表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第5話 結局彼はなんなのか

「なんでフィオネちゃんやパルス君と仲良くしてるの、だったよね?」


 由理が質問者に聞き返す。


「は、はい」

「そりゃ勿論、フィオネちゃんとパルス君がいい人だからだよー」


 答えが曖昧すぎる。

 というか、昨日今日での事であるから、実際のところ答えになってすらいない。

 この短期間で、いい人かどうかを判断するには早いと思われるだろう。


「それとー、まぁ、召喚された日に色々助けてもらったからねー」


 由理の言葉に騒然となる教室。

 パルスはともかく、フィオネも巫女であることは知られていないのが原因のようだ。

 昨日、俺達に関わったのは、巫女と給仕だけである。

 教室の空気を俺同様に感じ取る由理。


「ありゃ、これはもしかして驚愕の事実ってやつですかな? そうです、フィオネちゃんは、化術の巫女なのですよー! きゃ、スゴーイ!」

「ちょっと、由理ちゃん!? それ私から言おうとしたのに!」

「まー、いーじゃないかー。魔法少女で巫女さんって、すっごい萌え属性だよー、いやん!」


 教室中が、フィオネが巫女だという事実に驚愕する。

 パルスともども、そういえば落ちこぼれの方に入っていたような事を言われたいたと思い出す。

 成る程、驚くはずだ。


「そ、それって本当なんですか!?」

「うん、ホントだよー。んで、パルス君はその巫女様の彼氏さんだから一緒に仲良くなったのー」


 フィオネと同時にパルスが出るのは、誰も疑問に思わないらしい。

 パルスがエリアであるという事は、由理も黙っておくようだ。


「あー、そうそう、エリアちゃんて子とも仲良くなったかなー。あの子、歌すっごく上手いよねー」


 さりげなく、パルスとエリアを別人として扱う由理。

 パルスとフィオネが、由理に感謝の視線を向けている。


 しかし、歌姫と仲良くなるとは、事情を知らないものから見れば、役得以外の何者でもなかろう。

 

「由理ちゃん、それ役得だぜ? あの歌姫エリアちゃんと仲良くなれるなんてよ。なんかこう、淑女、って感じでいいよなー、誰かと違ってよ」

 

 そういってフィオネを見るパルス。

 どうすればいいか察知したのだろう、いつものようにはじめる。


「私の事、淑女じゃないっていうのかしら?」

「すぐに暴力を振るうやつのどこが淑って、また耳つね、いってえええ!」

「おお、やっぱり夫婦漫才見せてくれてるねー! いいぞー、浮気者には制裁だー!」


 由理が囃し立てる。

 本当に昨日からずっと、同じような事をやっている。

 よく飽きないものだな。


 こういうときは、教師が止めに入るはずだが、その様子もない。

 バッジオの顔をしばらく見ていると、俺の視線に気がついたようだ。


「ウチの嫁さんがね、働け、働いて稼げ、ってそればっかりでねぇ。あたしも休める時間は多い方がいいから、この2人は好きにさせてるの。いやー、しかし、若いっていいねー」


