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悠宮探久~リオスの不思議なラビリンス~  作者: 和本明子
◆3章 無機質な獣と暴れ狂う野獣、そして戦う術を閃いた場所
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-2-

 物音をたてず、呼吸することも極力抑えて、リオスはヒヒに向かっていく。

 一歩進んでは止まり、また一歩と進んでいく。


 ヒヒまで一メートルの所まで近づいた。


 ここから飛びかかり、剣を突き立たればと、思った矢先―――


 ヒヒは目を覚まし、ガバッと身体を起こしたのだ。


 野生動物の察知能力は敏感である。

 身近な動物……猫や犬、そして鳥といった動物ですら、人間が気付かれないように近づいたとしても、自分の身の危険を感じる所まで近づくと、気付いて逃げ出してしまうのは、ご存知だろう。


 いくらリオスが、その気配を消して近づいたとしても、野生動物の前では無意味だった。


 目を覚ましたヒヒは、自分の範囲に近づいたリオスへ襲いかかった。


「くっ!」


 リオスもまた撃って出てショートソードを振り払うが、ヒヒは俊敏の動きでかわした。

 続けて何度もショートソードを乱れ振るが、リオスの剣は当たりはしなかった。


 そして、ヒヒの攻撃。

 素早く引っ掻かれては、リオスの頬や腕から血が滴り落ちる。

 致命的ではないが、幾度も傷を負ってしまえば、やがて致死に達してしまう。


 戦ってみて、リオスはヒヒとの力量の差に気付き、


「ヤバイ、な……」


 そして今、陥っている状況を漏らした。


 劣勢な状態だった。

 ヒヒの俊敏な動きに自分の攻撃は命中せず、傷を負うばかり。


 このまま戦っても勝機が見えなかった。


 だから、一時的撤退をした方が無難であると、リオスは判断する。

 敵と遭っては逃げてばかりだが、仕方が無い。


 命がかかっているのだ。

 少しでも自分の身が危険ならば、その危険から身を守らなければならない。


 リオスはヒヒに背を向けて、駆け出したのである。

 だが、ヒヒはリオスを追いかけてくる。


 四本足で駆けてくるからなのかリオスよりも早く走り、直ぐ様追いつかれてしまう。

 鋭い爪で、リオスの背中を引っ掻いた。


 ジリジリと焼けるような痛みを感じる。だがリオスは堪え、足を止めない。


 時々振り返り、ショートソードを薙ぎ払い牽制するも、ヒヒは怯むことなく向かってきては、リオスに傷を負わせた。


 このままでは、エデンの小部屋に辿り着く前に体力が尽きてしまう。


「んっ?」


 ふと、自分が所持していたショートソード以外のもの、そう“リンゴ”を持っていること思い出した。


「そうだ、これで!」


 リオスは“リンゴ”を真横に放り投げた。

 これで、ヒヒがリンゴの方に標的を変えてくれればと……。だが、そんなリオスの願いは、儚くも散ってしまう。


 ヒヒはリンゴをそっちのけで、リオスを追いかけ続ける。

 いきり立ったヒヒには、もはやリオスしか映っていなかった。


「くっそーーー! ヤバイ、ヤバイ!」


 草木が生い茂る中を突っ走るも、変わらずヒヒは追いかけてくる。

 ジクザク移動するも、ヒヒは真っ直ぐ追いかける。無駄な動きをした分、またしても追いつかれ、引っ掻かれてしまう。


 徐々にリオスの限界が近づいてくる。

 息も絶え絶えになり、足が重く感じてきた。

 しかし、足を止めてしまえば最期。


 何があっても、なんとかしなければならない。

 まだ、何か解決策があるはずだと、疲弊しきった身体で考える。


『あの動きさえ封じれば……っ!』


 攻撃がことごとくかわされる、ヒヒの俊敏の動き。

 あの動きをどうにかすれば、逃げられるし、こちらの攻撃を難無くを当てることが出来る。


 でも、どうすれば?


 リオスは茂みの中を走っていると、草木が刈り取られて、道のようなものが出来ていた場所に出た。

 先ほど自分が通る時に、ショートソードを振り回し、草木を刈り取りながら進んできた道だった。

 そして、この先には……。


「そうだ!」


 リオスは最後の力を振り絞り、走る速度を上げた。

 勢いをつけると、強く地面を蹴り高くジャンプし、跳躍したのである。


 上手く着地出来ず、不恰好に転げ倒れるリオス。

 ふと後ろを向くとヒヒが迫ってきていた。


 ヒヒは今が好機と判断してか、その足を速める。

 そして、


――ガッチャン!


 耳に障る嫌な金属音が高く響いた。


 ヒヒの片足が“トラバサミ”に挟まれていたのである。

 先ほど己が捕食したラビッグのように暴れ藻掻くも、トラバサミから逃れることは出来なかった。


 まるでトラバサミが、獣の牙のようにヒヒを喰らい付いているように見えた。


 リオスは、この機を無駄にしない。

 直ぐ様立ち上がり、ショートソードの柄を強く握ると、暴れ狂うヒヒに近づいていく。


 ヒヒはリオスを威嚇するように奇声を上げたり、身体を激しく動かす。

 しかし、トラバサミに噛まれているヒヒは、その場から動くことが出来ない。


「素早く動かないオマエなんて恐くないんだよ!」


 リオスは、手にしたショートソードを勢い良く振り下ろし、ヒヒを容赦なく斬り伏せた。

 ヒヒは声をあげることもなく、その場に倒れこんだ。


 これもまた、弱肉強食の結末だった。




 ◆◇◆このフロアでの戦果◆◇◆


 ヒヒを倒した。


 リオスは、少しだけ強くなった。


 新しいフロアへの道が拓けた。


To Be Continued ‥‥


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