学校の人気モノ 【月夜譚No.288】
まるで王子様みたいな人だと思った。誰に対しても笑顔で優しく、頭が良いのをひけらかすこともせず、周囲にはいつも友人がいて賑やかで、容姿端麗。全校生徒の注目を浴び、特に女子からはそれは熱い視線を注がれるのも頷けるというものである。
しかしながら、どういうわけか同じクラスの私だけは、どうしても彼に興味を示せなかった。少女漫画好きで、所謂イケメンには目がないはずなのだが、食指が動かない。彼が素敵な人物だとは感じるのに、それ以上の感情は起こらないのだ。それは自分でも不思議だった。
(――ああ、成程)
無感動にそう思ったのは、偶然その場に居合わせたからだ。神に誓って、疑念などは一切なかった。
振り向いた彼の双眸が、路地の暗がりに光る。私は逃げる間もなくそれと視線が合って、その場から動けなくなってしまった。
「……見たな」
ゆっくり歩いて陽の中に出てきた彼の姿は、もう人間のそれではなかった。
昔から、人でないモノを見ることが多かった。私が彼に興味を示せなかったのは、何処かで彼が人でないと判ったからなのだろう。
私は泣きたい気持ちで彼を見上げ、脳裏に諦念を過らせた。