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リオス
目が覚めたらエデンの小部屋に居て、なぜ、ここにいるのか解らない。
記憶を喪失している。
出口を探している。
▼所持しているもの
・ショートソード×1
・リンゴ×1
リオスは暗闇の通路を進んでいた。
ヒヒが塞いでいたトンネルの中だ。
真っ暗ではあるが、リオスはそれほど不安を感じていなかった。
なぜなら、奥の方で一点の光が見えていたからである。
だが、警戒は怠らない。ショートソードを握る手の力は緩めない。
もし何かの物陰が見えれば、りんご(ヒヒとの戦闘の後、拾い直した)を投げて、探りを入れることも頭に入れて。
だが何事も無く、トンネルの終わりに辿り着く。
外の眩しさに思わず、目を瞑る。
そしてゆっくりと光に慣れて、辺りを見回した。
「ここは……」
そこは、外では無く。前のフロアと同じような場所だった。
天井が有る空に、辺りは木や草が生い茂っていた。
リオスはガクっと肩を落とし、一息吐いた。
ここでジッと立っていても、何も起きはしない。
とりあえず、いつもの通りに探索をし始めるのであった。
***
草木を刈り取りつつ、時々、木の幹に目印となるような傷を付けながら進んでいく。
前のフロアと同様な景色が続き、リオスの気持ちがだれてきていた。
「まさか、こういう場所が延々と続くんじゃないだろうな……」
そんな不安を漏らしていると、ある変化を感じた。
奥に進むごとに、肌寒くなっていくのだ。
そして地面に霜が降りており、白くなっている。
「なんだ、急に……」
先へと進んでいく度に、より寒さが厳しくなくなり、雪景色が濃くなっていく。
リオスは自分の身をさすりながら寒さを堪えつつも、その足を動かし続けた。
いや、身体を動かし続けないと、寒さで眠くなってしまいそうだった。
やがて拓けた場所に出ると、真っ先に大きな“氷柱”がそびえ立っていたのが見えた。
「なんだ…、あれ?」
ゆっくりと氷柱に近づく。
そして、その中に一人の少女が、氷漬けにされているが見えた。
異様な光景に、一驚を喫するリオス。
だが、氷漬けされた少女は清楚な雰囲気を醸し出しており、真っ白な景色も相まって、幻想的で神秘的な光景に思わず見惚れてしまった。
そしてリオスは、無意識に氷柱に触れる。
手に冷たい温度が伝わり、
『助けて……』
声が、リオスの頭の中に響いてきたのであった。
思わず氷柱から手を離し、氷柱……その中で眠る少女を凝視する。
「なんだ、今の声は?」
聴こえてきた声が、氷の少女のものではと思い、再び氷柱に触れてみたが、今度は声を響いてこなかった。
「まだ、生きているのか……」
初めて出会った人間……助けたいという意識がリオスの中に生まれていた。
そして、ショートソードで氷柱を切りつけたり突いたりして、氷を削っていく。
削り取れる量は微細で、巨大な氷の中から少女まで到達するまで、どれだけ時間がかかるか解らない。
だから、より強くより速くショートソードを振るう。
そして、限界は早い内にやってきた。
――パッキィーン!
ショートソードの刃が折れてしまったのだ。
「えっ!?」
折れた刃先が、力無く落ちる。
そして折れたショートソードを見つめ、愕然とするリオス。
すると、背後の草場からガサガサと物音がした。
リオスは振り返り、身構える。
ショートソードが折れた現状では、明らかに攻撃力が低下している。
もしヒヒのような魔物だったら……。
後ろに氷柱が有るからではないが、リオスは背筋が寒くなった。