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悠宮探久~リオスの不思議なラビリンス~  作者: 和本明子
◆7章 暗闇に光を灯し、これから進むべき道を照らした場所
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「あらためまして。助けてくれて、ありがとう!」


 フィオは深々とリオスに頭を下げた。

 二人は、ひとまずエデンの小部屋に戻ってきており、先ほどリオスが手に入れていたリンゴでお腹を膨らませていた。

 一息ついた所で、リオスはフィオについて改めて訊ねた。


「君は、一体何者なんだ?」


「さっきも話したじゃないですか。私の名前はフィオで、魔法使いです」


「その……魔法使いというのは……」


「ええ。その名の通りですよ。なんなら、もう一回魔法を使って見せましょうか?」


「あ、いや。大丈夫。そうか、魔法使いか……。君は……」


「フィオです。ちゃんと名前で呼んでください!」


 無邪気な表情を浮かべ、リオスに訴える。どうやら、自分の名前で呼ばれることに何かしらのこだわりがあるのだろう。

 リオスは照れつつ、


「ああ……。フィ、フィオは、なんで此処にいるか解るかい?」


「此処に?」


「この迷宮にだよ。自分は目が覚めたら、ここ(エデンの小部屋)で。なんで此処にいるかも解らないし、自分が何者なのかも覚えていないんだ」


「記憶喪失ってやつですか?」


「かもね。ただ、迷宮内を歩きまわっていたりしたら、色んなことを思い出してはいるけど……。そして、この迷宮から出ようとしてはいるんだけど、今のところ出口は見つかってないんだ。そして彷徨っている時に、氷漬けになったフィオを見つけて……」


「助けてくれたんですね!」


「まぁ、結果的には……。それで、なんでフィオは氷漬けなんかになっていたんだ?」


「それはですね……。えーと……。あれ? 思い出せない……」


「まさか……。フィオも、記憶喪失?」


「えっーーと……。なんか頭の中がモヤモヤしていて、なんかハッキリしないんですよね。私の名前は、フィオ。フィオで、私は魔法使い……。そうだ! 確か、あそこで魔法の練習をしていたんですよ」


