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悠宮探久~リオスの不思議なラビリンス~  作者: 和本明子
◆4章 心通じる者と言葉通じるモノに出会い、人心地を感じた場所
11/17

-2-


 草場から出てきて姿を現したのは、丸っこい小柄な生き物だった。


 その生き物は二本足で直立して、自分と同じぐらいの大きな袋を背負っていた。

 なんとも丸っこく可愛らしい見た目に、ラビッグなどの魔物と比べて恐ろしさを、リオスは感じなかった。


 その生き物はリオスの存在に気付くと、直ぐ様草場の茂みに飛び込んで、その身を隠した。

 が、身体の半分だけを出し、


「オ、オマエは誰だ?」


 リオスに話しかけてきたのである。


「!?」


 驚くリオス。

 今まで自分が出会ったのは、襲いかかってきた生き物ばかり。

 だから、言葉を投げかけてくる生き物との遭遇に驚くしかなかった。


「オマエは、その人間の仲間か?」


 その人間……氷漬けの少女のことを言っているのだろう。


「いや、違うけど……」


「それじゃ、オマエは何者だ?」


「誰って、言われてもな……」


 記憶を喪失しているリオスにとって、その質問は酷なものだった。

 ひとまずリオスは、自分の名前を名乗り、これまでの経緯を丸っこい生き物に説明することにした。


「リオスは、記憶がナイ?」


「ああ」


「記憶がナイのか。それなら仕方ないな」


「それじゃ、今度はこっちの質問だけど、君は何者なんだ?」


「ボクはポコポコ。ポコポコって呼んでくれ。ポコポコは収集屋をしている」


「収集屋?」


「うん。この“迷宮”は、色んな物が落ちていたりして、色んな物が手に入る。ポコポコは、それを集めるのが仕事」


「集めて、どうするんだ?」


「他のポコポコの仲間と交換したりする。珍しい物を持っていると、ポコポコの仲間から尊敬されるから」


「なるほど……」


 ポコポコが何者であるかは、ポコポコという生き物だと把握することにした。

 それ以上でも、それ以下でもないのだろう。


「なぁ、ポコポコ。いくつか質問していいか?」


「良いよ。その代わり、ポコポコも質問する」


「ああ、良いけど。ここは一体、何処なんだ?」


「ここって?」


「ここだよ。まるで室内のような場所だけど、不自然に広くて……自然物が茂っているけど。そういえば、さっきポコポコが、迷宮って言っていたけど……」


「そう、ポコポコたちはここを迷宮って言っている。それが全て」


「迷宮……」


 その言葉に、妙に納得感があった。

 迷宮は迷宮でも、ただの迷宮ではない。

 不思議の迷宮――

 そう、リオスは心の中で呟いた。

 迷宮ならずも、あるはずのものがある。

 リオスは、それを訊ねた。


「それで、出口とかがある場所を知っていたりするか?」


「出口?」


「外に出る出口だよ」


「う~ん、どうだろうね。ポコポコが行った場所は、どこも囲われた場所だった。リオスが言う、空が広がる場所は行ったことがナイ」


「そうか……」


「リオス。色んな所に階段とかがある。もしかしたら、リオスが言う外に出られる階段があるかもしれない」


「階段?」


「そう、階段。この迷宮のあちらこちらに階段があって、色んな場所に行くことが出来る。ポコポコも、階段を登ったり下がったりして、この場所に辿り着いた」


「その階段って、何処にあるんだ?」


「階段が有った場所は、暗い場所だった」


 暗い場所と言えば、リオスがダークファイターに襲われた場所だとよぎる。

 そこに、別の場所へと通じる階段が有ると判断した。


「それで、リオス。今度はポコポコから」


「うん、なんだ?」


「リオスは、この人間の仲間なのか?」


「いや。オレもさっきここに来て、これを見つけたんだ。この女性が何者なのかは解らない。ポコポコは?」


「ポコポコも知らない。ポコポコもこれを見つけて驚いた。それに、あの人間を見ていると、なぜかドキドキする」


 確かに、氷漬けとなった少女は、あたかも美術品のような出来だった。

 ポコポコは、そんな芸術を理解するほどの心を持っているようだ。


