第1話 勇者の転移
この世界は、誰しもが何かしら1つのスキルをもっている世界。
ある者は火を吹き、ある者は水を生み、またある者は電気を流す。
そんな自由な世界。
だが、このスキルがある世界で、当然悪事を働くものも現れた。
その筆頭が"魔王ベリス"の存在である。
人々は魔王を恐れ、怯える生活を余儀なくされてしまったのだ。
そんな世界で人々に許された救済の権利は、"勇者召喚"だ。
こことは別の時空の世界にいる別の生物を呼び出す禁術のことである。
そして召喚された生物には、"ギフト"と呼ばれる"並外れた能力"が与えられる。
その勇者たちに、政府は魔王討伐を命じたのだという。
〜ブレイン王国歴史伝第一章完〜
◇勇者召喚と好奇心◇
明るい空、どこまでも広がる大地、そしてそこら中に生息するモンスターたち。
俺はその大地を踏みしめ、一気に外へ歩き出した。
俺の名は"バルト・ガールトン"、このブレイン王国の田舎地域で農業を営むナイスガイだ。
最近は魔王軍の差し金が畑を狙ってくるが、俺のある"スキル"でなんとか対応している。
そんな素朴な生活を送っている俺だが、実は最近気になっていることがある。
それは政府が最近秘密裏に行っている、"勇者召喚"だ。
一般市民には知られないようにしている政府だが、俺の目は誤魔化せない。
一体召喚される勇者はどの様な人物なのか?
一度会って話してみたいところだ。
なんて考えていると、周りの住人達が騒がしくなってきた。
一体何が起きたんだろうか?
まあ大方モンスターが襲ってきたか、犯罪の被害に遭ったかのどちらかだろうな。
そう思う俺だったが、やっぱり気になったため、周りの住人の1人に声をかけてみる。
「なあ、この騒ぎは一体何なんだ?」
しかし住人は、
「これからブレイン宮殿で勇者召喚の一般公開が初めてされるんだ!だからこれで俺は失礼するぞ!」
と言い、直ぐに走り去ってしまった。
俺は一瞬の出来事に固まってしまったが、直ぐに我に返り、少しずつ笑みが浮かんでくる。
遂に念願だった勇者召喚の儀式に立ち会える。
そう思い俺は、先に走り出した住人達の後を追うように走り出していた。
◇召喚の儀式◇
息が切れるまで走り続けていると、やっとブレイン宮殿の前まで着いた。
そこにはすでに多くの民衆が集まっており、前に進むことも困難なほどになっていた。
だが俺は好奇心を抑えられず、人の群れをズカズカと横断し、遂によく見える位置につくことができた。
どうやらまだ召喚は始まっていないらしい。
そのことに俺が安堵していると、宮殿の玉座に座る白髪交じりでちょび髭を生やした"ビルギット・ブレイン"国王が立ち上がった。
「皆のもの、静まれーい!」
ビルギット国王がそのまま大超えで叫ぶと、民衆は一気に黙り込み、一帯が静寂に包まれた。
「これから行われる儀式は、忌まわしき魔王を討伐するための神聖なる行為である。それを理解できるもののみここに残れ!」
静寂の中でビルギット国王は、更に続けて警告をする。
何故こんな面倒で手間がかかる警告をするのか?
それは、前回の勇者召喚時に、召喚儀式を批判する乱入者が現れたらしい。
そのため今回の儀式では、そこら辺を厳重に取り締まっているとのことだ。
正直、前回の事件が起こったのなら勇者召喚の一般公開は、さらに危険があるのではないかとも思ったが、今回の公開は、あくまで"民衆に儀式に対する理解を得るため"に行うらしい。
まあこれだけで理解を得られるほど甘くはないと思うが、俺にとってはラッキーだ。
そんなことを考えていると、もう壇上に召喚士が上がっていた。
どうやら俺は、ビルギット国王の話を完璧に聞き逃したらしい。
国王にバレたら処刑ものだなと思いながらも、俺は壇上に視線を集中させた。
「では今から召喚を始める。召喚しども頼んだぞ」
ビルギット国王がそう言うと、それに呼応するように、召喚達は詠唱を唱え始めた。
「我らの存在する世界に、祝福を。我らの生きるべき世界に救済を。今こそ扉が開かれん」
詠唱が読み進められていくたびに、床に円形の紋章が出現し、そこから眩い光が差し始めている。
「神よ、神聖なる門を今こそ開け、グレートグローリー!」
そして、詠唱が最後まで唱えられたその時、目も開けていられないほどの閃光が走った。
しばらくして目を開けると、そこには10代後半ぐらいのロングヘアーで赤髪の女が立っていた。
その姿を見た観衆達は、そこら中から歓声を上げた。
「うおー!本当に人が出てきた!」
「本当に勇者召喚が存在したのね!」
「これで俺たちの暮らしは安泰だ!」
多種多様な叫びが宮殿中を埋め尽くした。
ビルギット国王も、この歓声を聞き満足そうな顔をしている。
そんな興奮が冷めやらぬ中、満足そうな顔を崩さぬままビルギット国王は、大声で国民に始めた。
「皆のもの、これが我らの希望の勇者召喚だ!これがあるからこそ、我々はこれからも魔王に恐れず生きていける!それを忘れるでないぞ!」
この声を聞き、民衆はさらに大きな歓声を浴びせ、そのままの流れで、今回の一般公開は閉幕となった。
俺は召喚された勇者と一言話したいと思い、近くの護衛の兵隊に声をかけてみた。
しかし、俺の願いは受諾されず、そのまま突き返されてしまった。
だが、俺は畑に戻っても今日のことを忘れられなかった。
どうしても一度話したい。
別世界の雰囲気、制度、そのすべてを聞いてみたい。
その好奇心はどうしても止められなかった。
だから俺は、明日もう一度直談判することを胸に誓い、作戦を考えてから、今日はひとまず眠りにつくことにした。