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父が繋ぐ娘のみらい

作者: クロコ

またあの夢。


それは幼い頃から、何度も繰り返し見てきた夢。


白い世界の中、クローバーが一面に広がる場所。

そこで私は、いつも泣いている。


すると、メガネをかけた人が現れて、優しく声をかけてくれる。


「泣かなくていいよ。メイちゃんは僕が守るから。

命に代えても、君の未来は僕が繋いでいくからね」


夢の中で、私はその人に問いかける。


あなたは誰?

私はあなたを知っているの?

ねぇ、誰なの?


私は交通事故に遭い、現在、意識不明の重体。


意識のない間、幼少期から何度も見てきたあの夢をみていた。


ただ、いつもはふんわりした世界なのに

意識不明の今、いつもより鮮明に見えたそんな気がした。


目が覚めると、病院のベッドの上だった。


「小笠原メイさん、目を覚ましました」


看護師さんが院内端末で医師に連絡をしている。

先生や看護師さんたちは、ほっとしたように微笑んだ。


お母さんも、泣きながら笑顔を見せてくれていた。


「よかった。本当によかった」


その顔を見た私は、また眠りについてしまった。


私は小笠原メイ、24歳。

お母さんと二人で暮らしている。


どうして事故に遭ったのか。

それは――。


――事故当日――


私はこの24年間、ずっと気になっていたことがあった。

それは、父がいないこと。


今の時代、シングルマザーなんて珍しくない。

それに抵抗があるわけでもない。


でも、お母さんは父のことを一切話してくれなかった。

写真も、何も残っていない。


普通なら「ろくでもない人だった」とか、

何かしらの説明があってもおかしくないはずなのに。


それが、まったくなかった。


だから、あの日の朝。

私は意を決して、父のことを聞いた。


すると、お母さんは静かに言った。


「あなたが知らなくてもいいの。ただ一つ言えることは、優しい人だったよ」


その言葉が、なぜか胸に刺さって。

私は家を飛び出した。


交差点で信号が変わるのを待っていた、その時。

バイクが歩行者側に突っ込んできて――。


私は事故に遭った。


入院してから、ずっとあの夢を見ている気がする。


クローバー畑。

泣いている、幼い私。


そこへ、顔ははっきり見えないけれど、

メガネをかけた優しそうな若い男性が来て、私の頭をなでる。


「メイちゃん、泣かないで。

大丈夫。僕がそばにいる。君を守っているから」


いつもは、それで終わる。


でも、今回は少し違った。


「お母さんを、加奈を責めないであげてほしいな。

仲良くしている姿を見ている方が、僕は好きだよ?」


事故から数日が経ち、

軽い果物なら食べられるほどに回復した頃。


私は、お母さんに夢のことを打ち明けることにした。

そうすれば、何かがわかる気がしたから。


「起きた? メイ。まだしんどいと思うけど、果物食べてみない?」


お母さんは、そう言いながら果物を切っていた。


「ありがとう、お母さん。

事故の日の朝はごめんなさい。心配かけて、ごめんね」


「親は子供の心配をするのが仕事みたいなものだから、大丈夫よ。

あの朝のことも、気にしてないわ」


少しだけ、寂しそうな横顔。


「ねえ……聞きたいことがあるんだけど」


私は返事を待たずに話し始めた。


昔から見る夢のこと。

熱を出した時、心が弱っている時。

そして、今回意識を失っていた時も、同じ夢を見たこと。


話し終えた瞬間。

お母さんの手から、果物ナイフが床に落ちた。


そして、静かに涙を流しながら言った。


「今でも、私より奏汰さんはメイが一番なんだね。

いつも見守ってくれていたんだね……ありがとう、奏汰さん」


奏汰。

それは、初めて聞く父の名前だった。


「そう。奏汰。メイのパパの名前だよ」


そして、お母さんは続けた。


小さい頃、私の心臓が弱く、移植が必要だったこと。

その心臓が、今も私の胸で動いていること。


それが、父の心臓だということ。


その時、

夢の中で言われ続けてきた

「いつもそばにいる」という言葉の意味が、

少しだけわかった気がした。


「パパがね、最後にこう言ったの」


――メイちゃんの未来の足かせになりたくない。

自由に生きてほしい。だから、僕のことは言わなくていい――


涙をこぼしながら話すお母さんに、

私はわかっていたはずの質問をしてしまった。


「じゃあ……メガネをかけた男性が、お父さんなの?」


「そうよ。

ヤキモチを焼きたくなるくらい、娘思いのあなたのパパよ」


少し笑って、こう続けた。


「私にも一度くらい、会いに来てほしいものだわ。

退院したら、一緒にお父さんの写真を見ましょう」

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