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Zwei Rondo  作者: グゴム
六章 黒騎士の侵攻
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14. トリニティ式

14



「やあ!」


 銀色のエストックがリザードマンの額をつらぬく。緑色のグロテスクな鱗を持った屈強なトカゲ騎士は、リゼの鋭い一撃を受けると、苦悶の表情を浮かべて死亡デッドしてしまった。

 目の前の敵を倒したリゼに対し、もう一匹のリザードマンが手斧を振りかざす。その瞬間、クロスボウのボルトが敵の腕を弾き飛ばし、続けて放たれた二本目の(ボルト)がリザードマンの額に突き刺さった。


「リゼ、とどめ」

「うん!」


 遠隔攻撃を喰らってひるむリザードマンに向け、銀のワンピース型の鎧を着込んだリゼが、エストック・ケルベロスタックを赤く閃かしトリック・ファイナルスラストを発動させた。システムにより弾丸の様に加速されたエストックが、リザードマンの緑色の鱗を粉々に砕いてしまう。


「ふう」


 リゼが一息をつく。先程から彼女たちは、噴水広場につながる小さな路地に陣取り、迫りくるインベイジョンの軍勢を食い止めていた。彼女はすぐに、前方で戦いを続けるセウイチに呼びかける。


「セウさん! 次とるね!」

「おっけー」


 5,6匹のリザードマンに囲まれていたセウイチが陽気に応えた。守備重視の為に片手剣ロングソード大型盾スクエアシールドを装備した彼は、余裕げな微笑を浮かべたまま前衛役をこなしていた。


 インベイジョンが始まり、すでに1時間ほどが経過している。街中のいたるところにモンスターが出現ポップし、街の入り口である黒門からは大量の敵がなだれ込んでいる。1番街はバケツをひっくり返したような大騒ぎだ。


 ウドゥン達トリニティの三人は、ある小さな路地に陣取り戦っていた。大通りにつながる脇道の一つであり、少人数の彼らにはちょうど良い狩場だ。セウイチが前面に出て敵パーティの大部分を受け止め、リゼがその中から数匹ずつ挑発スキルで引きつける。それにより突出してきた敵を、ウドゥンとリゼの2人で各個撃破する作戦だった。

 これはナインスオンラインでも基本的な戦法で、リゼもグリフィンズで何度も実践している戦闘方法だったので、特に戸惑うことなくセウイチ・ウドゥンの2人と息を合わせていた。


「これでおしまい!」


 リゼが得意げに言うと、鋭い切先を持つを突き出す。十分に引きつけておいたリザードマンの胸に、銀色のエストックが突き刺さると、敵の身体は粉々に砕け散った。


「ナーイス。リゼ」

「セウさんも、さすがです!」

「……次来たぞ」


 敵の一群を完全撃破してはしゃぐ2人を横目に、ウドゥンが冷静な調子で言う。周囲を警戒していた彼は、すでに次の敵が出現していることを察していた。

 彼らの近くの地面から、先程まで戦っていた一般的なリザードマンよりはるかに巨大な体躯を持つ、真っ赤なリザードマンが出現ポップしたのだ。NM級の強敵が目の前に現れ、ウドゥンが小さく笑みを浮かべる。


隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイか。丁度いい。あれでいくか」

「お、いいねー。久しぶりだ」

「どうするの?」

「トリニティ式のパーティ戦闘を教えてやる」

「トリニティ……うん!」


 トリニティ式と言われて、リゼはつい嬉しくなってしまった。これまで彼女はソロ戦闘についてはキャスカから、パーティ戦闘についてはグリフィンズのメンバーから教わっている。しかし肝心のトリニティの2人からは、戦闘についてほとんど何も教わっていなかったのだ。

 リゼはトリニティとして彼らと一緒に戦えることに心が弾ませた。


「いいか。これからやる戦い方を無理矢理インペリアルブルー式の理論に当てはめるとすれば、全員前衛だ」

「全員前衛?」

「セウ」

「おう!」


 セウイチが隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイに向け挑発スキルを発動する。真っ赤に光るエフェクトが隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイを包み、敵はその漆黒の瞳をセウイチに向けた。

