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Zwei Rondo  作者: グゴム
二章 幸運の黒猫
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9. 立ち話

9


 結局100匹近くいたクラムボンの大群は次々とその甲殻をかち割られていき、ものの10分ほどで全滅してしまった。戦闘が終った後の小部屋には、ぽろぽろと大量のドロップ品が散らかっていた。


「もう終わりか。つまらなーい」

「お疲れ様です」


 ファナが幼子のように口を尖らすと、キャスカがそれをねぎらった。隣ではリゼがほっとして大きく息をついている。リゼは初めて見る大量のモンスターに最初は戸惑っていたが、戦い始めてからは集中し、死亡(デッド)する事無く戦闘を終えていた。

 そしてもう1人――前線で最も動き回っていたアクライが、疲れた様子も見せずに話しかけてきた。


「えーと。キャスカ、こっちは誰?」


 アクライは小学生のように小さな体躯をしたツインテールの少女だ。裾を短くカットされた浴衣のような和風装備を身につけ、腰には短い小太刀を二本差している。彼女のくりくりとした大きな瞳が、キャスカの横にいるリゼを捉えていた。

 それに気がついたリゼが、掌を体の前で重ねて自己紹介する。


「えっと。私はリゼと言います。よろしくお願いします」

「あは! リゼ! よろしくね。私はアクライだよー。クリムゾンフレアのNo.42なのだ!」

「クリムゾンフレア? No.42?」


 リゼがきょとんとして首を傾げると、アクライはがくっと肩を落とした。続けて信じられないといった様子で言う。


「クリムゾンフレアを知らないなんて……」

「アク。リゼは初心者らしいからな。仕方ないだろ」


 ファナが口出しすると、アクライが大げさに驚いた。


「ええ! 初心者なのに、姉様に名前覚えられてるし!」

「えっと、そこは驚くところなのかな……」


 リゼが戸惑いながら聞くと、アクライは身を乗り出して言った。


「だって姉様は他のプレイヤーのこと、全然興味ないんだよ。自分が認めた相手しか――あ、もしかしてリゼ、あの"挨拶"に耐えたの?」

「最初のあれのこと? 一応キャスのお陰でなんとか……あはは」


 リゼは苦笑しながら答えた。どうやらあの攻撃は本当に挨拶であり、自己紹介も兼ねた行動だったようだ。そんなプレイヤーもいるものなのかと、リゼはひどく驚いてしまった。


「大丈夫。姉様の攻撃を受けきったんだったら、リゼは筋があるよ。トーナメントには出てるの?」

「ううん。まだ一回も――」

「なら、すぐに出てみるといいよ。楽しいよー! あ、それとフレンドになろう!」

「えっ……と。うん!」


 アクライの謎テンションに戸惑気味なリゼだったが、フレンドという言葉を聞いて表情を明るくする。2人はすぐにパネルを呼び出し、メッセージを打ち合ってフレンド登録をしていた。


 そんな2人を横目に、ファナとキャスカは久しぶりの再会を楽しんでいた。

 深紅の装備に身を包んだファナと、同じく蒼の装備に身を包んだキャスカ。共に美人である2人のプレイヤーが並ぶその場所は、まるで花畑のように華やかだ。

 しばらく近況を話し込んだ後、ファナが言う。


「そういえばキャスカ。リゼとはどういう付き合いなんだ? 見た所インペリアルブルーの新入りって訳じゃ無さそうだけど」

「はい。ウドゥン様の紹介で、少し戦闘について指導をさせてもらっています」

「えぇ!?」


 その言葉に反応したのはファナではなく、リゼと楽しげに会話していたアクライだった。


「ウドゥンの紹介?」

「はい。始めたばかりなので、色々と教えてくれないかと」

「へぇー。あのウドゥンがねー」


 アクライが突然、リゼをじろじろと好奇な目で見回し始めた。リゼが少し苦笑しながら言う。


「アクライちゃんはウドゥンを知ってるの?」

「勿論! あいつはね、昔っから生意気なんだよ。弱いくせにさ。まあでも、私がウドゥンを育てたといっても過言では無いね!」

「へぇ!」


 胸を張って自慢げに言い張るアクライに、リゼが感嘆して声を上げる。キャスカが何か言いたげな目で見つめていたが、それよりも先にファナが言った。


「ウドゥンって、誰だっけ?」

「え……」


 【戦乙女ヴァルキリー】はポカンとした表情を浮かべていた。アクライがジト眼で見つめ返す。


「姉様ぁ。ウドゥンだよ。トリニティの【智嚢ウィズダム】」

「……っ」


 突然出た『トリニティ』という言葉に、リゼが反応しかけてしまう。しかしすぐに息を止めたので、他の三人には動揺は伝わらなかった。


「あぁ。トリニティの黒髪か」


 アクライの説明に、ようやくファナがうんうんと頷く。その様子を見てキャスカが呆れたように言った。


「ファナ様。何度も会っておられるのでしょう? 名前くらい覚えて差し上げてはいかがでしょうか」

「雑魚には興味ないし。あんな生意気でいけ好かない男なんかよりも――」

「え……?」


 ファナが突然リゼに身体を寄せると、その頬を撫でながら妖艶な声を奏でる。


「リゼの方が断然おいしそうだ……」

「あ……はは……」


 息が掛かるほどの近距離で、ウットリとした笑みを浮かべるファナ。彫刻のように細い指で、リゼの丸っこい頬をゆっくりと撫でまわしていた。一方のリゼは先程襲われた恐怖が抜け切らず、苦笑いしながら体を固くしている。

 キャスカが慌てて2人を引き剥がした。


「ファナ様。お戯れはよしてください。リゼが怖がっています」

「そんなー。リゼは私のこと、嫌いか?」

「えっと……何て言えばいいのか……」


 リゼは明らかに困惑している。そのままもじもじと戸惑っていると、楽しげに見守っていたアクライが思い出したように言った。


「あ、姉様。次の分、集めてくるね」

「そうだな。よろしく」

「それじゃリゼ、また今度遊ぼうねー。キャスカもまたね!」


 そう言って再び出現(ポップ)し始めたクラムボンをかき集めるため、アクライは通路に消えていった。

 その背を見送ったリゼとキャスカに、ファナがニヤニヤと笑いかける。


「ということでキャスカ、リゼ。悪いがこの場所は私達が占有してる」


 続けて挑発するように掌を上に向けながら、煽るように言った。


「文句があるならかかってきな。相手になってやる」

「え……」


 そう言うと、部屋の温度が一気に下がった気がした。ファナが殺気を放ったのだ。リゼはファナのコロコロと変わる雰囲気に対し、言い知れぬ恐怖を感じてしまった。

 しかしキャスカはいつものことといった様子で、動じること無く答える。


「ファナ様。我々は先に進むと言ったはずです」

「ふふふ! つまらんなーキャスカ。貴様はいつもすかしやがって、乗ってこない。いつか本気の【蒼の死神(ブルーリーパー)】とヤってみたいもんだ」

「お戯れを。私ではファナ様の足元にも及びません」

「どうだかね」


 ファナは肩をすくめ、クスクスと愉快そうに笑っていた。


「それではファナ様、失礼します」

「し……失礼します」


 丁寧に頭を下げるキャスカとリゼ。最後にファナはこんなことを言った。


「リゼ。早く育って、トーナメントを勝ち進んでこい。A級で待ってる」

「えっと……がんばります」


 リゼはその言葉の真意が分からないまま、あいまいに返事をした。





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