1、デュモルチ街道のパレード
凍りついた針葉樹の枝が雪の重みに耐えかね、乾いた音を立てて折れる。デュモルチ街道は、焚火の燃えかすと、馬の鼻息が白く凍りつく匂いに支配されていた。
帝国アストラガルス騎士団の重厚な鎧が、白い雪の上に黒い影を落とす。彼らは大公国を南北に分断すべく、パキケトゥス子爵の指揮下で西進を続けていた。
「大公国軍など、冬の森で凍え上がるネズミに過ぎん」
帝国指揮官たちの慢心は、一本の細い街道に、騎士、歩兵、補給の馬車をパレードのように長く引き延ばさせていた。色とりどりの旌旗が風に棚引き、重装騎士たちのサーコートが陽光にきらめく。行進のリズムを取るために軍楽隊が演奏する太鼓とラッパの音が、静まり返った雪の森に異様に高く響き渡っていた。
それは軍事行動というより、勝利を確信した貴族の巡行であった。しかし、その華やかな行列のたてる騒音は、深い雪に閉ざされた森に潜む大公国の指揮官たちにとっては、どこを切り取っても容易に死に至る絶好の獲物の鳴き声にしか聞こえなかった。
接収した農家の一室は、エピフィラム騎士団長代理、シルビアの執務室へと改装されていた。パチパチと爆ぜる暖炉の傍らで、シルビアは温かいお茶の湯気の向こうに地図を広げた。
「帝国軍は、喉を晒したまま行進しているわ」
その磁器のような指先は、帝国の進軍列が一本の細い糸になっている箇所を冷たくなぞる。シルビアの脳裏には、かつて帝国の軍事アカデミーで受けた、あの天才フリズナ公爵ミケーレの講義が鮮やかに蘇っていた。
「良いか、軍隊とは巨大な消化器官だ。道が細ければ、その喉は容易に詰まり、窒息する」
フリズナ公爵の処刑後、彼の理論は帝国内で異端視され、彼の業績は封印された。彼の薫陶を受けた者たちも多くが粛清され、帝国軍は何十年も前の、勝利の形に固執する姿に戻った。貴族的な見栄と、軍楽隊の騒音だけが雪原に響く。公爵が嫌悪した死に至るパレードを、彼が愛した帝国軍が、今は自ら望んで演じていた。
かつて帝国の至宝と呼ばれたその知恵は、今、皮肉にも帝国を壊滅させるための刃となって、亡命者であるシルビアと、彼女が心から敬愛する総司令官フリーデリケの手にあった。




