1.醜い赤毛のお姫様
夜の帳が降りた静かな屋敷の一室に、柔らかな明かりが灯っている。
幼いネージュはふかふかの布団にくるまり、優しい母親の声に耳を傾ける。
穏やかに語られるおとぎ話がいつだってまどろみに少女を誘ってくれた。
「昔々、ある国に、赤い髪を持ったお姫様がいました。そのお姫様は、みんなに『醜い』と言われて、辛い日々を送っていたんだけれど……」
(わたしとおんなじ)
使用人からも見下すような目をされる赤い髪。
でも、母の言葉はまるで別の世界へと彼女を誘ってくれるように感じられた。
「ある日、お姫様は自分の力を信じて、旅に出たの。旅の途中で恐ろしいドラゴンとも出会ったけれど、勇敢なお姫様はドラゴンと友達になったのよ。優しいお姫様は、精霊たちとも遊んだり一緒に森を歩いたりして楽しい日々を過ごすようになったの」
お姫様に肩入れをしていた幼いネージュはうっとりとその話に浸り、目を閉じて想像を膨らませる。 赤い髪のお姫様も、友達ができるんだ…。わたしにも、そんな日が来るのかな…。
そうして、彼女は夢の世界に引き込まれていった。
しかし、現実に目を覚ましたとき、暗い窓に映る自分はもはや幼子ではなかった。
10代も終わりかけた自分自身。赤くうねる髪。灰色の瞳、目の前の醜い姿。
ふと、母が語った言葉を思い出す。
「あなたもいつかきっと、このお姫様のように自分を信じられるようになるわ」
しかし、母がいなくなってからの日々は、あまりにも辛く、時折その言葉さえも信じられなくなることがある。
ネージュはため息をつきながら、窓から遠くを見つめた。 私は、ただの醜いお姫様なんだ…。
その時、ベッドの中でくるまった体が少し震えた。
夢の中で感じた母のぬくもりが冷たい闇に消えていく。ネージュは涙をこらえて、静かに再び目を閉じた。