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第2話 魔法とはこういうものなのか

「こちらが、お2人の部屋になります」


 ラミアに通された部屋は、先ほどの控え室を凌ぐ広さと格調の高さを誇っていた。

 決して煌びやかではないが、上質の素材で作られたとわかる家具の数々や、丁寧なつくりの絨毯。

 生きているうちに、こんな部屋に寝泊りする事になろうとは思っていなかった。


 どうも、国賓というのは冗談ではないようだ。


 由理はといえば、すでにはしゃぎまわってあちこちを見て回っている。


「あ、あはは。元気だね、由理ちゃん」

「む、来ていたか。パルスは?」

「寝てるわ」

「成る程」


 さて、由理を落ち着かせなければなるまい。

 それでなければ、話にならないし、魔法学校にも入れないだろう。


「由理! 戻って来い!」

「えー、だってこっちのタンスも、うわ、すっごーい!」

「魔法の説明とやらを受ける気はないのか!」

「あ、そういえば魔法の説明してくれるっていったね! うんうん、それ聞かないと!」


 いなくなるのと同じくらいの速さで戻ってくる。

 こういう場合の扱いは簡単なのだが。

 それを見ていたラミアとフィオネは半分呆れ顔である。


「ほ、本当に自由だね、由理ちゃん」

「ええ、少し、羨ましいくらいですわ」

「悪いが、話を始めてもらっても構わないか? でないと、またどこかにいってしまいそうだからな」


 隣で立っている由理は、目を輝かせて、説明を待っている。

 だが、いつまでもじっとしてはいられないだろう。

 これは確実にいえる。


「分りました。では、お2人とも、椅子におかけください」

「うん、分ったよ!」

 

