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Zwei Rondo  作者: グゴム
六章 黒騎士の侵攻
102/121

13. インベイジョン

13


『緊急告知


 1番街にてインベイジョンが発生しました。侵攻勢力は『???』。参加を希望される方は、このまま1番街でお待ちください。

 今回のイベントにおける詳しい説明は、下記をお読みください。


 ……   』



「えっ?」

「……イベントの告知か」


 ウドゥンはすばやく目の前のパネルを操作する。そこには確かに、大量のモンスターが街を襲うイベント大規模戦闘インベイジョンの案内があった。


「これってインベイジョン? 今からあるのかな」

「みたいだ。イベントの一環……というか、今回のメインイベントはこれっぽいな」


 ウドゥンは注意書きを読みながら答える。幾つか注意事項のなかに、今回のインベイジョンはイベント戦であり、例外的に1番街のみが戦場になるとの内容があった。いつもなら1番街は安全地帯として開放されているため、それとは対照的だ。


「1番街でやるから、興味の無い奴は別の通りに行け……か」

「わっ。1番街だけってことは、アルザスにいる人達のオールスターになるんじゃないの?」


 1番街だけで戦闘を行うということは、いつもは自分達の本拠地で戦うプレイヤー達が、一同に集まって戦闘を行うことになる。そのことに気が付いたリゼは、わくわくとした気持ちを隠しきれなかった。


「しかしこれ、敵のランクはどうなるんだ?」

「あ、そうか。やっぱり、トリニティじゃ参加しちゃだめ?」

「そうだな……」


 彼らトリニティはサーバーで唯一の《ナインスギルド》である。通常であれば、参加するギルドの最高ギルドランクで敵ランクが変化する為、彼らはインベイジョンには参加しないようにしていた。

 しかし今回はナインスオンライン一周年を祝うイベントの最中に起きた、目玉ともいえる催しだ。普段発生するインベイジョンとは種類が違うようであり、長い説明を流し読みしても、特に敵ランクが変動するという説明は存在しなかった。

 しかしトリニティとして参加するならばセウイチとも話し合わなければならない。


「その点は大丈夫そうだが、受けるならセウにも聞かないとな」

「セウさん、どこにいるのかな」

「確かセリスと噴水広場のほうを回っているはずだ。行ってみるか」

「うん!」


 2人は木椅子から立ち上がり、噴水広場へと続く路地に向かった。





「お、いたいた。ウドゥン、リゼー」

「あっ、セウさん!」


 2人が噴水広場にたどり着くと、プレイヤーがごった返す噴水の周りでセウイチを見つけた。彼の隣にはセリスも一緒だ。彼女は落ち着いた白色の浴衣姿で、セウイチの腕に手を回していた。セウイチの方も灰色の甚平を着ており、彼らはぱっとみ夏祭りにやってきたカップルそのものだった。

 駆け寄ってきたリゼに、セリスが微笑みながら聞いてくる。


「リゼ、コンテストはどうだったの?」

「優勝しましたよ! これもらったんです」


 リゼが自身の耳たぶを指さした。そこには青い宝石のイヤリングが身に着けられていた。浴衣コンテストの賞品である蒼海石のイヤリングだ。


「よかったね。似合ってるわよ」

「はい! ありがとうございます」


 セリスが自分の事の様に嬉しげに言うと、リゼも笑顔でそれに答える。しかし2人のやり取りを隣で見ていたウドゥンは、小さく眉をひそめた。


「そういえばそれ、なにか効果あるのか?」

「んー、たしかスキル成長率アップがついてたよ」

「あっ、それならいいかもね。耳アクセサリにスキル成長率の効果がついてるのは結構レアだ」


 セウイチがそう説明した。スキル成長率アップという付加能力は、このナインスオンラインではあまり珍しくは無い。しかし何も能力がついていないよりは遥かにましだと、ウドゥンは納得した。


「まあいいや。それよりセウ、この後のインベイジョンなんだが」

「あぁ、告知見たぜー。面白そうだけど、どうする?」


 セウイチは明るい口調で聞き返す。トリニティとしての活動はほとんど行っていないウドゥンとセウイチだったが、久しぶりのサービス再開と共に実施される今回の特別イベントには興味を持っているようだ。


