A history the origin.(3)
人間達の住む世界を創る、とは言ってもその前にその世界を創らなければ意味がない。こんな空白のわけのわからない世界で普通の人間を生活させてみれば……。当然精神に異常をきたして、おかしくなるだろう。
「っていうことで世界を作りたいわけなんだけど、その説明ってまだ受けてないよね?」
《ノン、その説明は致したましたが被検体〇六七様が全く聞いておられなかっただけかと。もう一度、説明いたしましょうか》
「―――え、ええ!?、あっじゃあ、お願いします……」
あれ? もしかして幕と幕の間に説明があったのかな。―――ああ、気にしないで今のひとり言。
《まず世界創造には大まかに分けて四つのコマンドが存在します。
一つ目は『天地創造』。その名の通り世界の天上、地上のすべての存在を操るコマンドです。勿論、創造というだけあってありとあらゆる『自然物』の創造が可能です》
「ということは、この創造では大地とか、山とか、海とかが創れるってこと?」
サフの説明を聞き、僕は頭の中に問いかける。この不思議状態も何だか慣れてきた。
《ウイ、確かにその通りです。ですが、木のある山はこのコマンドでは創造不可能です。木は生命なので。そういったものを創るのが『生命創造』のコマンドになります。こちらは動植物の創造が可能です》
「人間もそのコマンドで?」
《ウイ、そうなります》
それから、
《このコマンドでは本当に生命体しか創れません。このコマンドでは木は創れますが、薪はできません。同じように牛は創れますが、牛肉は創れないと、本当の意味で『生きている』ものしか創れないのです》
と続いた。確かに牛肉は生命ではないもんなあ、と僕も思う。
「で、次は―――まあ、何となくだけど物体とか物質とか細々したものを創るコマンドじゃないかな? 今の感じでいくと薪や生肉も創れるみたいだし」
前の話を聞いて推測を述べてみた。どうやらこの推測は見事にあたっていたらしく、サフが《その通りです》と言っている。
《三つ目は物体創造で、被検体〇六七様の推測で大方、正しいです。しかし、一つ付け加えさせていただくなら、創れるものは人為的に作成される物でしょうか。天地創造とは対をなすコマンドです》
「ふうん、じゃあー、家とか地面の上に設置するオブジェクトなんかはこれで創れるってことかな」
《ウイ、その通りです》
肯定を表すサフの言葉。
天地創造と物体創造。これは別である分、中々使い勝手が良さそうなコマンドだ。うまく使えば自分の世界は様々な形に姿を変えるだろう。―――今から楽しみである。
《そして最後の四つ目で、『事象創造』というものがございますが……、これは少し説明が難しい物でもあります。前述した三つのコマンドで出来ないことを全て担っている、とでも言うべきでしょうか。もしくは物体の、その後の動きを操るという感じですかね……。これに付きましては徐々に説明していこうかと思いますが、よろしいですか?》
「うん? まあ、別に僕はいいけど」
と首を縦に振るものの、僕もイマイチ分かっていない。
事象創造――これは中々、面倒な事が起きそうである。
例えば水を創りたいとして、サフの説明を聞く限りだと二パターンの創造方法が存在することになる。
一つは単純に天地創造で水を創る方法。もう一つは事象創造で天候や水脈を操る方法だ。
この二つ、確かに水を産みだす点では同じだが、その途中の方法が違うことによって、その周辺の環境に与える影響が変わってくる。勿論環境に優しいのは後者の方であり、前者は無から有を生み出すので、周りの環境に与える影響が大きい。良くも、悪くもだ。
「なるほどねえ……、時間を優先するか、環境を優先するかってところかな」
《……ほとんど説明は致していませんが、もうそこまで分かったのですか。末恐ろしいです、被検体〇六七様》
何故かサフは声を震わせながら、そんなことを呟いていた。
そのサフの反応を聞いて、先は話さないほうがいいな、と久々に常識を働かせた僕だった。
* * *
創造神には、物体固有の性能を見るために、性能の可視化をするコマンドが存在する。
そんな話をサフから聞いたのはつい先ほどのこと。四つの創造コマンドの説明が終わった直後。「あれ? 創造って結局どうやるの?」という僕からの質問を受け、サフが《それでしたら―――》と説明を始めたのがきっかけだ。
《―――物に向かって三回、ノックをするような感じで叩いてください。――とは言っても今は物体が存在しませんので、被検体〇六七様ご自身の腕を叩いてください》
