3、帝国軍の進撃
大陸暦三三九年。十二月に入ると、大公国の冬は本領を発揮し始めた。気温は急激に低下し、デュモルチ街道の帝国兵は、極度の寒さに苦しめられた。
大公国軍の兵士たちは、白い軽装の鎧を着用し、森林の中を自在に移動した。彼らは寒さへの耐性も高く、故郷の森の隅々まで熟知していた。
対照的に、帝国の騎士たちは色とりどりのサーコートをまとっており、歩兵も様々な色の重いコートを着ていた。森林の背景では彼らは格好の標的となった。雪に足を取られ、街道から一歩も離れることができなかった。
この極寒の環境は、帝国軍の兵站に打撃を与えた。食糧は到着せず、燃料は不足した。
大公国軍の指揮官たち、特にミオプロスス地域を担当したエピフィラム騎士団の団長代理のシルビアは、この帝国軍の傲慢な進撃を好機と見た。彼女は、敵が一本の街道に依存し、大公国の戦力を侮っていることに注目した。
フリズナ公爵の処刑と、その後帝国軍を襲った粛清の嵐は、帝国軍から優秀な部隊指揮官を根こそぎ奪っていた。帝国軍の非常識な長いパレードは、森を縄張りとする大公国の小部隊にとって、分断するに理想的な標的であった。
帝国からの亡命者であったシルビアは、帝国時代の教官だったフリズナ公爵の講義を思い出し、年の離れた先輩でもある、大公国軍総司令官フリーデリケ公女と協議を重ねた。
「……ミケーレ教官は言っていたわ。「兵士の胃袋が空になった瞬間、軍旗はただの汚れた布切れになる」と。私たちは彼らに、布切れを噛ませて年を越させるのね」
フリーデリケは前線で増強騎士団を指揮しているシルビアに語りかける。彼女は同窓の後輩としてシルビアに特別な親近感を抱いていた。その親近感にはシルビアの夫の存在もあった。
シルビアの夫は、大公国軍の兵站総監であるイノセラムス男爵コンラートだった。彼はフリーデリケを補佐し、大公国の物資の流れを組織化して、それを間断なく前線に送り届けていた。男爵はのちに「フリーデリケが戦争を指揮し、戦争を組織する」と言われることになる。
「皮肉なものです。帝国の天才が熱を込めて教えていた補給線を、今、私たちがそれを断つ側になるとは」
シルビアが大公国総司令官に答える。総司令官は、窓の外のとけかかった雪に目を移す。
「シルビア、これは私たちがミケーレ教官に提出するレポートよ。せいぜい彼を満足させなくちゃ。作戦を開始して。帝国軍のパレードを、真っ白な墓標に変えなさい」
シルビアは前線に帰還後、義弟に語った。
「総司令官は、フリズナ公爵の教えを単なる知識ではなく、血肉に変えて私に授けてくださった。私たちは帝国軍にパンも薪も届かないようにする」
彼女たちは少数の騎士から成る精鋭部隊を投入し、帝国の長い列を分断し、後退も前進もできないようにする戦術を準備していた。
フリズナ公爵の予言を知る将帥はもう、帝国にはほとんどいなかった。