 それでいいのか。

 これで有能なのかもしれないが。


「あなたもそう思うでしょ? あ、まだ君も若かったかー。いやいや、失敬、雰囲気が大人びてたんでつい」


 バッジオがそんな事を言っている間に、話題は別なところに移っていた。

 パルスが軽く燃やされたところで、落ち着いたらしい。


「そういえばフィオネ、私達もお祭り見たけど、あんたが巫女だったなんて、全ッ然分らなかったわよ?」

「いやそれよりも、3ヶ月も休学したと思ったら、次は巫女って何!? 冗談でももっとマシなの考えてよ!」

「フィオネさん、すごいです。ここ、最低ランクのクラスなのに」

「フィオネ・グリネン、どのくらいお偉いさんに払ったですの!?」

「まさか、体で、とか、じゃない、わよ、ね」


 相当な言われようだ。

 それにしても、女性に肉体労働を報酬として要求するとは、この世界はやはり異世界らしい。


「ちょっと、私の事なんだと思ってるのよ、皆! いや、確かにちょっとは化粧してたけど、巫女はその、試練を乗り越えた末なんだから!」

「化粧って、ちょっとくらい、なの? 付き合い長かった私でも分からなかったんだけど」


 それらの言葉に反応したのはパルス。

 相変わらず、女性の言葉への食いつきは早い。

 さっきまで燃やされていたはずだが。


「驚くだろ、アイラちゃん。化粧での誤魔化しはそーとーだったからな。化粧中は、俺でも分からないくらいの美女だったぜ」


 化粧といえば、パルスもしている。

 コチラの場合は、性格やしぐさの部分まで覆い隠されているが。


「ちょっと、それってどういう意味よ!?」

「そのまんまの意味だろ。っつうか、気づかずにナンパするとこだった」


 その言葉に「もう一度燃やされたい?」と返すフィオネ。

 成る程、昨日からまったく変わらん。


「怖いなぁ。そそ、巫女が彼女って役得だよな。エリアちゃんにも声かけようとしたんだが――」

「へぇ、歌姫にも手を出そうとしたんだ」

「ガード固くてよ、警備員に追い出された」


 涙混じりに語るパルス。

 人気の歌姫を演じているくらいだ、この程度の演技は朝飯前だろう。

 それにしても役者だ。


「警備員さんも、悪い虫が分るみたいね」

「おい、仮にも俺、お前の彼氏だろ?」

「別の女口説こうとした話持ち出して何が彼氏よ」

「あ、ヤキモチだー、やっぱりラブラブ感漂うねー!」


 由理が今朝のように茶化す。

 ややこしく持っていくな。


「ラブラブとかじゃないわよ!」

「ラブラブとかじゃねーよ!」


 やはり合唱向きだ。

 息が合っている。

 シンクロナイズドスイミングでもいいかもしれん。


「おおう、やっぱりナイスユニゾン! フィオネちゃんあれだよ、浮気者には制裁を」

「待て、蒸し返すのか由理ちゃん! あ、フィオネ怖いから、昼食一緒にとってくんない?」

「よーし、手癖の悪い子にはお仕置き!」


 そういって、フィオネにパルスを制裁しろ、と騒ぎ立てる。

 フィオネが巫女としてどうこう、などはすでに忘れ、そのやり取りを見守る生徒達。

 気のせいか、視線が生暖かい。

 いくらか、敵意の視線が混じっているようにも感じる。


「いくわよ、パルス。障壁無しで、ね」

「おい、それこそナシだ、やるもんか」

「無し、って言ったわよ?」


 異様な迫力で要求するフィオネに、折れるパルス。


「心置きなくやれるわね」


 拳を振り上げるフィオネ。

 ただ、炎を纏わせてはいない。


「いいつけ守るようだから、炎は無しにして――」

「ゴッドハンド・クラッシャー!」

「あげる!」

「おごオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ごあああああああああああああ!」


 吹き飛ばされるパルス。

 由理は、「神の鉄槌、思い知ったか浮気もの」と騒いでいる。

 これがやりたかっただけか。


 再び騒がしくなったのは教室内である。

 その多くは、フィオネの拳の破壊力に対する恐怖の言葉だった。

 

 しかし、由理は賞賛の言葉をかける。


「邪悪な浮気者! その際限のない欲望を彼女の鉄槌が打ち砕いたのだー! すごいぞー、かっこいいぞー! フィオネちゃーん!」


 勇者の威厳も何も、あったものではない。

 しかしまあ、俺以外の誰にも分からないのに、よくもやり続けるものだ。

 もしかしたら、(由理の言う)布教でもする気かもしれん。


「まったく、君も巫女のようにおしとやかにしていたらどうだい? エリアさんのような可憐さが欠けているね、美しくない」


 誰だか知らないが、教室の入り口の方に男が立っていた。

 これ見よがしに髪をかきあげる。

 

「君は誰だ?」

「な、僕を知らないのか!? フン、似非勇者め。無礼にも程がある。まあいい、無知な君たちに特別に――」

「彼は誰だか知っているか?」


 長くなりそうなので、パルスとフィオネに向けて聞く。


「あー、そいつか」

「勇者役のユース君」


 それで俺達を似非勇者と言ったのか。


「な!? 本当に無礼だな!」

「うーん、確かに噂どおりのイケメンだねぃ、ハズ君」


 由理はユースの容姿をじっくりと観察し、口元に笑みを浮かべ、指差しながらながら言う。

 この笑みの時は、大抵ロクでもない事を考えている。


「ハズ君とは誰だい? 僕の名前はユース。ユース・ノヴァーズだ。美しい名前だろう?」

「だって、あだ名だもん。勇者になるはずだった人だからハズ君」


 即座にあだ名をつける由理。

 あんまりなあだ名である。

 しかも、生徒の一部がクスリ、と笑う。

 

「な、な、な……この僕を、そんな美しくない名前で呼ぶなんて!」

「えー、だってフィオネちゃん馬鹿にするんだもん。それに――」

「そ、それに?」


 気のせいか、顔が引きつっている。


「かませっぽいし。あ、なんかね、初登場の時から、かませ全開の気もする。マス君でもいい?」

「かませ犬、という意味か」

「そゆこと」


 実にあんまりの上、なんのひねりもない。

 だが、こんな短時間であだ名2つなど、この男、相当である。


「ま、ます、ます、ますますます……」

「顔はいいけど、うーん。残念なイケメンけってーい!」


 指を差しながら、トドメとばかりに宣言する由理。

 だが、イケメンの意味を生徒は知らない。

 すると、由理が「イケメンとはー、美形の事でーす! 豆知識。やったね、また1つ賢くなったよ!」と叫んだ。

 由理のイケメンの説明に、「残念な美形」という意味だと悟る一同。

 