「なぁ、ポコポコ。この氷を何とかする方法を知らないか? 熱いものとか、凄い衝撃を与えることができたりすれば、この氷の柱を壊せるかも知れないんだけど……」


「う~ん……あ! あることはある。このフロアに火草という赤い草がある。その火草があれば、爆弾が作れる」


「ば、爆弾!?」


「ポコポコの友達がそう言っていた。その爆弾。凄い威力があるって」


「そうか……。それじゃ、その赤い草、火草があれば……」


「だけど、その火草がある所に、レッドスネークという恐ろしい魔物がいる。火草を手に入れるのは難しい」


「恐ろしい魔物?」


「うん。だから、取ろうとするなら気をつけて。それに、この迷宮の各フロアにはボスがいるから、そいつらにも気をつけて」


「ボス?」


「そう。フロアには、他の魔物と比べて強い魔物がいる。そいつらはボスなんだ」


「なるほど……ということは、あのヒヒの魔物がボスだったのかな……」


「リオス、あのヒヒを知っているのか?」


「ああ。ここに来る途中で、なんとか倒したよ」


「本当か!?」


「ああ」


「良かった。あいつが道を塞いでいたから、戻ることが出来なかったんだ。これで通れる、やったー!」


 ポコポコは飛び跳ね、喜びを表現する。


「そういえば、リオス。面白いものを持っているね。なに、それ?」


 リオスの左手に持っていたのは、


「ああ、リンゴだよ」


「リンゴ? それ欲しい! それと何か交換しない?」


「だったら、武器とかはあるか?」


 折れたショートソードに視線を移した。それの代わりとなる、今自分がもっとも必要とするものを述べた。


「武器? ザンネン、今持っていない」


「そうか……」


「これだったら、どうだ」


 ポコポコは、そう言いながら背負っていた袋から少し大きめの“正方形な布”を取り出した。


「布?」


「そう、丈夫な布。風呂敷ともいうよ」


「フロシキ?」


「これに物を入れて包めば、色んな物を持ち運びすることが出来るし、マントとかにして防寒具にしても良いよ」


「なるほど……」


 今までリオスは、右手と左手にしか物が持てず、多数の物を持つことが出来なかった。

 このフロシキを用いれば、それが幾分かは解消される。


「うん、解った。それと交換しよう」


 リオスは、ポコポコと“リンゴ”と“フロシキ”を交換した。

 赤い果実……リンゴを手に入れて、乱舞するポコポコ。


 ひとまず武器の方は、折れたショートソードでなんとかするしかなかった。

 折れたとしてもナイフ程度の長さの刃は残っている。


「それじゃ、ポコポコは……。あっ! もし、火草を見つけたら、草を草笛にして吹いて」


 またまた袋から、細長い緑の草を取り出して、リオスに渡す。


「これは?」


「その草で笛吹くと、どこでも聴こえてくる。その笛の音を聴けば、ポコポコは何処でもやってくるよ。ただし、一回吹くと草は枯れてしまうから、使う時は一度だけ」


「ああ、解った」


「それじゃ、ポコポコはこれで」


 ポコポコは短い足をバタバタと勢い良く動かすと、凄まじいスピードで走り去っていった。


 その姿を見送るリオスは、安堵感に包まれていた。

 これまで、何も解らない場所で目覚め、ただ独りで迷宮を彷徨っていた。


 孤独だった。


 ふと、リオスは氷柱の少女の方に視線を向ける。


 しかし、自分と同じ人間と出逢い。そして、自分と言葉が通じる者と出逢えたことに、人心地を感じることが出来た。


 独りじゃない。


 それだけで、嬉しかった。


「よし、やってやるか!」


 そしてリオスは、氷漬けの少女を救うべく、火草を探すことを決めた。




 ◆◇◆このフロアでの戦果◆◇◆


 氷漬けの少女と出逢った。

 ポコポコと出逢った。


 フロシキを手に入れた。(複数のものを持ち運べるようになった)

 ポコポコの草笛を手に入れた。


 リンゴを失った。

 ショートソードの攻撃力が低下した。


 ここが迷宮だと知った。


To Be Continued ‥‥


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