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Zwei Rondo  作者: グゴム
終章 Zwei Rondo
121/121

14. エピローグ

14



「ウドゥン、そろそろ動くみたいだよ」

「あぁ」


 ウドゥンがパネルを閉じて、ゆっくりと立ち上がる。一方で声を掛けてきたリゼは、きょろきょろと落ち着きなく周囲を見渡していた。


「なんだかこの中だと、私たち浮いてる気がするね」

「……そうかもな」


 彼らの周囲には、蒼色を基調としたギルド章を掲げるインペリアルブルーと、深紅に彩られた装備を身に着けたクリムゾンフレアのメンバー達が、互いに入り混じって談笑していた。

 今回彼らは、協力して8thリージョン・ウルザ地底工房を攻略する為に集合している。その攻略メンバーとして、トリニティも召集されていたのだ。ただしトリニティと言っても、セウイチは来ていないのでウドゥンとリゼの2人だけだったが。


「まあそう言うなよリゼ。今回は一応、3ギルド合同って事なんだからよ」

「そーだよ。ウドゥンもリゼも、一緒に頑張ろう!」


 話しかけてきたのは、クリムゾンフレアのヴォルとアクライだった。長身痩躯な赤毛のヴォルは両手剣ツヴァイハンダーを手にニヤニヤと笑みを浮かべ、その隣でアクライは子猫のように可愛らしく胸を張っていた。


「大体、トリニティには俺達が《ナインスギルド》に上がるまでしっかり働いてもらう約束だろ?」

「その代わり、9thリージョンの攻略にはヴォル、アクライ。お前らもこき使ってやるからな。覚悟しておけ」

「勿論! 望むところだね」

「くはは! 楽しみにしとくぜ」


 ウドゥンが皮肉っぽく言うと、ヴォルとアクライは愉快げに笑った。


「全員、注目してくれ!」


 よく通る声が、ウルザ地底工房に響いた。見ると一際巨大な全身鎧を着込んだガルガンが、堂々とした立ち姿で皆の視線を集めていた。

 彼の隣にはそれぞれ、腕組みをした神秘的な雰囲気のファナと、凛とした表情を崩さないキャスカが立っていた。


「これからクリムゾンフレア・インペリアルブルー・トリニティの3ギルド合同でウルザ地底工房の攻略を行う。指揮系統はさっき説明したとおりだ。なにか質問はあるか?」

「無い。さっさと行くぞ」


 隣にいたファナがすぐさま答える。ガルガンはそれを笑い飛ばし、しばらく待って皆から反応がないのを確認すると、再び大口を開けて笑った。


「がはは! それじゃあ皆、楽しんで行くぞ!」


 ガルガンが呼びかけると、皆が鬨の声を上げる。そのままわいわいと騒ぎながら、彼らはパーティー単位でウルザ地底工房の奥へと向かい始めた。ウドゥン達はどうせ2人しかいないので、彼らが行った後でゆっくりと進もうと考えていた。

 その場で周囲が先に出発するのを待っていると、リゼが不意にあることを思い出した。


「そういえばウドゥン。聞きたいことがあるの」

「なんだよ」

「えっと、いま思い出したんだけど。リズさん、最後によくわからないことを言ってたんだ」

「何だって?」


 怪訝な顔を向けるウドゥン。リゼはこくりと頷き、最後にリズが残した言葉を再現した。


「『ツヴァイロンドはお前にやるよ』って」

「なに……?」


 その言葉を聞いたウドゥンは表情を一変させ、リゼの肩に掴みかかった。


「本当にそんなこと言ったのか?」

「えっと、うん。あと、丁度いいからとも言ってたけど……ねぇ、ツヴァイロンドってなんなの?」


 あまり見たことのないウドゥンの反応に、リゼは少しドキドキしてしまう。彼は身体を寄せたまま、興奮した様子で答えた。


「ツヴァイロンドは、俺とリズが知り合った直後に作ったギルドの名称だ。その後セウが入ったから、すぐにトリニティに変更したがな」

「そうなんだ。じゃあ今のトリニティのことなんだね」


 そう言って、リゼは左手首に身につけた銀の三角形が描かれたリストバンドに目をやる。それはゲームを始めた頃にもらった、トリニティのギルド証だ。このトリニティの前身が、ツヴァイロンドだという。


「ツヴァイロンドってどういう意味なの?」

「ツヴァイってのはドイツ語で『2』って意味だ。最初は2人だけのギルドだったから、その名称でどうかってリズが言ったから俺が……」


 彼は突然、びくりと身体を震わせた。そして彼はぼうっと視線を上げて、彫像のように固まってしまった。


「ウドゥン?」


 リゼが声を掛けるも、ウドゥンはそれにまったく反応をしない。心配になって顔を覗き込むと、彼はいつの間にか、うっすらと笑みを浮かべていた。


「……くくっ」

「えっ?」


 次の瞬間、ウドゥンは爆発するように笑い出した。


「くはははは! やられた。なんだリズの野郎。分かってたんじゃねーかよ。あはははははは!」

「えっと……」


 腹を抱えて笑い転げるウドゥン。リゼが心配そうに見つめるも、彼はしばらくの間、ひどく愉快げな様子で笑い続けていた。

 やがてひいひいと息を整え、彼はぼそりと呟いた。


「たしかにお前なら丁度いいな」

「えっと、全然意味がわからないんだけど」

「まあ一文字被るけど、それくらい我慢するか」

「一文字被る?」


 首をかしげるリゼに対し、ウドゥンはパネルを開いて空中に文字を書き始めた。『Zwei Rondo』と書かれたその文字を指差しながら、彼は嬉しそうに言う。


「いいか。俺のプレイヤーネームのスペルは『Wooden』だ。これを『Zwei Rondo』から差っ引けば……」

「……あっ!」


 ウドゥンが文字を消し去ると、そこに残ったのは『Z』『i』『R』の三文字だ。それを見て、リゼにもその意味がはっきりと分かった。その三文字を並び替えて出来る単語が『Riz』――リズであることに。


「そっか。ツヴァイロンドって、リズとウドゥンの名前から取ったんだね」

「アナグラムな。意味が分かってなさそうな雰囲気だったんだが、アイツちゃんとわかってたんだな」

「それじゃあ、私にやるって言うのは……」


 リゼがきらきらと嬉しそうに瞳を輝かせ、ウドゥンの顔を見上げた。


「お前のプレイヤーネームは『Rize』だろ? 『Wooden』とは一文字"e"が被ってるが、それだけだ。だから、丁度いいだろ?」


 ウドゥンは愉快げに笑みを浮かべながら、リゼに掌を差し出した。


「リズに負けない活躍を期待してる。よろしくな」

「うんっ!」


 彼女は満面の笑みで、その手を取った。





(『Zwei Rondo』・終)




















 『Zwei Rondo』をお読みいただき、ありがとうございました。本作はこれにて完結となります。最後に感想、コメント等を残していただければ、大変嬉しく思います。よろしくお願い致します。


 また目次のページの一番下に、あとがきへのリンクを載せておりますので、興味がありましたらそちらもご覧ください。

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[良い点] 世界観がしっかりしてる。 心理描写がくどくなくて丁寧 整合性がある [一言] めちゃくちゃ面白かったです。
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