 その言葉で、再び笑うものが出てきた。

 しかも、先ほどより数が多い。


 その反応に居心地の悪さを感じたのだろう。


「僕をかませなんて言った事、後で後悔させてあげるから!」といいつつ、駆けさってしまった。


 一体、何だったというのだ。

 

「ふう、典型的かませだったね、ハズ君」


 かませ犬なのはわかった。

 だが、結局のところ何のために来たのかは、分からずじまいである。

 物語かなにかであれば、顔見せというものになるのか。

 顔見せに当たるのがあれだとすれば、相当扱いはよくないはずである。

 可哀想な事だ。そのためだけに出てきたのか。


「結局、ユースは何しにきたのだ?」


 すると珍しく、パルスが答えた。


「あー、あてつけじゃねーか? ほら、お前へのよ」

「俺へのあてつけ?」

「勇者役やるはずだったのに、お前が出てきてパーだぜ、っていうよ」

「ただの逆恨みか。器が小さいな」


 なるほど、これではかませ犬になるわけだ。

 俺たちが勇者として呼ばれたことなど、不可抗力だったので仕方あるまい。


「中々、ズバっというね、空君」


 フィオネが苦笑いしながら言うと、由理が続く。


「空君は、うん、天然のドSさんだからねー」

「ドSって?」

「人をいぢめたがるってことー。天然さんは、知らないうちにいぢめてるってとこかな」


 俺がいつ人をいじめているというのだ。

 そんな加虐性あふれる人間ではない。

 誤解を生むようなことを。


「あー、確かに」

「分かる気がするぜ」


 なぜか納得するフィオネとパルス。どういうことだ。

 いや、納得したのは2人だけではない。クラスの全員が納得した空気である。

 失礼な反応だ。


「あー、空君に由理さん。そろそろ、授業始めてもいいですかな? 一応、私も言われた分は働かないといけないんでね」


 言葉とは裏腹に、もう少し騒いでくれていてもよかったのに、という雰囲気を醸し出すバッジオ。

 やる気は微塵も感じられない。

 

「さてまあ、今日もお給料の分くらいは働くとしましょうかなぁ」


 ゆっくりと肩を慣らし、腕を回し、それから欠伸をしたあと、ようやくこの中年教師は教室を見回す。

 生徒達は、見慣れた光景なのか、それを見ても騒ぎ立てたりはしない。

 なんとなくだが、能力がある男のようだ。


「ええとじゃあ、今日の授業は、うーん、リクリエーションといきましょうか。親睦会。まあ、新しいお友達が来たんです、必須でしょう」

「おお、先生わかってるねぇ!」


 由理が満面の笑みを浮かべる。

 この分かってるね、はお約束が分かってるね、の分かっているね、だ。

 初めて会ったときから2年は過ぎ、流石にその程度は分かるようになっている。


「へへへ! 公然と由理ちゃんにお近づきになれるチャーンス!」


 すっかり聴きなれた声がするな、と思ったら、パルスがいつの間にか復活していた。

 ただ、顔には痣がある。


「む、生きていたのか」

「勝手に人を埋めるんじゃねーよ!」

「あら、元気じゃない、パルス」


 再びパルスを威圧するフィオネ。即座に平伏するパルス。

 一体彼らは何が目的なのか。こうも同じようなことを繰り返されると、何か裏があるのではないか、と勘繰りたくなる。

 横目でそれをみたバッジオは、わざとらしく咳をする。


「えー、こほん。それでは、レクリエーションを始めるとしましょうかな」

「何をやるんですか、先生ー?」

「ふム。そこらへんはそう、生徒の裁量に任せるというやつですよ。自主性の尊重。重要でありましょう」


 もったいぶった言い方だが、要は考えていないのだろう。

 それだけいうとバッジオはあろうことか、右手をあげて一言、信じがたい事を言った。


「それじゃ、私は今日のところはここまで。いやあ、書類仕事ってキツくてね。あ、これから片づけてくるの」


 わざとらしく肩を鳴らしながら、俺たちのクラス担任は教室を後にする。

 隣で目を輝かせて、何ていい先生なんだろうね、と言ってくる由理を見ると、俺はこの先ここでの学校生活がどうなっていくのか、あまりにも見当がつかず、不安を覚えることになった。

実に久々の投稿とあいなりました。


かませってつらいですね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