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戯曲

新訳桃太郎

作者: 片栗キノコ

新訳桃太郎


脚本 片栗キノコ


登場人物


大田雅子

大田次郎

語り手(桃太郎)


表示説明

上手 客席から見て右側

下手 客席から見て左側

ハケる 舞台上から袖幕の方へ行くこと

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


上手から語り手が出てきて椅子に座る


語り手 えー…どうもどうも…皆様忙しい中、お運び様で誠に御礼申し上げます。私の方とは申しますと…まぁ語り手とでも言いましょうか、覚えていただかなくて結構でございます。えー…どうぞ、最後までごゆっくりとお楽しみ頂けたら幸いでございます…


語り手が深々とお辞儀をする


語り手 さて、今回お話しますのはそれはもうここ10数年ほど前の出来事でございます。ある県のある町の片田舎…そこには二人の四十代を迎えようかという中年夫婦がいました。夫の名前は大田次郎、妻は雅子と言います。ある日いつもと同じどおりサラリーマンの夫は会社へ妻は専業主婦としてスーパーの特売へ駆けつけました

語り手 妻はその帰り道大きな桃に出会いました…それはもうこーんなに大きな桃です


語り手が腕を振り上げ大きさを表現する


語り手 何を思ったのかその大きな桃を妻は持って帰ってしまいました。意外と軽かったそうです


大田次郎と太田雅子が下手から出てきて席に座る


語り手 おや、どうやら夫が会社から帰ってきたようです

次郎 はぁ〜〜…雅子…

雅子 …………はい

次郎 どうしたのこれ

雅子 …………

語り手 ちょうど机の上に桃をおいて対面になるように夫婦は座ってました。こーんなでっかい桃を挟みながらね

雅子 …その、怒らずに聞いてほしんだけど

次郎 これで怒るなっていうほうが難しいよ

雅子 …ごめんなさいあなた

次郎 ほんとなんでこんなもの持って帰って…ってかでか…ちょ、デカイんだよデカ過ぎるよなんか威圧感あるし

雅子 だって…昔あなた桃が好きだって言ってたから…嫌いだったって知らなくて…

次郎 問題はそこじゃないんだけどね。好きか嫌いかでいうと好きな方だよ桃は

雅子 あら、やっぱり桃は好きだったのね!

次郎 けどさぁ…何事も限度ってもんがあるじゃない。流石にこの桃は無理じゃないかなって思うよ僕は…

雅子 そうかしら…?

次郎 僕が会社から帰ってきて飯食って君がデザートに桃があるわよって言われて僕は喜んだけどさ、君がキッチンから持ってきたのこれじゃん。普通もっとこう…イメージキュッて小さいじゃんキュッって

次郎 しかもよくこれキッチンに入ったなこれ…こんなに桃食べきれないよ

雅子 あ、それなら大丈夫よ!余ったらご近所さんにおすそ分けするから!

次郎 道端で拾ったものをご近所さんに上げるんじゃないよ。なんて言ってわたすの、道端に落ちてたでっかい桃ですって言ってわたすの?ご近所さん困惑するよ?

雅子 それもそうねぇ…

語り手 そんな時です。どこからかコツン…と音がしました

次郎 ん…?雅子、何か音がしなかったか?

雅子 え?そうかしら

語り手 コツン…コツン

次郎 ほら!やっぱり…聞こえてくる…桃の中からだ!

雅子 あなた、何言ってるの

語り手 その音は次第に大きくなってきました…!コツンと最初は微かに聞こえる程でしたがだんだん、だんだんとトントン…トントン…徐々に徐々に大きくなってきました…

次郎 おいおいなんだか桃の中に何かいるみたいだぞ

雅子 まさか…大きな虫でも入ってるんじゃ…

語り手 ちょうど日が傾き始め煌々と夕日に照らされる夫婦…来るであろう夜の帳を告げるかのように遠くでカラスが鳴いています…!大きな大きな桃からはみずみずしく甘い甘い香り…!部屋を、2人の肺の中を満たしてゆきます。そこに奇妙な音が不気味にも響いてそこはまるで御伽話の世界のようです

そして桃は音だけでなくコロッ…コロコロッ…と


次郎 う、動いて…いるのか…?