「少し悩むところだが、どうせクリムゾンフレアもインペリアルブルーも参加するんだ。俺達が参加しても、大して変わりは無いだろ」

「確かに。今回は特別イベントっぽいしねー。敵勢力も不明だし、味方もオールスター。お祭りイベントらしくて楽しそうだ」


 いつもなら非戦闘地帯として初心者や生産プレイヤーに開放される1番街を戦場とし、サーバー内の皆が揃って防衛線を張る。普段はあまり顔を合わせないサーバーの強者達が集まって戦う、お祭り同然の大乱戦となるだろう。

 セウイチは甚平の裾を払いながら、パネルに表示されるインベイジョンの説明画面を流し読んでいた。


「とりあえず説明書きを読む限り、ギルドランクで敵の強さが変動するっていう項目は無いね。まあ大丈夫じゃないかな」

「それじゃあ、参加するか」

「おっけー楽しもうぜー」


 ウドゥンの言葉に、セウイチはニコリと笑みを浮かべて答えた。彼は楽しみな様子で目を細めている。普段は酒場のマスターとしてプレイし、あまり戦闘をしていないセウイチだったが、年に一度しかないようなシチュエーションのイベントバトルに興奮を隠しきれないようだった。

 しかしそんな彼の隣で、セリスが少し不満げな表情を浮かべていた。


「私はそれ興味ないから、先に落ちるわよ」

「えー。いいじゃん。お前もいれば」

「いやよ。戦闘怖いし、どうせ役に立たないんだから」


 セリスはぷいっと顔を背けてしまう。すぐにリゼがフォローしようとしたが、気がついたセリスが彼女の頭にポンと右手をのせた。


「大丈夫よ、怒ってるわけじゃないから」

「セリスさん……」

「あなた達、リゼを置いていかないのよ」


 振り向きながら言ったセリスの言葉に、セウイチは思わず肩をすくめてしまう。


「なんだよ、それ」

「戦闘になると、あなた達は手加減が無いから。私が戦闘嫌いになった理由、覚えてる?」

「いや、全然」


 セウイチがきょとんとして答えると、セリスは大きく息を吐いてしまった。しばらくあきれた表情で頭を抱えた後、彼女は「リゼ、がんばってね」と声を掛けてログアウトしてしまった。

 セリスのログアウトを見届けた後、セウイチは小さく肩をすくめる。


「なんだよ。アイツも一緒に戦えばいいのに」

「何かあったんですか?」

「……たぶん」


 ウドゥンはそう前置きをし、すこしばつの悪そうに言った。


「セリスが始めた頃に俺とセウと三人で戦闘した時、トリニティの戦い方で最初教えたら、色々大変だったから、それのせいだな」

「え、何があったの?」

「いや、何があったというよりは……まあ大変なんだよ」


 ウドゥンのあいまいな説明を聞き、セウイチはようやく納得したように手をたたいた。


「あはは! 確かに初心者には大変かもね。慣れるまで死にまくるし。でもまあ、リゼなら大丈夫だよ」

「どうだかな」


 ゲラゲラと大笑いするセウイチと、ニヤニヤとほくそ笑むウドゥン。2人の表情を見て、リゼはなぜかこの後のイベント戦が少し不安になってしまった。


 その時、三人の目の前で強制的にパネル開く。


『まもなくインベイジョンが開始されます。制限時間は3時間です。今回はイベント戦につき、1番街が戦闘エリアとなります。戦闘終了時まで、1番街でのエリア移動を禁止します。同じく1番街における不死イモータル属性を解除します。参加しないプレイヤーは今すぐ1番街以外へエリアチェンジするか、ログアウトをしてください』


 アルザスの街に響き渡るアナウンスと共に掲示された戦闘開始の予告に、周囲のプレイヤー達からも歓声が上がる。皆がお祭り気分の高いテンションで大規模戦闘インベイジョンに挑もうとしていた。

 そしてそれは、トリニティのメンバーも例外ではなかった。


「さて、やるかー」

「楽しみ!」

「……さすがに装備は着替えとけよ」


 浴衣と甚平姿のままインベイジョンに突入しようとしていた2人に、ウドゥンが冷たく突っ込みを入れた。

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