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なんとか火草を見つけたリオスとフィオ。フィオは、リオスの服の片袖を破った布切れにこねた火草を擦りつけた。それを道中で拾った木の枝に巻きつけて、松明は完成した。
「多分これで、暫くは火が持つと思います。長い時間は持たないので、気を付けてね」
そして、松明を手にしたリオスたちは、暗闇のフロアに続くトンネルの前に立っていた。
「それじゃ、フィオ。危険だったら、すぐに逃げるんだ。あのフロアには、危険なモンスターがいるから」
「うん、分かっているわ。リオスもリオスで、気を付けてね」
最終確認をしつつ、暗闇への道に足を踏み入れた。
入口から光が届く範囲までは、松明に火を付けないで進んでいく。やがて、暗闇が覆い何も見えなくなる所まで辿り着くと、フィオは前回ラビッグに対して使用した火の魔法「ファイロル・グロブ!」を唱え、松明に火を着けた。
松明の小さな灯火が暗闇を照らす。
前回とは違って、リオスの足は力強く確実に歩んでいく。
辺りを警戒をしつつ進んでいくと、松明の明かりは、あるモノの姿を照らしだした。
リオスたちと同じように二本足で立つ人型であり、全身に毛が生えて、手には棍棒を持っていた。そして凶悪な形をした仮面を被り、その素顔を拝見することは出来なかったが、異形な姿と雰囲気に、自分たちと同じ者ではないと識別した。
そして、この異形なる者が前回自分を襲ってきた“ダークファイター”だと、リオスは推測した。
「ゴブリンみたいなものですね……」
フィオが呟いた。
ダークファイターは鋭い眼光でとリオスと視線が合うと否や、ダークファイターが襲いかかってきた。
ダークファイターは手にしていた棍棒を勢い良く振り下ろす。
――ガッツーーン!
リオスは皮の盾で攻撃を防ぐ。だが、ダークファイターの攻撃は続く。
ダークファイターの棍棒に注意しつつ、リオスは皮の盾で受け止めるものの、重い衝撃が伝わってくる。
そう何度も受け止められるものではない威力だ。
リオスも攻撃に出る。
手にした松明をダークファイターに突き出す。燃焼部分が体に触れれば、火傷を負わされるだろう。
ダークファイターは、危険ものだと察知し軽快にかわす。
しかし、
「ファイロル・グロブ!」
――ドォーン!
火球がダークファイターに命中する。
フィオが唱えた魔法であった。
よろけるダークファイター。相当なダメージを受けているようだ。
続けてフィオは呪文を唱えだす。
ダークファイターは、フィオに狙いを定め襲いかろうとするが、リオスが立ちふさがる。
これは、リオスたちの作戦だった。
リオスが攻撃を防ぎつつ、フィオが魔法で攻撃をする。魔法を発動させるための詠唱時間をリオスが稼いでいるのである。
ダークファイターは邪魔となるリオスを排除しようと棍棒を振り回す。
だが、先ほど同じくリオスは皮の盾で攻撃を防いでいく。
防御に集中すれば、ある程度の攻撃を防げた。
そして、
「ファイロル・グロブ!」
――ドォーン!
フィオの魔法攻撃がダークファイターに命中する。
リオスがダークファイターの動きをある程度止めてくれているので、狙い易かったのである。
二発も火球を受けたダークファイター。
足下がおぼつかず、苦しむ声を漏らしていた。
あと一発でも火球を与えれば、倒すことができる――と、リオスが油断した時だった。
突然ダークファイターは猛然と走りだす、リオスに突っ込んできたのである。
――ドッシーン!
「うわッ!」
タックルを食らわされ強い衝撃を受けたリオスは、後方にふっ飛ばされる。そして、その衝撃で手にした松明を手放してしまった。
遠方に転がる松明。
リオスの周囲が暗闇に包まれると、ダークファイターはその闇に紛れ、姿を消した。
「しまった!」
ダークファイターが逃亡するよりも、再び闇に乗じて、攻撃をしてくる可能性の方が高いと判断する。
身構えるリオス。
すると、ダークファイター足音が聴こえてくる。
皮の盾で、自分の顔を覆い隠す。だが、ダークファイターが攻撃してくる、ましてや近付いて気配を感じられない。
むしろ、自分から遠ざかっていくようだった。
――逃亡?