 敵は右手に持った巨大なロングソードを、セウイチに向け力任せに振り下ろす。しかし彼はそれを大型盾スクエアシールドでいなすと、反撃に右手の剣で切りつけた。


「リゼ、挑発」

「えっと、うん!」


 ウドゥンがリゼに指示を飛ばす。彼女はこのタイミングで挑発しろといわれて少し戸惑ったが、すぐにウドゥンの言うとおりにスキルを発動した。

 その結果、隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイが方向を変えてリゼに襲い掛かる。


「集中して、ガード決めろよ」

「わかった!」


 リゼは迫り来る真っ赤なリザードマンを凝視した。エストックを胸の前で祈るように構え、敵の攻撃を待つ。敵は駆け込んできた勢いそのままにロングソードをリゼに向かって突き出した。リゼはその軌道を目を見開いて追った。


 キン――


 リゼはエストックの持ち手を、相手の剣の切っ先にぶち当てた。完璧なタイミングで決まったジャストガードにより、隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイは一瞬動きを止める。

 瞬間、背後からはセウイチが、さらに側面からは無数のクロスボウのボルトが襲いかかった。セウイチとウドゥンが、相手がリゼを攻撃した瞬間を狙ってきたのだ。

 無数のボルトが次々と突き刺さり、さらにセウイチの片手剣が力任せに振るわれる。2人の猛攻が隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイに少なくないダメージを刻んでいった。


「さて……」


 クロスボウを連射していたウドゥンは、やがて小さく溜め息をついた。そして同時に、彼と隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイの間に真っ赤なエフェクトが表示される。それはウドゥンが挑発スキルを使用したことを示すものだった。


「えっ!?」


 リゼは思わず声を上げてしまった。前衛に守られる存在のはずである後衛のウドゥンが、敵の攻撃を誘引する挑発スキルを使用したのだ。それは彼女の常識では、考えられない行動だった。

 狙いを強引にウドゥンに偏向させられた隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイは、距離のあるウドゥンに向け猛然とダッシュをする。一直線に近づいてくるリザードマンに向け、ウドゥンはその間放てるだけのボルトを発射し続けた。


「ウドゥン!」


 リゼが隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイを追いかけながら叫ぶ。あっという間にウドゥンの目の前にたどり着いた隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイは、そのまま横なぎにロングソードを振るった。


「……ちっ」


 ウドゥンはクロスボウを横に構え、それを敵攻撃の軌道上においた。彼のガードは位置もタイミングもばらばらであったため、隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイの強烈な横薙ぎを受けきれず、身体を浮き上がらせてしまう。


「セウ」

「おう!」


 しかし次の瞬間、相手が追撃を加える前に、セウイチが再び隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイの背後から襲い掛かっていた。同じく彼に倣い、リゼもまた無防備な背中を晒す隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイに向けエストックを繰り出す。無防備な背後からの攻撃は、敵の体力を大きく削った。

 その二つがヒットした直後、セウイチは再び挑発スキルを使用する。


「挑発オッケー」

「了解、あとは回すぞ」


 再び挑発スキルを受けた隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイが、今度はセウイチに向かって襲いかかる。彼はバックステップで距離をとりつつ、敵の攻撃をさばき始めた。

 その隙に、リゼがウドゥンの傍に駆け寄る。


「ウドゥン、大丈夫?」

「あぁ、それよりわかったか?」

「えっと、挑発をしながら、とにかく攻撃すればいいの?」


 リゼが自信なさそうに言う。しかしウドゥンはその答えに力強くうなずいた。


「そうだ。俺かセウが攻撃を受けている時は、背後から全力で殴りまくれ。自分の挑発スキルが再使用可能になったら、タイミングを見計らって使え。その二つさえ守れば、後は何してもいいぞ」

「うん。たぶん分かった」


 リゼはおずおずと頷いた。彼らがどのような狙いを持って、このような挑発によるターゲット回しを行なうのか、リゼにはいまいち分からなかった。しかし自分のやるべきことは分かったので、彼女はとりあえず納得した。


「リゼー! そろそろとって!」

「はい!」


 セウイチの呼びかけに応え、リゼは再び挑発スキルを発動する。ぐるりと身体の向きを変えて襲い掛かる隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイがロングソードを振るうが、リゼはその強烈な一撃をいとも簡単にジャストガードしてみせた。


