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Zwei Rondo  作者: グゴム
二章 幸運の黒猫
23/121

7. アーテイ地下水道

7



 3rdリージョン・アーテイ地下水道は、古びたコンクリートで作られた水路エリアだった。ここには水棲モンスターやアンデットモンスターが多い。リゼはそれらのモンスターを相手に、キャスカから戦闘の手ほどきを受けていた。


「敵のトリック発動時には、ある箇所が赤く光ります。敵の種類によって使うトリックは決まっているので、覚えておけば次に何が来るのか予想できます」

「このスケルトンは?」


 リゼがエストックを構えながら聞く。目の前にはカタカタと骨を軋ませながら、窪みの奥に赤い眼光を光らせる人骨モンスター・スケルトンが、ロングソードを力なく構えていた。


「ソード型のスケルトンならば、武器スキルは【ロングソード】。ここは3rdリージョンなので使うトリックは【ヘヴィスラッシュ】でしょう。大きな振りかぶりから一撃必殺の斬撃を打ち下ろす、強烈なトリックです」

「じゃあ、ガードすれば良いんだね!」


 リゼが元気よく言うと、キャスカは小さく首を横に振った。


「いえ。破壊力のある攻撃ですので、下手にガードするとそのまま打ち抜かれてしまいます。【ガード】スキルが上がればタイミングに余裕が出来ますが、最初の頃は回避したほうが無難でしょう」

「そっか」


 そんなことを話していると、スケルトンがリゼ達に襲い掛かってきた。キャスカは一歩引いていたので、攻撃対象はリゼだ。

 スケルトンがカタカタと顎骨を動かしながら、手にしたロングソードを振るう。リゼがそれをエストックの腹で受けると、金属音が響いてスケルトンの攻撃は弾き飛ばされた。続けてリゼが反撃にエストックを突き出すと、それは左の鎖骨の辺りを抉り、スケルトンの左腕が音を立てて吹き飛んだ。

 しかしスケルトンはひるむこと無く、右手のロングソードを高く掲げる。ボロボロに刃こぼれしたロングソードの刃が赤く瞬いた。


「来ます」

「うん!」


 先程話していたロングソードのトリック【ヘヴィスラッシュ】が放たれた。残像を残し垂直に振るわれるロングソード――しかしリゼがそれをサイドステップで避けると、振り下ろされた刃は轟音を上げて地面を抉った。

 トリックを放った反動で大きく硬直したスケルトンに向け、リゼがエストックを放つ。鋼の刃が頭蓋骨を砕き、スケルトンはガシャンと骨クズに還ってしまった。


「お見事です」

「へっへー。キャスの言った通りだったね」


 キャスカが賞賛すると、リゼが少し照れながら答えた。


「だいぶ防御の違いが分かってきたよ」

「そうですか。それは良かったです」


 初心者であるリゼは、キャスカからナインスオンラインにおける戦闘の定石を教えてもらっている。まず最初に教えて貰ったのは、防御についてだった。


 このナインスオンラインにおける戦闘の基本は防御であると言われている。そして防御技術は大別すると、三つに分けられる。即ち【回避】と【受け流し】そして【ガード】の三つだ。

 【回避】は最も基本的な防御方法の一つで、要するに敵の攻撃をかわすことである。お手軽だが使用する頻度が多い防御方法であり、なかなか奥が深い。特に【ダガー】や【小太刀】など、武器の性質上敵の攻撃を受ける事が出来ない武器ではメインとなる防御方法だ。

 次に【受け流し】。これは武器を使って攻撃の軌道を変化させる方法であり、【太刀】や【ランス】、【ロングソード】など多くの武器でメインとなる防御方法である。メリットは武器の損傷が少ない点と、比較的タイミングが適当でも敵の攻撃を逸らせる点だった。特にPvP戦では最も重要な戦闘技術と言われている。

 最後に【ガード】は、敵の攻撃を受け止めるという基本的な防御手段でありながら、ナインスオンラインでは最も攻撃的な防御方法だった。というのも攻撃をタイミングよくガードすることにより、敵の体勢を崩すことが出来るからだ。