「僕の腕を? ええっと、こんな感じかな?」
僕はサフに言われたとおり、左手の甲を三回ノックした。すると澄んだ鈴の音の様な音があたりに響き、僕の目の前に半透明の表示枠が大量に出現した。
「うわっ、なにこれ!?」
目に映るのは意味の分からない物ばかりだ。難しい文字が羅列された枠や忙しなく動き続けるグラフ、そして色とりどりの枠達だ。見ているだけで目がチカチカしてくる。
《ウイ、これが被検体〇六七様の表示枠です。しかし、現在使うのは真ん中の一つだけなので、他の難しいものはほとんど関係ありません》
そう言ってサフは、真ん中の真っ白の枠を見てください、と続けた。
「これ?」
《ウイ、それです。それはこの世界の地図、加えて創造神固有のステータス表記となっています、わかりますか?》
「ああうん。白い地図の上に、被検体識別番号〇六七っていうのと、Rank1 Baronっていうのがあるけど……」
僕は空中に浮いたままの表示枠をなぞりながら、頭の中のサフに向かって答えた。
《ウイ、それが被検体〇六七様のステータスとなります。被検体識別番号というのはそのままなので説明を省きますが、Rankというのは世界の発展や大きさに合わせて増える、いわば創造神の評価のようなものです》
「ふうん……。じゃあ、評価が上がると世界が広がるとか? そんなことが出来るのかな」
僕はサフの話を聞き、顎に手を当てながら質問を投げかけた。当然、評価というのだからそのランクが上がれば、それなりの対価が払われるはず。RPGのLV然り、SLGのポイント然りだ。
《ノン、評価に対する特典は一切ございません。今の状態で完成体です》
「わあお」
流石、神様てきとー。
* * *
さて、お待ちかねの世界創造ですよー。
待ちわびた? 僕もやっとここまで来たという感じだよ。散々サフの説明でグダっていたこの空白世界にもやっと脱出の兆しが見えてきた。
さて、これからが楽しい時間だ。
* * *
「天地創造」
そう呟き、左の手の甲を三回ノックすれば、淡い緑色に光る表示枠が僕の目の前に出現した。この表示枠、翌々考えればびっくりとんでも技術である。
《その中に、小さな枠があります。それを拳で押して頂ければ、真っ白の地図上に世界を描く事ができます》
「つまりこの天地創造の枠が絵の具。真っ白の地図がキャンパスってことか。うん、ますます面白そうだね」
僕はサフが言った通り、天地創造の手近な枠に拳を押し付けると、真っ白の地図に世界を描いていった。
取り敢えず作り上げるのは試験的な土地。
第一世代の人間育成の為の『箱庭』である。
* * *
【大地(黄土)】:黄土の大地を敷き詰めます。地層の設定も可。
【大地(粘土)】:粘土の大地を敷き詰めます。地層の設定も可。(僕は下層として使わせていただいた。)
【高低】:大地に高低差をつけます。高ければ山に、低ければ谷になります。海をつくる場合、海底の高低もこれで操ります。
【川】:水の出る場所から川を作ります。何らかの要因で水源が寸断された場合、川は枯れ川になります。
【水源】:水源を創ります。基本的にどこにでも創造可ですが、一箇所にかため過ぎると枯渇します。適度な降雨が望める地域に設置するをおすすめします。
【空】:空を創ります。この中で昼夜の設定、光源の設定も可能です。ですが天候の設定は別となります。
以上が今回の土地創造で使った〝枠〟である。全部で六つ。いやはやこれだけで大きな土地が創れてしまうのだから、流石の僕も驚きを隠せない。
ということで、僕の創った大地に寝っころがりながら、
「疲れたあー。神様なのに足パンパン、腕もパンパン。どゆこと、これ?」
《ウイ、それは創造がそれだけ体を酷使するということです。神であっても疲れるくらい、本来ならば莫大な労力が必要なのです。それを創造神一人で担っているのですから、中々すごい物だと私は考えます》
へえー、と分かったような分からないような声を吐いて、僕は黄土の大地に寝っ転がった。これで地面が背の低い草だったら最高なんだけどなあ、なんて考えながら僕は目を閉じる。
《日もまだ高いですが、睡眠ですか》
「そそ。体力を回復させるには寝るのが一番なんだよ。まあ、神様だから睡眠は嗜好品みたいな感じだとは思うけどさ―――二時間くらい経ったら起こしてくれる?」
《ウイ、了承しました―――》
サフの声が全て聞き終わらないまま、僕の思考は深層意識の奥深くへと沈んでいった。