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物音をたてず、呼吸することも極力抑えて、リオスはヒヒに向かっていく。
一歩進んでは止まり、また一歩と進んでいく。
ヒヒまで一メートルの所まで近づいた。
ここから飛びかかり、剣を突き立たればと、思った矢先―――
ヒヒは目を覚まし、ガバッと身体を起こしたのだ。
野生動物の察知能力は敏感である。
身近な動物……猫や犬、そして鳥といった動物ですら、人間が気付かれないように近づいたとしても、自分の身の危険を感じる所まで近づくと、気付いて逃げ出してしまうのは、ご存知だろう。
いくらリオスが、その気配を消して近づいたとしても、野生動物の前では無意味だった。
目を覚ましたヒヒは、自分の範囲に近づいたリオスへ襲いかかった。
「くっ!」
リオスもまた撃って出てショートソードを振り払うが、ヒヒは俊敏の動きでかわした。
続けて何度もショートソードを乱れ振るが、リオスの剣は当たりはしなかった。
そして、ヒヒの攻撃。
素早く引っ掻かれては、リオスの頬や腕から血が滴り落ちる。
致命的ではないが、幾度も傷を負ってしまえば、やがて致死に達してしまう。
戦ってみて、リオスはヒヒとの力量の差に気付き、
「ヤバイ、な……」
そして今、陥っている状況を漏らした。
劣勢な状態だった。
ヒヒの俊敏な動きに自分の攻撃は命中せず、傷を負うばかり。
このまま戦っても勝機が見えなかった。
だから、一時的撤退をした方が無難であると、リオスは判断する。
敵と遭っては逃げてばかりだが、仕方が無い。
命がかかっているのだ。
少しでも自分の身が危険ならば、その危険から身を守らなければならない。
リオスはヒヒに背を向けて、駆け出したのである。
だが、ヒヒはリオスを追いかけてくる。
四本足で駆けてくるからなのかリオスよりも早く走り、直ぐ様追いつかれてしまう。
鋭い爪で、リオスの背中を引っ掻いた。
ジリジリと焼けるような痛みを感じる。だがリオスは堪え、足を止めない。
時々振り返り、ショートソードを薙ぎ払い牽制するも、ヒヒは怯むことなく向かってきては、リオスに傷を負わせた。
このままでは、エデンの小部屋に辿り着く前に体力が尽きてしまう。
「んっ?」
ふと、自分が所持していたショートソード以外のもの、そう“リンゴ”を持っていること思い出した。
「そうだ、これで!」
リオスは“リンゴ”を真横に放り投げた。
これで、ヒヒがリンゴの方に標的を変えてくれればと……。だが、そんなリオスの願いは、儚くも散ってしまう。
ヒヒはリンゴをそっちのけで、リオスを追いかけ続ける。
いきり立ったヒヒには、もはやリオスしか映っていなかった。
「くっそーーー! ヤバイ、ヤバイ!」
草木が生い茂る中を突っ走るも、変わらずヒヒは追いかけてくる。
ジクザク移動するも、ヒヒは真っ直ぐ追いかける。無駄な動きをした分、またしても追いつかれ、引っ掻かれてしまう。
徐々にリオスの限界が近づいてくる。
息も絶え絶えになり、足が重く感じてきた。
しかし、足を止めてしまえば最期。
何があっても、なんとかしなければならない。
まだ、何か解決策があるはずだと、疲弊しきった身体で考える。
『あの動きさえ封じれば……っ!』
攻撃がことごとくかわされる、ヒヒの俊敏の動き。
あの動きをどうにかすれば、逃げられるし、こちらの攻撃を難無くを当てることが出来る。
でも、どうすれば?
リオスは茂みの中を走っていると、草木が刈り取られて、道のようなものが出来ていた場所に出た。
先ほど自分が通る時に、ショートソードを振り回し、草木を刈り取りながら進んできた道だった。
そして、この先には……。
「そうだ!」
リオスは最後の力を振り絞り、走る速度を上げた。
勢いをつけると、強く地面を蹴り高くジャンプし、跳躍したのである。
上手く着地出来ず、不恰好に転げ倒れるリオス。
ふと後ろを向くとヒヒが迫ってきていた。
ヒヒは今が好機と判断してか、その足を速める。
そして、
――ガッチャン!
耳に障る嫌な金属音が高く響いた。
ヒヒの片足が“トラバサミ”に挟まれていたのである。
先ほど己が捕食したラビッグのように暴れ藻掻くも、トラバサミから逃れることは出来なかった。
まるでトラバサミが、獣の牙のようにヒヒを喰らい付いているように見えた。
リオスは、この機を無駄にしない。
直ぐ様立ち上がり、ショートソードの柄を強く握ると、暴れ狂うヒヒに近づいていく。
ヒヒはリオスを威嚇するように奇声を上げたり、身体を激しく動かす。
しかし、トラバサミに噛まれているヒヒは、その場から動くことが出来ない。
「素早く動かないオマエなんて恐くないんだよ!」
リオスは、手にしたショートソードを勢い良く振り下ろし、ヒヒを容赦なく斬り伏せた。
ヒヒは声をあげることもなく、その場に倒れこんだ。
これもまた、弱肉強食の結末だった。
◆◇◆このフロアでの戦果◆◇◆
ヒヒを倒した。
リオスは、少しだけ強くなった。
新しいフロアへの道が拓けた。
To Be Continued ‥‥