いや、ダークファイターはフィオを狙っている、とリオスは感じた。
この暗闇。
ダークファイターにとっては攻撃のチャンス。それは自分に攻撃を仕掛けて相手を仕留めるチャンスでもある。
リオスは辺りを見回した。
フィオの姿が見えなければ、ダークファイターの姿も見える訳が無かった。
だから、
「フィオ! 逃げるんだ! 敵は、フィオを狙っている!」
叫んだ。
しかし、反応が無い。
ふと、遠くに見える入り口から漏れていた光が遮られた。
その理由は、入り口との直線上にダークファイターが重なったからだ。
一か八か、リオスは咄嗟にその方向へと走りだす。手を差し出しながら。
その手に何かが触れた。
毛むくじゃらな感触が手に伝わる。
ダークファイターだ。
リオスは瞬時に羽交い絞めで、ダークファイターの動きを止めた。
暴れるダークファイター。
ダメージを負い、普段の力は出せないでいるが、それでも強い力に長時間抑えることは出来ないであろう。
「逃げるんだ! フィオ!」
リオスは叫ぶ。自分が抑えている間に、このフロアからの脱出を望んだ。
だが、フィオは背を向けなかった。
「炎の精霊よ。我の声を聞き、業炎の火を集いて紡ぎ……」
呪文を唱えるフィオ。いつもよりも長く、難解な言葉を織り交ぜる。
そしてフィオは両腕を掲げると、巨大の火の玉が上空に出現したのである。
太陽のように熱く燃える火球は、その火で辺りを照らし、リオスたちの姿を照らし出す。
フィアはリオスに目を配らせ、
「ファイレーゴ・イートゥ・スーノ!」
そう叫ぶと共に両腕を、リオスたち目掛けて振り下ろした。
特大の火球がリオスたちに迫り来る。
肌に感じる熱が徐々に熱くなっていき、リオスはギリギリの所で手を離して、横へと跳び避けた。
火球がダークファイターに直撃し、火柱がそそり立つ。
ダークファイターは炎の中で、もがき苦しみ、やがて地に倒れた。まだ身体は燃えていた。
息も絶え絶えになり、額に汗が浮かべるリオス。
「フィ、フィオ! 危なかっただろう!」
「あ、ゴメンゴメン! だって、攻撃のチャンスだと思って」
リオスがダークファイターの動きを封じたお陰で、フィアは協力な魔法を唱えられる時間を稼ぎ、火球を狙いやすかったのである。
その事についてリオスは、何となく理解していたが……。
「たく……。素直に逃げてくれれば良かったのに……」
「私が逃げたら、リオスが危険だったんじゃない?」
「なんとか逃げているよ」
「そう? まぁ、障害物を倒せたんだし。結果が良ければ、全てOKでしょう!」
あっけらかんと答えるフィオ。茶目っ気たっぷりの表情に、リオスは今回はと、目をつぶったのであった。
そうこうしていると、ダークファイターが燃え尽きてしまい、辺りを照らしていた火(明かり)が消えると共に、再び闇に包まれて真っ暗となったのである。リオスが本当に目をつぶった訳ではない。
そして暗闇でフィオの姿が見えなくなった。
「フィオ、大丈夫?」
身を案じる声を投げかけたものの、返ってきたのは、
『よくぞ、ダークファイターを倒したわね』
その声は、フィオの声とは違って、低く重い声だった。別の人間の声。
声が聞こえた途端、リオスは金縛りに合い、身動きが取れなくなってしまった。ただ、口は動く。
「フィオ……じゃないよな? 誰だ?」
『……私は、この迷宮を創造した者……』
「っ!? 創造した者? 何が目的で?」
『……それは、まだ語るべきでは無いわね』
「それはどういう事だ?」
『……それを知った所で、アナタに何の意味が無いからよ』
「此処に、オレを連れてきたのはオマエか?」
『……そうよ』
「なんで?」
『理由を述べるとしたら、ただ、私が楽しむため』
「楽しむため?」