「先程も言いましたが、基本的にエストックはガードを狙う武器です。敵の攻撃を見極め、タイミングを合わせてガードする。特にジャストガードと呼ばれる状況を作り出せば、相手は一瞬体を硬直させます。そこを狙って一撃必殺のトリックを繰り出すのが、エストックの定石です」

「はい!」


 キャスカの復習に、リゼが元気よく答える。2人が話しながら歩いていると、再びスケルトン――今度はソード型2体とメイス型1体の計3体と遭遇した。


 今度は数が多いため、キャスカもエストックを構えて戦闘準備をしていた。リゼも同じくエストックを構える。


「メイス型のトリックは【膝丈割】です。斜め下から振るわれるトリックですので、攻撃の出所に注意してガードしてください」

「わかった!」

「行きます」


 そう言ってキャスカは風のように飛び出すと、一瞬で敵との距離を詰め、ソード型のスケルトンの右腕に強烈な突きを繰り出した。ガシャンと気持ちの良い音が鳴る。鎖骨から下を粉々に粉砕されたスケルトンが、ダメージを受けて大きくのけぞってしまった。

 するともう一匹のソード型スケルトンが、キャスカを迎撃しようと、ロングソードを横なぎに振るった。キャスカは素早くエストックを操り、敵の剣と自身の体の間に刀身を差し込む――するとキンっという音と共に、きりきりと金属同士が擦れる音が水路に響きわたった。攻撃は完全に受け流され、スケルトンの斬撃はノーダメージでいなされていた。


「やぁ!」


 一方、リゼが三匹目のメイス型スケルトンに突きを放つ。しかしそれはスケルトンが小さく揺れ動いたことにより狙いが外れてしまい、ただ宙を突くだけに終ってしまった。

 代わりにスケルトンのメイスが、リゼの脳天に向けて振るわれる。


「リゼ!」


 横目でリゼの様子をうかがっていたキャスカが思わず声を上げる。間に合わないと判断した故の声掛けだったが、リゼは特に慌てた様子も見せず、振り切ったエストックを素早く引き戻した。

 リゼはエストックの柄を、振り下ろされていたメイスに一挙動で激突させてしまう。太いメイスにぶち当てたエストックから、ガキンと悲鳴に似た激突音が響いた。そのガードはジャストガード――タイミングぴったりのガードとなってスケルトンの体勢を大きく崩してしまう。


「いっけー!」


 その隙を逃さず、リゼはトリック【サイドワインダー】を発動した。エストックの刀身がヘビのようにうねり、スケルトンのスカスカな体を粉々に砕きながら進んだ。

 同時にキャスカも残りのソード型のスケルトンの顎骨を砕いた。戦闘を終え、2人がエストックをしまう。


「リゼ。いまのガードは良かったです。間に合わないかと思いました」

「えへへ。ありがとう」


 素直に喜ぶリゼだったが、一方のキャスカの心中は見た目ほど穏やかではなかった。


「しかしリゼ。先程のガードは……」

「あ、わかった? 前にキャスが見せてくれたの真似してみたの」


 リゼが嬉々として答える。先程のガードは以前、キャスカがゴンゾーとのPvPで見せたジャストガードとそっくりな動きだったのだ。

 あのタイミングから攻撃をガードするのは、初心者のリゼには不可能に見えた。戦闘に慣れたプレイヤーで回避するのが精一杯、一般的な戦闘プレイヤーなら何とか受け流しをしようとエストックを闇雲に引き戻すのが関の山である。

 しかしリゼはあれを、ガードした。しかもジャストガード――位置的にもタイミング的にも寸分の狂い無く、エストックで攻撃を受け止めたのだ。


「それは素晴らしい。よく見ておられたのですね」

「うん。あの時のキャス、かっこよかったよ!」

「ありがとうございます」


 そう言って小さく頭を下げながら、キャスカは感心していた。先程の攻撃を狙ってジャストガードする為には、高いガードスキルと反応速度、それに動きの精密さに加え、高等テクニックである読みまでが求められる。それらは全て、ゲームを始めて一週間のリゼには足りないはずだった。

