイジョンの参加を受け付けました。


 参加ギルド『トリニティ』・ギルドランク[9]


 続けて連合の申し込みについて――』


「え!」


 画面に現れたトリニティという言葉をみて、リゼは小さく悲鳴を上げた。


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