 椅子に座るや否や、早く早く、と机をたたき始める由理。


「大人しくしろ。話が頭に入らなくなるぞ」

「むーっ」

「では、始めますよ。よろしいですか?」


 ラミアのその言葉に、由理は待ってましたー、と拍手する。

 いくらか慣れてきたラミアは、それを軽く受け、語り始める。


「基礎として、3つの属性がありますわ。理術・化術・生術」

「それで、属性をつかさどる神として、理術の神フィスコ、化術の神ケイミスト、生術の神ヴィオラがいるんだー。それでね、その上に、幻術の神ファーナシアがいるわね」

「ほほう。3神のボスってわけね。そのフィナ? フィオレンティーナ、じゃなくてファンタジー。あれ?」


 自分で茶々を入れ始めた上、名前を正確に言えず、流れを断ち切る由理。

 正直、馬鹿だな、と思ってしまった。

 しかも、フィオレンティーナはまったく関係ない。


「ファーナシア、ですよ。簡単に言うと、3つの属性のそれぞれ関係のある神と、ファーナシアの力を借りて、魔法としての力を発現させているんですわ」

「しかし、ファーナシアそのものが司る魔法というものはないのか?」

「ファーナシアは上位種にあたり、幻術を司っているのですが、それを扱う事が出来るのは、伝説では勇者のみ、と伝えられています」

「ほほーう。じゃ、私達はきっと幻術使えるね。勇者だし!」

「俺たちは凡人だ。そんなんじゃない」

「夢がないぞー、空君。魔法を使っている自分を、イメージしろ!」


 そんなこと、今に始まった事ではないし、俺からすれば、由理は妄想が過ぎる。

 この辺りは、感性の違いだろうが。


「具体的には、属性別に何が出来る?」

「空君も使う気満々じゃないかー」

「つかえるとは思えないが、知っておく事に損はあるまい」

「では、分けて説明していきますわ。まず、私が得意とする生術ですが、これは、生命に関わる系統の魔法ですわ」

「それって、ベホマとかベホマズンとかキアリーとかザオラルとかザラキーマとかケアルとかそんな感じ!?」


 身を乗り出して一気にまくし立てる由理。

 それではまったく通じまい。世界が違う。

 案の定、フィオネもラミアも顔に疑問符を浮かべている。


「済まんな、訳の分からんやつで。由理が聞いたのは、傷を治したり、或いは命を奪ったりできる感じなのか、ということだ」


 合点がいく2人。

 由理は俺の顔を見ながら、おお凄い、などと感心している。

 自分で説明しろ。


「そういうことになりますわ」

「じゃじゃ、実際にやって見せてよ!」

「しかし、死に追いやる魔法などはつかえませんし、けが人もいませんわ」


 その言葉に、俺は1人思い当たる。ちょうどいい実験台が。


「いる。パルスだ。確か今も廊下で倒れているはずだ。あれでも大丈夫か?」

「あー、ノックアウトされてる状態でも大丈夫か、ってこと?」

「そうなるな」

「そうですね、やはり、実際にやって見せた方がいいでしょう」


 フィオネとラミアの許可も得たので、パルスをひきずってくる。

 口からは見事に泡を吹いており、正直、フィオネの攻撃は中々の攻撃だったな、との感想を抱く。

 いい武闘家になれるかもしれん。


 で、ラミアはというと、俺たちの目の前で、ノックアウトされているパルスに手をかざす。


「ここの魔法は杖とか必要ないんだー」

「杖、ですか?」

「うん、魔法に杖必須だったりするお話もあるんだよー」

「では、いきますよ。グリオ・デル・ヴィ・ケム・ヴィオ!」


 所謂呪文なのだろう。その言葉が終わるのと同時に、暖かさを感じる光がパルスを包む。

 すると、それまで泡を吹いていたパルスが、むくっ、と起き上がる。

 どうやら、まだ意識がおぼつかないらしい。

 それでも、魔法を信じるには十分な光景である。


「あ、あらー、ふわふわいい感じー。って、ラミアじゃねえか。俺の事気遣って癒してくれたの!? やっぱ優しいぜー」


 そういいながらラミアに抱きつこうとしたパルスだが、いつのまにかラミアの前にフィオネが立っていた。

 阿修羅の形相である。

 その威圧感に、冷汗をたらし始めるパルス。


「あ、あー。フィオネ、フィオネちゃん? 痛いの勘弁ね? マジ。マジで俺が愛してるの君だけだから」

「ふーん。言う事はそれだけね。魔法の説明のためと折角起こしてやったら、先にラミアに飛び込もうってワケ。もっぺん寝たい?」


 そういいながら、骨を鳴らすフィオネを見て、顔から生気が飛んでいくパルス。

 どう流れてもいいが、魔法を見せてもらわない分には話にならない。


「フィオネ、落ち着け。魔法の実演をしてもらおうと、わざわざ起こしてもらったのだ。俺は言えるほど親しくなってはいないが――ここは見逃してやって欲しい」

「えー、空君。パルス君が殴られたら、またラミアちゃんに起こしてもらえばいいじゃない。結構なエンターテイメントだし」


 さらりと恐ろしい事を口にする由理。

 ここは格闘場ではない。


「え、由理ちゃん? 嘘だよね!? 君まで俺を見捨てるの!?」

「キャー、私を無理やり連れてこうとした変態さんが、また声かけてくるー。空君助けてー!」


 事態をややこしくしようとする由理。

 なぜこの兄妹は揃いも揃ってこうなのか。

 もっとも、兄に較べれば、まだ優しいものであるが。

 止めないわけには行くまい。


「由理、無駄にけしかけるな。やつがいかなゴキブリ並な生命力を備えていたとしても、痛いものは痛い」

「ぶーっ。ファンタジー世界はエンターティィィィンメントでなければならない、だよ」

「それは王様にでも言っておけ。ともかく、ここはフィオネには落ち着いてもらう」


 そしてフィオネに向き直り、改めて頭を下げながら見逃すよう求める。

 