「魔法の練習?」


「はい。それで、魔法が失敗してしまって、あんな風(氷漬け)になった……ような気がします……」


 あやふやな言葉に、リオスのみならずフィオ自身も不安になってしまう。


「思い出せるのは、その辺りだけです……。すみません」


「いや、別に……。謝ることじゃないよ」


「す、すみません……。で、でも、大丈夫ですよ。きっと、いつか思い出しますよ!」


 フィオもまたリオスと同じ様な状態なのだと、リオスは大きな溜息を吐いた。

 だったら、するべきことは決まっている。


「フィオ。もし良ければ、この迷宮を脱出するために力を貸してくれないか?」


「え?」


「この迷宮は、さっきみたいに凶暴な生き物が生息している。一人でウロウロして探索していたら、いつ襲われるか分からない。二人で協力した方が良いと思って……」


 一人よりも二人。協力者は多いに越したことは無い。


「……そうですね。私もそう思います。さっき一人でいた時、すっごく心細かったです。協力して、この迷宮を脱出しましょう。リオス」


 そう言うと、フィオは手を差し出した。

 リオスは一度フィオを顔を覗う。フィオは、あどけなく明るい表情を浮かべていた。


 そしてリオスも手を差し出すと、フィオは笑顔でガッチリとリオスの手を握り締める。

 フィオを氷柱から救い出した時に、触れた優しい温もりが手に伝わってくる。



「よろしくね、リオス!」


 こうしてリオスとフィオは、共に迷宮を脱出する為、出口を探すことになったのである。


   ***


 まずリオスたちは、フィオが氷漬けになっていたフロア(灰色のフロア)を探索することになった。

 しかし、ほとんどものが燃え尽きており、草木や果実などは灰になっていた。


 異常の光景に、当然フィオは疑問に思う。

 リオスがその原因を渋々と答えると、


「あららら~。でも、そのお陰で私が助かったんだから、仕方ない犠牲だよ」


 フィオは気に留めることは無く、先へと進み、探索が続けられる。

 しかし、このフロアには他のフロアに続く路は無く、新しい発見は無かった。


「さて、どうしたものか」


 腕を組み、辺りを見回すフィオ。草木が灰になったお陰で、見通しが良くなっており、遠くには四方を囲う白い壁が見えていた。


「このフロアは、もう行く所が無い感じだな……」


「ねぇ、リオス。別の路がある所を思い当たりがないの?」


「別の路か……」


 リオスには思い当たる場所があった。

 それは、何も見えぬことに恐怖した場所……暗闇のフロアである。


「でも、あそこは真っ暗闇で何も見えないし、あそこには危険なモンスター(ダークファイター)がいるみたいなんだ」


「真っ暗闇? だったら私の火の魔法で照らして……。あ、でも、火はすぐに消えちゃうから、意味が無いか」


 そう言うものの、あの暗闇のフロアは避けては通れない所だと、覚悟はしていた。

 だが、問題は二つ。


 暗闇と、そこに巣食うモンスター(ダークファイター)。


 これらをどうにかしなければならないのだ。

 しかし、今のリオスには戦う武器が無い。フィオの魔法があるにしても、魔法を発動させるためには呪文を唱える必要があり、発動まで時間が要するのだ。


 呪文を唱えている間に、攻撃されてしまう可能性が高く、危険であった。


「そうだ、リオス。誰か知り合いとかは居ないんですか?」


「知り合い……あっ!」


 リオスは、ふとフロシキの中を探り、あるモノを取り出した。

 それは、草だった。もちろん、ただの草では無い。


「なんですか、それは?」


「ポコポコの草笛だよ」


「ぽこぽこ?」


「えっと、これを吹けば、ポコポコってやつが来てくれる……言うものだけど……」


 リオスはおもむろに草を口に当てて、フゥーと息を吐いた。


――ピーー♪


 高い音が辺りに響いた。

 そして暫くすると、何処からともなく『ドドドッ』と地響きが轟いてきたと思えば、遠方より砂煙を巻き上げて、凄まじいスピードでこちらに勢い良く向かってくる物体が見えた。


「呼んだ?」


 ポコポコだった。

 息一つ切らすこと無く現れたポコポコは、気軽に声をかけると共に、リオスの隣に居るフィオを見るや否や跳び上がり驚いた。


「うわっ! 氷の人間がいる!」


   ***


「うわー、可愛い。やわ~い! ぷにぷにする!」


 フィオはポコポコを抱きかかえ、触り心地を楽しんでいた。そのポコポコは嫌がる素振りは無く、ほわ~としたとろけた表情で、なんだか心地よさを感じているようだった。


「えーと……本題を話して良いか」


「はっ!? ゴメンなさい。ポコちゃんがあまりにも可愛かったので」


 リオスたちはポコポコに事情を説明する。このフロアが


「という訳なんだポコポコ。どこかに別のフロアに通じる路とか知らないか?」


「うーん。ポコポコが知っている所は、ここと、ヒヒが居たあそこ。そして、あの真っ暗な所だけだよ」


「やっぱり、そうか……」


 自分たちのスタート地点に戻る。


「となると、あの真っ暗なフロアをどうやって抜けるかだな……。ポコポコ、なにか火が持続できるような道具あったりする?」


「んー。残念だけど持ってない。今、持っているのは、これ」


 ポコポコは自分の袋の中から、円盤状の物を取り出した。

 それは、動物の皮をなめして固くした盾―皮の盾―だった。


「ヒヒが居た所で、木々の奥に落ちていたのを拾った」


「そんなものも落ちていたのか……」


「何かと交換する?」


「ああ。今、持っているのは、このリンゴだな」


「リンゴ!? うん、それと交換しよう!」


 前に交換した時に、ポコポコはリンゴを食して、どうやら非常に気に入ったようだった。

 本当は武器が良かったのだが、いつまでも素手でいるよりは、何かを持っていた方が幾分かはマシだった。


「ああ、良いよ」


 リオスはリンゴをポコポコに手渡すと、ポコポコは高々と掲げ、まるで宝物を手に入れたかのようだった。


 そんな儀式をフィオは横目で見つつ、解決策を講じていた。


「真っ暗闇ね……。そうだ!」


 何か思いついたようだ。


松明トーチよ、リオス!」


「松明?」


「そう。火草を松明に火種にすれば、イケるかなと思って」


「なるほど。あ、でも……」


 リオスは辺りを見渡す。そこには灰色の景色が広がっていた。


「運良く、燃え残っている火草があるかもしれないし、探すだけ探してみよう。ねっ?」


「そうだな……」


 こうしてリオスとフィオは、ポコポコと別れた後、火草探しを始めたのであった。



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