雅子 あなた…ど、どうしよう…!

次郎 お、落ち着け…!と、とりあえず包丁…包丁持って来い…!こいつを割ってみよう…!

雅子 わ、わかったわ!


雅子はける


語り手 この時、次郎は確信していました。この桃の中には何かがいる…と。それが何かを開けて調べる必要があると。


雅子下手からか中華包丁を持って出てくる


語り手 雅子は緊張をしていました。生を受けて40あまり…ここまで手に汗を握る不思議な光景を見たことなどありません。滑り落ちないようにといつも以上に腕に力が入ってしまいます

次郎 雅子…できるか…?

雅子 わ、わからないわよ…け、けど私も中身気になるもの…

次郎 よ、よし…せーのでいくぞ…!

雅子 う、うん!

次郎・雅子 せーの!

語り手 その時です!!包丁の刃が桃に当たるその直前!!桃はパカッとひとりでに割れたのです!!

そこに現れたのはなんと!!

次郎 うわぁっ!!!

雅子 きゃぁぁ!!

語り手 おぎゃー!!おぎゃー!!

次郎 は…?

雅子 え…!?こ、これって…

次郎 あ…

次郎・雅子 赤ん坊ーーッ!?!?!?

語り手 それはなんと人間の赤ん坊でした!

雅子 …ちょ、ちょっと!あなた!この子男の子だわ!

次郎 驚くとこそこじゃないだろ!あ、赤ん坊が桃から生まれたんだぞ!!どうなってるんだ!?

語り手 それから生まれた赤ん坊は桃から生まれたのでその夫婦からは桃太郎と呼ばれることになりました。最初は安直すぎると夫の反対もありましたが

妻からは桃から生まれたから仕方ないじゃないと半ば強引ではありますが説得されるという一悶着もございました…

語り手 さて、この桃太郎夫婦の愛情を一身に受けました。もともと子宝に恵まれず寂しい思いをしていた夫婦ですからそれはもう深い深い愛情を桃太郎は受けたのです。そんな桃太郎はグレることもなくスクスクと育っていき好青年へとなりました。そんなある日のことです

次郎 なんだ、話って。お前からなんて珍しいじゃないか

雅子 そうねぇ

語り手 父さん、母さん怒らないで聞いてほしいんだけど

次郎 まだ何も怒ってないじゃないか。雅子みたいなことを言うようになったな

雅子 あら?嫌味たらしい所はあなたにそっくりね

次郎・雅子 はははは

語り手 実は俺、学校に行きたいんだ…

次郎 …!

雅子 まぁ…!

次郎 そうか…


語り手 夫婦は幸せでした。ですが、いつまでも幸せは続きません。人生そんなもんです。青年…桃太郎は好青年でしたが学がありませんでした。夫婦にとって子供一人を育てるぐらいのお金と時間はありましたが学校には行けませんでした。考えてみてください、桃から生まれたんですよ。普通の出生届けや戸籍の書類が通るわけ無いじゃないですか。…そのため桃太郎が出来るのは夫婦が教えた日本語の読み書きと簡単な計算ぐらいです。そんな桃太郎がある日突然学校に行きたいと言い出しました

次郎 う〜む…しかしなぁ…

雅子 そうねぇ…

語り手 俺も15歳になるんだよ?いまだに自分が桃から生まれたって言われても正直流石に信じられないよ

次郎 そんなこと言われてもなぁ…

雅子 本当のことだものねぇ…

語り手 じゃあいつも聞くけど僕が桃から生まれたとかいう証拠はどこにあるのさ!?

次郎 桃はお前が生まれたその日のうちに食べたよな確か

雅子 えぇ、そうだったわねぇ…。桃太郎が入ってたから中身はスカスカであまり量はなかったから二人でもペロリと食べれたわよ〜

次郎 あの桃うまかったな〜

雅子 そうねぇ〜

語り手 それじゃあ意味ないじゃん!人が桃から生まれる訳ないよ。どういう原理なのさ!