「さ、流石にそこまでされると、うん。パルス、あんた、空君達に感謝する。いいわね」

「由理ちゃんありがとう! やっぱり君は俺の女神だ!」

「やだー、変態さんに言われても嬉しくなーい。空君に言ってー」

「お、俺はこんな無愛想な男なんかに感謝する事はな……」


 フィオネがパルスを睨む。恐らく、俺に礼を言わせようとしているのだろう。

 そこまで俺に感謝させようとしなくてもいいようなものだが。


「主に誰のおかげで、命が助かったと思っているのかしら? それと、一応、勇者様なんだけど?」

「俺は別に礼など言ってもらわなくても構わん。それより、魔法を見せてくれ。後はフィオネが好きにしていい」

「ちょ!? 最後に爆弾置いてくなよ!」


 絶望的な表情を浮かべ、俺達に助けを求めるパルス。

 この痴話喧嘩は、恐らく永久に繰り返されるだろう。

 そんなものを毎回止められるような俺ではないし、本人達も分っててやっている節があるようだ。

 ならば、用だけ済めば後は勝手にやってもらえばいい。


「そういわれても、やっぱりちょっとお仕置きしたいかな」

「や、やめ」


 パルスの制止を聞き入れず、先ほどの連撃を叩き込みに行くフィオネ。

 由理にとってはエンターテイメントのようである。

 そこ、とかよし、とか体を振り回して叫んでいる。

 いや、明らかにおかしい。


 一撃ごとに衝撃波のようなものが出てきている。

 あれでは間違いなく死ぬのではなかろうか。


「う、ぐを、げあ、おぶぉう!?」

「よし、そこそこ! ワンツーフィニッシュウウウウウウウウウ!」


 なぜこの光景を由理は楽しげに見ているのか。

 よく見ると、パルスに傷ひとつついていない。

 成る程。


「これも魔法、というわけか」

「そうなるわ。忌々しいけど、衝撃全部クッションして、派手なエフェクトで誤魔化してるの」


 フィオネが苛立たしげに説明する。

 すると、それまで悲鳴を上げていたパルスが立ち上がり、ニヤニヤしながら自慢げに話し始めた。


「へっへっへ。やっぱ気づいてたか。これが俺の得意な理術! 物理的なものに関する能力なのさ!」

「成る程、それで衝撃を殺したわけか」

「ま、その通りだな。参ったか!」


 胸を張るパルス。

 いくら殴られても、痛くはないというわけか。

 部屋に入る前にフィオネにやられたのを見たので、準備が間に合えば、だろうが。


「おおう、凄いねー! なら、私も試してみるぞー!」


 言うが早いか、パルスの懐に飛び込み、ラッシュを始める由理。

 兄に稽古をつけられたのか、流れるようなモーションである。

 これは、そこらの不良など、その気になれば簡単に沈黙させられるだろう。

 

