5.女神の裁きに心酔する公爵令嬢のひとりごと
公爵令嬢アデリン視点。ちょっと短めです。
見事でございました! さすがは我らが女神様。
作戦決行の日、現地へと向かった私たち秘密結社は、無事にシルフィと合流。予定通り、アリア様を敵のテーブルに送り込むことに成功いたしました。
そのあとは、やる気満々のシルフィが、「アリア様に丸投げせず、自らも工作員に加わりたい」との本人の言葉通り、扇動し、煽り、爆撃を仕掛け、実行部隊としての働きを見せつけました。余程怒りが溜まっていたようですわね。
もちろん、シルフィの婚約者がジョシュア・スクレランサス公爵令息(以下『ターゲット』と呼ぶ。名前を口にするのも不快なので)であることは巧妙に伏せ、アリア様に悟られることなく作戦を展開。純粋なアリア様は、目にした状況から、幼馴染女とジョシュア様が恋人同士であると信じ、誤解をどんどんエスカレートさせて、二人が結婚を控えていると思い込みました。
そこからアリア様の無自覚攻撃が、ターゲットの生命値を確実に削っていくことになるのですわ。シルフィも、アリア様の攻撃の精度が上がるよう、さりげなく、しかし的確に、ターゲットに照準を合わせるべく誘導。実にグッジョブ。見事なコンビネーションを見せていただきました。
意外だったのは、ただのお花畑女だと思っていた例の幼馴染ミリィが、途中で覚醒したことです。アリア様とシルフィのやり取りから、ターゲットによる情報操作がなされていた事実に気づいただけでなく、自身の無知と考えの甘さを思い知ったのがうかがえました。
今まで自分がターゲットをたらし込んでいるつもりだったのが、実はターゲットに愛妾という扱いで囲われようとしていたと知ったあとの幼馴染の手のひら返しは、呆れを突破して賞賛でございましたわね。見切りをつけた女は非情ですのよ。ほほほ。
敵の敵は味方ということでしょうか、それとも、現実を知ったあとの幼馴染の潔さを認めたからでしょうか、シルフィとミリィとの間に友情の芽生えさえ感じられ、感動ドラマを見ているような気持ちにさせられました。これこそ女神様がいらしたからこその奇跡と言えましょう。
案の定、後にミリィから詳細を聴取いたしましたら、ターゲットは彼女に愛をささやき、「君が一番だ」とか「必ず一緒になろう」とか、口先だけの甘い言葉を繰り返し、さらに、婚約者シルフィのことを「色気がない」「婚約は向こうから頼み込まれて仕方なく」「本当は結婚したくない」などと言っていたそうです。ゲスです。「浮気する男は、大体において浮気相手にわざと本妻の悪口を言う」と、以前、専門書で読んだことがございますが、本当でしたのね。死ねばいいのに。
一方で、シルフィには「ミリィは家族だから心の狭いことを言うな」と、無理やり受け入れさせる発言を頻繁にしていて、婚姻前からシルフィとミリィの両方を手に入れようと目論んでいたというクズっぷり。ほんと死ねばいいのに。
お父上のスクレランサス公爵は、厳格で曲がったことが嫌いな方として知られていますのに、どうしてターゲットのようなクズができ上がってしまったのでしょうか。スクレランサス公爵家七不思議ですわ。他の6つは知らんけど。
しっかし、成功する確率は低く、リスクは高いというのに、不貞を行うクズ男の思考とは、なぜこうも浅はかなのでしょう。
簡単にバレる→多方面に迷惑をかける→信用を失う→地位を失う→最悪破滅する、というわかり切った未来が見えないばかりか、なぜ「バレない」と楽観できるのか、甚だ理解に苦しみます。
アリア様は、そこのところをとても丁寧に、わかりやすく「あなたはもう詰んでますよ〜」と、ターゲットに明示したわけです。それはもう、本当に胸のすく思いでしたわ! ターゲットは再起不能の致命傷を負い、顔面蒼白、冷や汗ダラダラで去って行きました。おーっほっほっほっほ、“ざまあ” というのは、このことですわね!
無自覚に、救われるべき者に手を差し伸べ、罰を受けるべき者には鉄槌を下す。しかも、その裁きの場に広がるのは、爆笑。アリア様の活躍を間近で見られる、この秘密結社に入ることができたのは、まさに僥倖でした。
しかし、問題点がひとつ。長時間声を出さずに笑いを堪えるのは、思った以上に苦しいものでございます。サルーシャ様からお聞きした、鉄の表情筋を持つ完璧侍女への弟子入りを本気で検討しようと考えております。
これまで、単なるストー⋯⋯もとい、追っかけに過ぎなかった私でございますが、これからは運営側に加わることになりましたので、アリア様のお力になれるよう、尽力していきたいと思ってますわ!
お読みいただきありがとうございます!