「ひゅー。すっげ!」


 セウイチがはやし立てる。このガード技術こそが、リゼをA級トーナメントの決勝まで勝ち上がらせた源だ。セウイチはそのガードを目の前にして、たしかに簡単にまねできるものではないと感心してしまった。


「まっ、とりあえずガンガンいきますか」


 そう言って、セウイチは片手剣と大型盾スクエアシールドを投げ捨てる。そしてすばやくパネルを操作すると、自分の背丈すらも越える巨大な槍と大斧を取り出した。それらを両手に構え、今まさに硬直中の隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイに対し、二振りの剛刃を同時に振るった。





「よし」

「やった!」


 隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイの断末魔は、ひどく耳障りな金切り声だった。彼らトリニティは戦闘開始からたった数分で、強大な隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイを撃破したのだ。

戦闘を終え、3人が集まる。


「いやー。やっぱり忙しいね、この戦い方は」

「まあ攻撃型のリズと違ってリゼがカウンター型だから、その分最適化できていない感じはある」

「リズが入ればかなりバランス取れそうなんだけどねー。でもまあ、PvEにはまだまだ使えそうだね」


 隻眼のヒヴィスヒヴィス・ジ・ワンアイとの戦闘について意見を出し合うウドゥンとセウイチを眺めながら、リゼは先ほどの戦闘を思い出した。

 目まぐるしく動き続ける敵と、それを追いかけるパーティメンバー。攻撃を一手に受け止める盾役がいないために、戦闘自体はかなり慌ただしかったが、やっている事は単純だった。

 攻撃が一人に集中しない様に挑発スキルで敵の注意ヘイトを回し合い、自分に向いていない時は全力で攻撃し続ける。要するに、パーティメンバーそれぞれが全力で攻撃する為の戦い方なのだ。

 最初はスピーディーな展開と安定しない敵の動きが不安だったリゼだが、慣れてきてからは楽しくなってきてしまい、最後は彼女が最もノリノリで戦っていた。


「楽しかった! こんな戦闘、初めてだったよ!」

「まあ、リスキーだからあんまり使われなくなったよね、このやり方。一時期流行ったんだけどなー」


 セウイチが地面に突き刺した大斧にもたれ掛かりながら言うと、ウドゥンもまたパネルを操作しつつ言う。


「まあ、こういうやり方もあると覚えておけばいい。いつか使うだろうし」

「うん!」


 リゼが元気よく返事をする。周囲にはすでに、数匹のリザードマンが出現ポップし始めていた。NMモンスターを倒し直後とだというのに、休む間もなくモンスターは出現ポップし続ける。


「湧き早いなー。奇襲部隊が頻繁にこんなに湧くなら、本隊はどうなってんだよ」

「そっちはどうせインペリアルブルーとか、大規模ギルドの連中がどうにかするだろ。俺達の相手はこいつらだ」

「そうだよ。皆で戦闘するの、楽しいよ」


 嬉しそうにはしゃぐリゼが、すこし疲れた様子を見せていたセウイチを促していた。


「セウさん、早く行こう!」

「はいはい。わかったよ」

「……」


 ウドゥンは戦闘を続けながら、聞き耳スキルにより周囲の戦況を把握し続けていた。どうやら今回のインベイジョンでは出現モンスターが全くのランダムであり、エリア固有モンスターも含めた様々な種類の敵が出現しているようだ。

 敵ランクとしては、5thリージョン程度のモンスターが主力であり、現状どこの戦場も大きな問題もなく戦闘を進めているようで、お祭りイベントらしくどの戦場も盛り上がっているようだ。


「ウドゥン! 釣ったよ!」


 リゼがリザードマンの群れから、一匹だけをひきつけていた。残りは前方でセウイチが受け持っている。いつも通りの掃討作戦だ。ウドゥンは機械的に、リゼが引き付けたリザードマンに向けクロスボウを構えた。


 その時だった。彼が【聞き耳】スキルによってある会話を耳にしたのは。



……



「なんだこいつ」

「……白い仮面?」

「おい、そこで止まれ」



……



 ウドゥンがはっとして、会話が聞こえた方に目を向けた。それは自身たちのいる場所よりかなり前方、侵攻を続ける敵群との最前線の方向だった。


「……まさか」

「えっウドゥン!?」


 リゼが呼び止める間もなく、ウドゥンは行動した。戦闘を続けるセウイチ達を放り出し、走りだしたのだ。


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