 しかし、彼女は実際にやってのけたのだ。


(さすがはウドゥン様の推挙と言ったところでしょうか……)


「え?」

「いえ。何でも有りません。それではもう少し奥に行きましょう。スケルトンは対人戦の練習にはなりますが、刺突系の武器であるエストックとは、あまり相性がよくありません。奥に出現する水棲モンスター・クラムボンが、今のリゼのエストックスキルだと丁度良い相手です。落とすアイテムも良い値段で売れますしね」

「アイテム落とすんだ! 今お金が全然無くて困ってるの」

「最初はそういうものでしょう。人を頼ってお金を融通してもらうという手段もありますが、あまりお勧めしません」


 先日ウドゥンに言われたことと同じようなことをキャスカにも言われ、リゼは少し照れてしまう。


「うん。そんなつもりじゃないんだけどね」


 リゼは苦笑いをし、少し恥ずかしそうにしながら言った。


「私、ペットが欲しいの」

「ペットですか」


 そんなリゼの言葉に、キャスカが思案顔になる。先程のウドゥンから聞いた『幸運の黒猫』の話を思い出したからだ。だが彼は確か、グラムリジルのシオンか、ニキータロードのニキータに売ると言っていた。目の前にいるリゼには関係の無い話だろう。


「安い個体でしたら、NPCショップでも100,000Gほどで買えると思われますが」

「うーん。それでも高いなー。手が出せないよ」

「それでしたら、野良を捕らえるのがよろしいかと」

「野良?」


 リゼが首をかしげた。キャスカが頷いて説明する。


「はい。使い魔はモンスターや街にいる小動物を捕まえ使役できます。モンスターが戦闘用の働きをするのに対して、小動物は生産やバザー関連に向いたスキルを持っていることが多いのが特徴です」

「えっと……猫は小動物?」

「そうですね。猫型のモンスターもいますが、一般的な猫でしたら小動物カテゴリでしょう」


 キャスカは水路歩きながら、記憶をたどるように言った。リゼが少しうきうきした様子で笑う。


「じゃあ、野良猫を捕まえれば、タダでペットが手に入るんだね?」

「そういうことになります。あまり数がいるわけでは無いので、捕まるかどうかは運しだいでしょうが」

「そっか。よーし。今度から注意して街を歩くことにするよ! ありがとうキャス」


 腕まくりをして意気込むリゼを、キャスカは小さく微笑みながら見つめていた。しかしキャスカは次の瞬間、進路上を鋭く睨みつけた。


「……おかしいですね」

「えっ?」


 突然低い声で呟いたキャスカに、リゼが驚いてしまう。


「どうしたの?」

「……モンスターが少なすぎます」


 先程スケルトン達と連戦した後、足首まで水に浸かりながら水路を進んでいたが、ここまでモンスターの姿を見かけなかったのだ。


「ここはもう、クラムボンの出現ポップ場所。本来ならもっと大量のモンスターが要るはずなのですが……」

「一匹も居ないね」


 キャスカの説明を聞いて、ようやくリゼもモンスターが少ないことに疑問を持った。しかしキャスカは見通したように言う。


「おそらく、先客が居ます」

「先客?」

「はい。同じくクラムボン狙いのプレイヤー達が狩っていった後なのでしょう。狩場が被ってしまいましたね」


 そう残念そうに言うキャスカ。しかしすぐに代替案を言った。


「仕方ないですが、もっと奥に行くしかないでしょう。この先にT字路となった小部屋があります。その左右のどちらかに行けば、先客と被らない方向に進めると思います」

「じゃあ、そこまで急ごう!」


 リゼが元気よく走り出した。キャスカもその後を追って駆け足になる。しかしリゼはこの先で、あるプレイヤーと出会うことになった。




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