「はっはっは、いくらきても問題ないぜー!」

「おお! これは人間サンドバック! ストレス解消にもってこいだね!」


 人間サンドバックとは何か。

 危ない代物でしかない。

 生身の人間を殴り続けてストレス解消とはこれいかに。

 いや、パルスもなんだか嬉しそうだが。


「ジャブ、ジャブ、トドメは黄金の、右ストレートォ!」

「いっくらでもこいだぜー!」


 これはいささか気色悪い。


「うえっぶ!」


 ためしに足を蹴飛ばしてみる。

 転んだ。無意識の内という事にしておこう。


「ってえ、何すんだよ!」

「済まん」


 しかし不思議な事だ。衝撃を消す魔法でも使っていたのではなかったか。

 不意打ちには弱いだけかもしれないが。

 だが、フィオネやラミアも不思議に思っているようで、首をかしげている。

 やはり、珍しい事らしい。


「空君なんかすごーい! ダメージ与えた!」

「っち、なんだってんだよ」


 不快気な表情を浮かべるパルス。

 殴られて嬉しそうな顔を浮かべている方がなんだといいたい。

 そのパルスを見ながら、「後でお仕置き、覚えといてね」と告げ、俺たちには自分の魔法を見せてくれるという。


「と、その前に。私の得意な化術は、水とか火とか、そういうのを操る系統だわ」

「由理。メラゾーマとかマヒャドみたいなもの、というのは無しだ」

「ちょっと、宣告打たないでよー!」

「コストがないから違うぞ」

「え!? それいくらなんでもチートすぎ!」


 俺たちのやり取りにもなれたようで、フィオネは実演して見せてくれる。

 これは、野宿などでは便利そうな魔法である。

 家庭菜園などの手助けにもなろう。水や火とは、色々と便利なものである。


「こんな感じね。どう?」

「調理の手助けにはもってこいだな」

「空君って、料理するの?」

「するよー、しかも上手だよー」


 意外な顔をされる。

 俺が料理をするというのは、そんな意外な事か。

 しかし、由理が妙なところにかみつく。


「なんかちょっと地味ー」

「あんま派手なのはね、部屋の中だし」

「それでもなんかもっと、エンターテイメントな魔法あるよね? ばばーっとした!」

「無茶を言うな。部屋の中だと」

「そうだ、お仕置きって言ってたよね。それで!」


 おお、その手があったか、と手を打つフィオネ。

 なにやら名案のようだ。

 この際だ、それも実演してもらおう。


「さて、お仕置きの時間だわ。パルス君?」


 そう言うと、フィオネの手に、水が集められ、更に冷やされて氷となる。

 鈍器のような形のそれは、まさしくハンマーだった。

 といっても、見た目はピコピコハンマーに近いが。


「アイスハンマアアアアア!」


 名前も見たままのようだ。

 由理は感動している。戦闘用魔法を見られたからだろうか。

 氷の槌をパルスに振り下ろすフィオネ。

 手は冷たくならないのだろうか。気になる。


 頭にぶつけられるが、何のこともないように笑うパルス。


「何度来ようと、このパルス様にそんな衝撃はムダムダ! ってげぇっ!」

「関羽!」

「なんだそれ、じゃねえええええええ! それは流石にアウトだ、死ぬ死ぬ!」


 見ると、フィオネはその腕に炎を纏わせ、その瞳でパルスを見据えていた。

 間違いなくやる気だ。見れば分るが。


「こっちの方がよさそうだから、ねっ!」

「ウボアー」


 断末魔と共に、燃やされるパルス。

 合掌。

 ともかく役目は果たしてくれたのだ、感謝する。

 届かないだろうが。


「それと、まだ巫女について説明してなかったわね」


 手をはたきながら、フィオネが言う。

 ラミアも気にしていない様子なので、ほうっておいても問題なかろう。


「年に1度の召喚の儀式を執り行う、それが巫女ですわ」

「化神の巫女だけ毎年変わるんだけどね、それに選ばれたのが今年は私達だったのよ」

「他の2人は以前もやっていたのか」

「ラミアとパルスは、その道の本家筋だからね。ここのところずっと。で、私達のとこだけ、本家筋がいなかったわけ」

「それで、毎年変えていたのか」


 ようするに、それが祭りの配役なのだろう。

 そうであれば、本来は勇者役もいたことになる。

 今回俺たちが召喚されたのは、アクシデントなのだ。


「ならば、勇者役もいたのか?」