次郎 どういう原理なんだろうな〜

雅子 ねぇ〜、生命の神秘ねぇ〜

次郎 けど…ねぇ…?お前には悪いけど…実際この家族全員血が繋がってないし…

雅子 みんな顔全然違うもんねぇ〜

次郎 だからといってお前の事が他人とは微塵も思ってない。な?雅子

雅子 そうよ〜み〜んな大切な家族よ

語り手 …わかった。百歩譲って実の親子じゃないことは認めよう。けどさ、それなら桃から生まれたとかふざけたこと言わないで養子って言えばいいじゃん

次郎 養子って実の親がいるから養子って訳で…桃から生まれたんじゃ養子も何も…

語り手 そこが間違ってるんだよ、なんで頑なに桃から生まれたことにしようとするのさ

雅子 あ、てことはあの桃がこの子の実の親ってこと…?


沈黙


次郎 …食べちゃったよ〜!

雅子 どうしようかしら〜!!あたし達この子の親御さん食べちゃったわ〜!!!

語り手 はぁ…父さん達に相談した僕が間違いだったよ…

雅子 そんなこと言わないでちょうだい桃太郎〜

次郎 それはあんまりにも酷くないか〜?

語り手 じゃあ養子って認めてよ

次郎 そもそもなんで養子って認めないといけないんだ?桃から生まれようがお前はお前だ。気にすんな

語り手 だから桃から生まれた事になったら学校にいけないじゃないか!

雅子 …なるほど!

語り手 はぁ…わかった。もう自分で考えるよ…

次郎 ……そうか、その手があったか!

語り手 なんだよ…父さん

次郎 桃太郎!お前の言いたいことがわかったぞ!

雅子 え、本当なの!?流石あなた!

語り手 え、もしかして僕学校にいけるの…?

次郎 いいか、実はな俺達はお前が生まれたとき市役所に出生届けを出しに来たんだが俺達はバカ正直に桃から生まれたなんて書いたからお前の国籍は国からは与えられなかったんだ。

語り手 なんでバカ正直に書いちゃうんだよ!

雅子 昔からお父さん頑固者だから…

次郎 だが養子は話が違う。大まかに言えば親と子の同意さえあればいいんだ。必要な書類はあるが要は出身は道路の真ん中で生まれは桃ですなんてことを書かなければ審査は通るはずだ!

雅子 流石お父さん!ほぼ何言ってんのかわからないけど凄いわ!!

語り手 確かに…その方法なら行けるかもしれない…!凄いよ父さん!

次郎 善は急げだ!早速養子手続きするぞ!



語り手 それから話は順調に進んでいきました。養子の審査は楽々と通り晴れて桃太郎は太田桃太郎となり、高校生になるため16歳の一年の間は平凡な高校生に追いつくべく必死に小学生のドリルからしました。もともと勉強意欲には人一倍あった桃太郎ですし吸収力もありグングンと知能を蓄えていきました。そしていよいよ2年生から編入で地元の高校へと通うことができました。その後そのままグングンと成長した桃太郎は成績優秀、文武両道を手に入れさらに高校を卒業する時にはあの超難関大学…鬼ヶ島大学に入学する事となりました。鬼みたいに強く、賢い人しかいけないという大学…夫婦はたいそう喜びました。が、鬼ヶ島大学…通所鬼大は家からでは少し遠くの所にあり寮生活を余儀なくされました

次郎 桃太郎…1人でさびしくないか?

雅子 ほんとよ〜…あなたが大学に受かったときは嬉しかったけどまた二人の生活に戻るとなると寂しいわねぇ〜…

語り手 父さん、母さん心配しなくても大丈夫だよ。僕は向こうでもやってけるさ

次郎 そうか…あぁ、そうだこれをお前に

語り手 なんだよこれ?

雅子 地元名物のキジ団子よ



語り手 …キジ団子ぉ〜?なにそれぇ…?キジって…あの鳥の〜?

次郎 非常食だ。向こうで桃太郎が腹を空かせたときにな。

語り手 父さん…!

雅子 キジ団子には地元の原産高級キジ肉が練り込まれていて腹持ちがいいのよね〜。それに栄養満点!