『……これ以上は内緒ね。また、こうやって1階層をクリアしたのなら、教えてあげる。だけど、こんな早い内にあの娘を救うとはね。想定外だったわ……』
淡々と語る謎の声に、リオスは状況を把握するため、黙ってその声に耳を傾けていた。
『でも、まぁ。そういう想定外があるのも一興。次も楽しみにしているわ……』
「ま、待て!」
『私に会いたかったら、この迷宮の何処にいるから、探し当ててみなさい。楽しみに待っているわ。アナタもゆっくりとじっくりと、この迷宮を楽しんでね。それじゃ……』
声が聞こえなくなると、リオスの金縛りが解け、自由に身体を動かせるようになった。そして、天井から光が灯り、フロア全体が照らされた。
突然、明るくなったことで、今まで暗闇に目が慣れていたこともあり、あまりの眩しさにまぶたを閉じる。
そして、ゆっくりとまぶたを開けて明かりに慣れさせる。ようやくリオスは、視力を取り戻して辺りを見回す。
暗闇のフロアは、草木といった自然物などは無く、ただ平坦な地面が広がっていた。
「はー、突然明かりが点いて、ビックリしましたね」
リオスは振り返ると、フィオの姿を確認する。
「フィオ。君は、さっきの“声”を聞いたかい?」
「声?」
首を傾げるフィオ。
「ほら、この迷宮を創造した者の声が聞こえてきただろう?」
「そうなんですか? 私には、何も聞こえてきませんでしたけど……」
驚愕するリオス。
あれほど、確かにハッキリと聞こえてきたのに、それを聞こえなかったのはおかしいと思う。
だがフィオは、そんなリオスをよそに――
「あっ! 見てください! 扉がありますよ!」
奥に見える扉へと駆けていった。
取り残されたリオス。
「さっきのは、オレだけに呼びかけてきたのか……」
疑問に思うも、あれこれ考えても答えが出る訳は、リオスは一先ずフィオの後を追った。
如何にも重く固く閉ざされた扉の前にするリオスとフィオ。
「開きますかね、この扉?」
何気なくフィオが扉に触れると、
――ゴゴゴゴッッ――
重い音を響かせ、観音開きの如く開いたのであった。
「……開きましたね」
「ああ……」
リオスは、慎重に扉の奥を覗う。
すると先には、下へと降りる階段が続いていた。
「階段……。どうやら、ここから降りれるみたいだな」
「降りてみます?」
フィオが確認を取る。
リオスを振り返り、フロアを見渡す。
この扉以外に、他の扉などは無い。
つまり、この先を行くしかないのだ。
そしてリオスは、迷宮の創造主の言葉を思い出す。
「“こうやって1階層をクリアしたのなら”か……」
リオスは確信を持って、扉の奥へと進み行く。
「リオス?」
「行こう。これはオレたちが進むべき道……新しいフロアへ続く道だ」
率先として行くリオス。
その後ろ姿をフィオは見つめ、ちょっと頼もしさを感じつつ、後を追いかけていった。
◆◇◆このフロアでの戦果◆◇◆
2階層の道が開かれた。
To Be Continued ‥‥ ?
ご拝読していただき、ありがとうございます。
和本明子です。
そして、誠に勝手で大変申し訳無いのですが、諸々の事情で、この物語はここで中断することになります。
元々、半年以内で1階層をクリアする(この話しまで書き上げる)予定だったのですが、軽く2年以上掛かってしまいました。
ちょっと制作ペースやストーリーなどの進行が宜しく無いと感じており、一旦腰を据えようと思いましての決断です。
再開がいつになるか分からない状態です。申し訳ありません。
ただ、他の作品も執筆したりしていますので、宜しければそちらの方をご拝読いただければと。
楽しんで貰えるように頑張っていきます。
これまで、ご拝読して頂き本当にありがとうございました。
そして、他の作品も宜しくお願いいたします。
和本明子でした。