「役、って、随分と身も蓋もない言い方だね……。その通りなんだけど。うん、いたよ」


 フィオネが俺の問いを肯定すると、それまでパルスを突っついていた由理がこちらに顔を向けた。


「その勇者役って、イケメンなの?」

「えっと、どういう意味、かな」

「美形なのか、ということだ」

「あー、まあ、入るかな」


 おおかた、打ち合わせ段階で顔を突き合わせていたのだろう。

 それにしても、微妙な反応である。


「おりょ、なんか奥歯に物がはさまった言い方だね、フィオネちゃん」

「勇者役の人が、ユース君って言うんだけど、"エリア"に惚れてるのよ」


 確か、エリアとは女装している時のパルスの名前だったはずである。

 そういえば、女装中は歌姫として扱われているようだ。

 由理が歌姫といっていたから間違いない。

 恐らく、絶大な人気を誇っているのだろう。


 パルスがエリアだというのは、恐らくは秘匿されているはずである。


「厄介な話だな。つまり、今年の巫女は、表向きはラミアとフィオネ、そして"エリア"というわけか」

「そういう事ですわ」

「国のお姫様に絶大な人気の歌姫。大衆からすれば魅力的な人選だからね。毎年熱狂的になるけど、特に今年は、本家筋が3人揃ったから、余計熱狂的だったわね」


 恐らく、儀式中を思い出していたのだろう。

 遠い目をしながら、フィオネが語る。

 王女に歌姫とあれば、人前で何かをするのにはなれていようが、フィオネは恐らくそのような事は体験した事がなかったのだろう。

 尋常ではないプレッシャーだったはずだ。


「そいえば、フィオネちゃんは何で今年の巫女さんに選ばれたの? なんか、フィオネちゃんも理由ありそな感じ」

「私はね、途絶えたはずのケイミストの本家筋だから選ばれた、ってところかな」

「ほほう。でも、それだけじゃなさそな感じですなー」


 由理がフィオネの様子を見ながら言う。

 確かに、それだけではなさそうだ。

 ただ、であったばかりの人の事情に踏み込む、という事はしない。

 その点については、由理も同じである。


「中々鋭いね、由理ちゃん。確かに、最近色々あった末に、かな」

「ふーん。それ以上は、話したくなった時によろしく!」

「空君はともかく、由理ちゃんはこういうこと根掘り葉掘り聞きそうだと思ったんだけど」

「意外な顔してるー。私だってそんなに空気の読めない子じゃありません!」


 頬を膨らませる由理。

 しかし、ここまで散々自由に暴れまわっておいて、そんな事をよく言えるものだ。


「別に話しても構わないんだけど、長くなるんだよねー」


 フィオネが頬杖をつきながらそういうと、いきなりラミアが割って入ってきた。


「止めておいた方がいいかと。砂糖あたりを吐いてしまうかもしれませんわ」

「ほほう、激甘ベタベタコッテコテラブストーリーなわけですか、気になりますですー」

「ちょっとラミア!? なんか毒漏れてるし、由理ちゃんも言い方直球すぎ!」

「あら、私としたことが。これはいけません」


 慌てたように口に手を当てるラミア。

 少々わざとらしい。これはどうやら、思ったより食えない部分がありそうだ。

 フィオネはというと、由理の言葉に顔を赤くしてうつむいている。

 あれは恐らく、恥ずかしいのだろう。理由は不明だが。

 そのフィオネの様子を見て、由理が面白がる。


「あっれー、フィオネちゃん耳まで真っ赤ッかだよー? よっぽどのベタベタコッテコテラブストーリーだったのかな?」

「そ、そういう由理ちゃん達はどうなの!?」


 恐らく、フィオネの精一杯の反撃だろう。

 だが、俺の記憶では、俺たちにはとりたてて人に話すような事などなかったはずである。


「私達も、中々のベタベタコッテコテっぷりだよーう?」


 フィオネを見下ろしながらそういってのける由理。

 ハッタリもいいところである。

 俺たちなど、高校で出会い、それから惹かれあい、交際を始めたに過ぎない。

 僅か1行で纏まる。血沸き肉踊るような冒険譚など、どこにもないのである。

 当然だ、平凡な高校生の恋人同士というのに、そんなものあるはずがない。

 俺たちのことなどより、由理の兄の話しでもしたほうが、よほどネタになろう。


「ねね、空君、といっても、空君だと面白い事いってくれないしなー」


 由理が顎に手を当てて考える。


