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Zwei Rondo  作者: グゴム
二章 幸運の黒猫
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5. 帰り道

5



 次の日は金曜日だった。平日最後の授業を終え、さっさと家に帰ろうとしていた和人かずとを、学校の駐輪場で呼び止める男子がいた。


柳楽なぎら、ちょっといいか?」

「……なんだよ」


 それはクラスメイトの角谷かどたにだった。長身の和人かずとより頭一つ小さいが、チビというほどでも無い。中肉中背と言った言葉がぴったりな男で、人のよさそうな柔和な目と整った鼻筋をした、落ち着いた雰囲気のクラスメイトだ。


「途中まで一緒に帰らない?」

「……別に良いけど」


 角谷は微笑みながら、少し遠慮がちに提案する。和人かずとは首をかしげながらもそれを了解した。





 桜実山の麓には片側二車線の国道が横たわっている。それは駅へと続く最近造られた道路なのだが、あまり便利が良くないらしく、交通量は少なかった。夕方でも車はまばらで、閑静としたアスファルトの道路が見渡す限り続いていた。

 季節は6月だ。最近は随分と気温が上がるようになり、日が低くなったこの時間でもじめじめとした空気がこびりつく様に漂っていた。

 そんな国道沿いの側道を、和人かずとと角谷は自転車を並べて進んでいた。


「で、なんなんだよ」


 和人かずとがぶっきらぼうに言う。

 隣を行く角谷は、学校の知り合い同士で結成されたギルド・グリフィンズのリーダーだ。これまで何度か和人かずとをグリフィンズに勧誘している。だから和人かずとは、どうせまたグリフィンズへの誘いだろうと予想し、さっさと断ってしまおうと考えていた。

 しかし今回の彼は、少し意外な話を振ってきた。


柳楽なぎらはさ。望月もちづきさんのことをどう思ってるの?」

「だから……って、は?」


 真剣な表情で聞いてきた角谷を、和人かずとは思わず見返してしまった。


望月もちづき莉世りせがどうしたって?」

「だから、柳楽なぎらは望月さんをどう思ってるのかなって」

「どう思ってるって……」


 和人かずとが困惑気味に角谷の様子をうかがうと、彼は少し顔を赤くしながらちらちらとこちらの反応を窺っていた。その表情を見て、和人かずとはこのクラスメイトが声をかけてきた理由を察した。


「なんだよお前、あいつが好きなのか」

「……」


 自転車に乗ったまま黙りこんでしまう角谷。それは肯定したことと同じだった。和人かずとが呆れてため息をつく。


「安心しろ。全くなんとも思っちゃいねーよ」

「だけど、望月さん。最近柳楽なぎらの工房に入り浸ってるだろ?」

「いや、まじで何も無い。グリフィンズで引き取って欲しいくらいだ」

「そうなの?」


 角谷が弱々しく聞き返す。和人かずとは前方の道を確認しながら、淡々と続けた。


「というかあいつ、グリフィンズの集まりの方にもよく顔を出してるだろ」

「まあ、一応」

「俺の所には裁縫の設備を借りに来てるだけだから、良い設備をグリフィンズのギルドホームに設置すればそっちに行くはずだ」 

「そっか……」


 ぼーっと惚けるように視線を宙に浮かべた角谷に、和人かずとが畳み掛ける。


「ついでにあいつ、スキル上げの素材にも困ってるからな。素材をくれてやると喜ぶだろうよ。直接渡すと断られるかもしれないから、何か理由をつけて渡してやれ」

「わかった。裁縫だっけ?」

「あぁ。ランクはまだ30にもなってないはずだ」

「じゃあ綿地帯だね。集めてみるよ……柳楽なぎら

「なんだよ……って――」


 急ブレーキの音を響かせて、突然角谷が自転車を止めた。和人かずとも慌てて急ブレーキをかけて振り向く。


「急に止まるな」

「……やっぱりお前も、グリフィンズに入りなよ」

「は?」


 自転車にまたがったまま、角谷は真剣な様子で言った。先程までの話から、どうしてそうなるのか――和人かずとは首を傾げざるを得なかった。


「脈絡ねーな。前から断ってんだろ」

「でも、グリフィンズには望月さんもいるし」

「それが理由になる意味が分からん」


 ばっさりと答える和人かずとだが、角谷は少しだけ申し訳ないなさそうに言った。


「だって、悪いじゃないか」

「悪い?」


 和人かずとがぽかんとして口を開く。何が悪いというのか――少し考えて、彼は角谷が最初に言った言葉を思い出した。


「あぁ……そういうことか」


 角谷は、和人(かずと)が莉世と仲が良いと勘違いしている。その仲を、自分が抜け駆けする事で壊してしまうかもしれない。そのことを罪悪感に感じているようだ。

 だから和人かずと莉世りせの関係を継続させる為に、【グリフィンズ】に入るように勧めている、と。


「なんか勘違いしてるみたいだが……」


 和人かずとはそう前置きして、迷惑そうに眉をひそめながら言った。


「俺には好きな人がいるぞ。望月もちづき莉世りせとは別にな」

「え!?」


 突然の告白に、角谷は目を見開いて驚いていた。しばらく固まった後、しどろもどろに言う。


「え、え、まじ? 誰?」

「誰でも良いだろうが……言っとくが、このことを他の奴にバラしたら、お前が望月もちづきを好きなことを言いふらすからな。勿論本人にもだ」

「うっ……」


 びくりと顔を引きつらせる角谷。和人かずとは小さくため息をついて続けた。


「だから、俺としてはお前と望月もちづきの恋路を邪魔する理由は全く無い。むしろプッシュしてやるよ。お前ら今度トーナメントに出るんだろ?」

「……あぁ。明日の昼からC級チームマッチに出るよ。良く知ってるね」


 昨日、工房で莉世りせが話していた通りのようだ。和人かずとは確認するように頷いてから言った。


望月もちづきから聞いた。今日、時間があれば明日のC級チームマッチに出てくる面子を調べて、組み合わせと戦力を分析しといてやる。あとでメッセージ送るから、それ見て勉強しとけ」

「えっ……」


 角谷は目を丸くして和人かずとを見つめ返した。

 これまで、和人かずとはグリフィンズの連中に極力関わらないように振る舞っていた。それが突然手助けしてくれると言ってきたことに、ひどく驚いていた。


「それは助かるよ。でも……なんで?」

「お前の指示でトーナメントに勝ち進めば、望月もちづきが惚れるかもしれないだろ? リーダーシップのある男子はもてるぜ」

「あ……あぁ」


 含み笑みを浮かべながら言う和人かずとに、角谷は少し戸惑っていたが、すぐに頷いた。そして少し恥ずかしげに言う。


「……ありがとう。頑張って活躍して、優勝してみるよ」

「いや、いくらなんでもそれは無理だと思う」

「はは! まあやってみるよ」


 二人は再び、自転車をこぎ出した。




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