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「何処に行ったんだ?」
リオスは部屋中を探し回る。
机の中もベッドの下も、目に付く場所、人が隠れられる場所を探したけれど見つからなかった。
念のためにと、もう一度探して見る。
それでも見つからなかった。
その結果、考えられることは――
「まさか、この部屋から出た? どうして……あっ!」
当のリオスも目覚めた時は見知らぬ部屋に不審に思い、部屋を出る行動を起こしたのである。
「そりゃ、そうだよな……。ということは、あの娘は部屋を出て、外に……」
自分と状況が違うのは、扉にカギが掛かっておらず、知能がある者ならば開けられることが出来る。
リオスは直ぐに部屋から出て、辺りを見回してみたが、少女の姿は見当たらない。
少女が何処に行ったか、心当たりが有る場所なんて有る訳が無い。
勘を頼りに探し回るしかなかった。
「くそっ……こんなことなら、あの娘が目覚めるまで待っていれば良かった……」
後悔をしても時間が戻ることは無い。
リオスは、謎の少女を探してフロアを駆け巡った。
***
そして、リンゴの樹の前へとやってきた。
もしかしたら、リンゴの甘い香りに誘われているかもと思ったが、そこには誰もいなかった。
走り回ったリオスは、息も絶え絶えになりつつ、リンゴの樹にもたれかかった。
「本当に、何処に行ったんだ……クソっ!」
見つからない苛立ちと自分の不甲斐無さに、思わず樹の幹を叩いた。
僅かに樹が揺れると、上空から――
――「わっ! わっ! わわわ~!」
奇声が聴こえると、大きな物体が落ちてきたのである!
「えっ! うわわわわっ!」
――ドッシン!
大地に衝撃音が響く。
リオスはその物体の押し潰され、下敷きになってしまっていた。
「痛たた……な、なんだ、一体?」
状況を確認……落ちてきたものが何かと確認すると、それは――
「君は……」
リオスが救いだした謎の少女だったのだ。
「きゃっ!」
謎の少女は飛び上がり、リオスから距離を取った。そして警戒するかのように身構え、言葉を発する。
「あ、あなたは何者なんですか?」
「何者かって……」
ポコポコにも訊かれたことだが、まだ自分が何者なのかは解らない。だから、あの時と同様に、現時点での自分の事とこれまでの経緯について語った。
「オレの名前はリオスだ。ここを脱出するために辺りを探検していて、その最中に氷漬けになった、君を見つけたんだ」
「氷漬け……?」
「そう。それで、氷漬けになった君を助けだして、あの部屋……多分、君が目を覚ました場所に連れていって介抱していたんだよ」
真実を話しているが、謎の少女に氷漬けになっていた記憶が無ければ、嘘のような話しだろう。
しかし、少女には覚えがあった。
「氷漬け……そう私……失敗して氷漬けになったんだ。すっごく冷たくて、寒くて……ずっと、ずっと眠っていた……。だけど、暖かな風を感じるようになって……そして、眩しい光が私に注ぐ夢を見て、眼を覚ましたら、あの部屋で…」
少女はリオスの顔を、マジマジと見入る。
そしてリオスの手を手に取った。
「……あなたが、助けてくれたんですか!」
「た、助けたというか、まぁ結果的に……」
「でも、助けてくれたんでしょう! 助けてくれなかったら、私は永遠に氷の中で眠っていましたよ!」
「えっ……えっと……」
少女が語る内容にいくつか疑問に思い、訊きたいことが沸き立つ。
その中で特に訊きたいことを尋ねようとした時だった!
「っ! 危ない!」
そう叫ぶと否や、リオスは少女の前に立った。
「えっ!?」
リオスの突然の行動に驚く少女。
だが、リオスの方を向くと、その行動の意味を理解した。
「あれは……」
長い耳をピンッと立てて、鋭い爪と牙を持った凶暴な小動物……二体のラビッグが、リオスたちの前に立ちはだかっていたのだ。
リオスは剣を手に取ろうとしたが、武器は前回の件で無くしていたことに気付く。
ショートソードがあればラビッグが二体でも、難無く撃退することは出来ていたであろう。
素手では、鋭い爪と牙を持つラビッグを相手にするのは難しい。
現状を踏まえて、選択肢は逃げるしかなかった。
リオス……自分一人だけなら、なんとか逃げることは出来る。
だが、今は――
リオスはチラっと少女を見る。
そして、決断した。
「君は早く、あの部屋に戻るんだ!」
「えっ!?」
「ここはオレに任せて、さぁ行くんだ!」
少女を逃すための時間稼ぎに、身を挺することを決めた。
そんなリオスの覚悟を知ってか知らぬか、ラビッグの一体がリオスに向かって襲いかかってきた
リオスは腕を交差して身構えた――その時だった。
「ファイロル・グロブ!」
背後から突然聞こえた言葉と共に熱を感じ、火の球がラビッグの一体に直撃したのである。
身体に火が着き悶え苦しむラビッグ。
もう一体のラビッグは、仲間が火ダルマになっているを見て怯え、そのラビッグはリオスたちに背を向けて逃げ出したのである。
そして、燃えたラビッグはそのまま力無く倒れ絶命した。
リオスはゆっくりと振り返り少女の方を見た。
すると少女は、何に気にすることはなく普通の顔を浮かべている。
おそらく少女が繰り広げたであろう、先ほどのことについて、自然と訊いた。
「い、今のは?」
「今のは“魔法”です」
「ま、魔法……?」
「はい。なんとかしないといけないと思っていたら、ふとあの魔法の呪文を思い出して唱えてみたんです」
耳慣れない言葉と内容を事も無げに語る少女に、リオスは戸惑う。
そして、それに対しての感想は――
「君は一体……何者?」
自分とは違う“何か”を会得している少女に、疑念の眼を向ける。
だが、少女はそれに気にすることはなく。
「あっ! そういえば、私の自己紹介がまだでしたよね」
優しく微笑み、手を差し伸ばした。
「私の名前は“フィオ”といいます。助けてくれてありがとう、リオス!」
あどけなく朗らかな表情に、リオスは思わず差し向けられた手に伸ばそうとすると、
――グルルルグキュルルル♪
少女のお腹の虫が、盛大に鳴り響いたのであった。
◆◇◆このフロアでの戦果◆◇◆
リンゴ を2つ手に入れた。
氷漬けになった少女の名前を知った。
未知なる力…“魔法”の存在を知った。
To Be Continued ‥‥