「話の捏造は無しだ」

「別に空君が実は傭兵だったとか、宇宙人だったとか、素性を隠したトップアイドルだったとか、そんな嘘は言う気ないから安心してよ」

「それ、どれも私が信用できないと思う」

「あら、私は傭兵あたりは、ありえそうかも、と思いましたけれど」

「ほほう、ラミアちゃん、中々センスあるかもね!」


 由理が茶化す。

 よくもまあ、ロクでもないことばかり言い出せるな、と感心する。


「だって、こんな無愛想なんですもの。裏で人の1人や2人、表情変えずに始末していたところで、違和感ありませんわ」


 笑顔でのたまうラミア。

 王宮暮らしが続くと、こうなるのだろうか。


「ありゃりゃりゃ、ラミアちゃん、私の空君にそれはいくらなんでもひっどいよう」

「確かに無愛想だけど、それは言い過ぎだと思うわね、ラミア」

「あら、ごめんあそばせ」


 ラミアはまたも口に手を当てる。

 こういう場合の癖なのだろう。


 しかしこれは、本題からずれているのではなかろうか。

 俺たちの過去など、今の話題にする必要はない気がする。


「どちらにせよ、由理が話すと長くなるだろう。それよりも、魔法学校についての説明を受けたいのだが」


 俺の言葉に、フィオネは救われたような、由理は気分を害したような顔を浮かべる。

 これは、後が面倒そうだ。


「魔法学校は、すごいザックリ言うと、魔法を学ぶ学校ね」

「そんなの私でもわかるよー」

 

 由理が口を尖らせる。まだ不満そうだ。


「それでね、授業はとりたい人が自由にとるシステムなの」

「おお! それじゃサボりほーだいですな!」

「そんなことでは卒業も出来まい」

「ぶー」

「卒業には、授業のほかに指定の依頼を受ける、って方法もあるわ」


 魔法学校には、年中依頼が舞い込んで来るらしい。

 学校側は生徒の能力を見極められ、依頼主も安上がりというわけで、困ったことがあると、学校に依頼するのがこちらでは一般的なようだ。

 しかし、学校というのを除けば、どこかで聞いたような話だ。案の定、由理が反応する。


「クエストこなしてレベルアップー! とかそんなのなの?」

「結構、近いとこいってるわね。依頼こなしてくと、上の方のクラスにいけるんだ」

「ほへー。期待の巫女さんになんて選ばれるくらいだから、フィオネちゃん達、上のクラスなんでしょ?」

「それが、違うのよね。私とパルスは、色々あって3ヶ月休学で、一切依頼とかうけてなかったからねー」


 成る程、先ほどの激甘ベタベタコッテコテラブストーリー(由理命名)のせい、というわけか。

 それを悔やんではいないようだが。


「年齢は制限されてないから、クラス別で区切られてるのが特徴ね」

「ほう。場合によってははるかに年上の人間もいるわけか」

「うわー、若い子に混じってオジサン1人とか、ヤラシー感じー」

「お前の考え方がな」

「ひっどーい」


 由理は機嫌が戻ったようだ。

 魔法などという話題でよかった。

 この世界ならば、当面由理の機嫌を直すのは楽になりそうだ。


「魔法学校は、大体こんなところだね」

「では、お2人の入学を認めるよう、今から手続きをこちらでさせるよう指示しますわ」

「おお、ラミアちゃんお姫様、って感じー」

「助かる」


 では、後はお二人でごゆるりと、と言い残してラミアが部屋を出る。

 ちなみに、フィオネは部屋に残ったままである。忘れていたがパルスも。


「そういえば、そろそろ夕食時か?」


 窓から空を見る。

 どんな世界でも、空が変わることはないようだ。

 月が2つ浮かんだり、ということにもなっていない。


「あ、もうそんな時間だね」

「んじゃーさー、フィオネちゃんも一緒に食べようよ。もっと話したい事あるしー」

「そだね。私も由理ちゃん達の事知りたいし。いいよー」


 会ってまだそんなに経っていないが、この2人は馬が合うようだ。

 口調以外にもシンパシーを感じるところがあるのかもしれない。

 パルスはどうするか。その内、起きはするだろうが。

 空に浮かぶ月を眺めながら、俺は起こさない事に決めた。


しばらくは、ストックがあるので更新スムーズにいきそうです。

なくなってからが恐ろしいですけれど。

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