語り手 母さん…!

次郎 向こうでも元気に暮らせよ

語り手 うん…!向こうでも頑張るよ!ありがとうお父さんお母さん!じゃあ行ってきます

次郎・雅子 いってらっしゃ~い



語り手 それから時は流れ…



次郎 …もう桃太郎が出てからはや何年だ

雅子 …さぁねぇ〜最近は時が過ぎるのが早くて…桃太郎が出ていった時がつい昨日に感じちゃうわ

次郎 そうだなぁ…そういえば雅子、今日は桃は買ってないのか?

雅子 あなた、今日はもう桃は食べたじゃない

次郎 そうだったか…

語り手 ピンポーン

雅子 あら…?お客さんかしら…?

次郎 回覧板か何かだろう

雅子 ちょっと見てくるわね…はいはい

語り手 そこにいたのは友達を連れた桃太郎でした

雅子 も、桃太郎…!?

次郎 なに、桃太郎が帰ってきたのか!?

語り手 そこにいた桃太郎は…

次郎 お…お前…本当に桃太郎か…?

雅子 まぁ…こんなに…

語り手 イェア!オヤジィ!オフクロ久しぶりぃ!

次郎 な…!

語り手 ……桃太郎は悪い影響をバッチバチに受けて帰ってきました

雅子 桃太郎…随分変わったわねぇ…

語り手 ちょマジキャンパスライフ楽しんだわ〜!ヴァイブスぶち上がりよ!イェア!

次郎 桃太郎…なんか…

雅子 そうねぇ…

語り手 あぁ!あとさぁ!マジ感謝してぇーんだけどよ!あのキジ団子ってのぉ〜?あれさァ俺のガールフレンド達がうめぇっつて、なんつーの?ちょー人気でさぁ!あれがなきゃ今の俺がないって感じ?いや、マジ感謝っすわ!うっす!

雅子 と、とりあえず喜んでくれてよかったわ…

次郎 桃太郎は本当に鬼大で変わってしまったな…

雅子 …それでこのお二人は…?

語り手 あ、そうそうこいつらの紹介すんの忘れてたわ!まじイカすやつだから!右からこいつ!こいつの名前は犬山ちゃん!かわいい~しょっ?俺が連れてきた初めてのガールフレンドってやつよ!

次郎 も、桃太郎にガールフレンド…

語り手 犬みてーなやつだからあだ名はポチな!

雅子 女の子にポチって…

語り手 で、で!次が猿田!足速いマジヤベー俺の一番の親友!!

次郎 猿田くん…

語り手 あだ名はね…ねぇーわ!普通に猿田!!

雅子 女の子にポチなのに…

次郎 なぁ…



語り手 …桃太郎は本当にこんなちょけたチョベリグでナウでヤングな青年になってしまったのでしょうか?

次郎 桃太郎…昔はこんなチャラついてなかったのになぁ

雅子 いいじゃない…人って変わるものよ

語り手 なになに?何の話!?

次郎 なんでもない…

語り手 あ!そうそう!オヤジたちに土産あんの!

雅子 あら…!嬉しいわねぇ〜…

語り手 ほい!これおふくろに!

雅子 何かしら…?

語り手 珊瑚のネックレス!これおふくろに似合いそうじゃね?

雅子 まぁ…!

語り手 次にこれ!ほい!親父!

次郎 なんだ…これは

語り手 親父…お酒好きだったでしょ!

次郎 …そうだが

雅子 よく知ってるわねぇ…

語り手 だからこれ鬼ヶ島名物の鬼殺し!!!マジウマでマジエグなやべーやつ!!!

次郎 こ、これは…!

雅子 あなた知ってるの…?

次郎 うっ…!こ、これはなぁ…年間に100本しか造られないとっても珍しいお酒なんだ…!

雅子 まぁ…!

次郎 一生に一度は飲んでみたかった…!桃太郎ありがとう…!

語り手 気にすんなって!俺ら家族じゃん!!

次郎・雅子 桃太郎…!

語り手 俺も早く大学卒業してしっかり働いて孫の顔見せてくるから、それまでもう少し待ってよ!

次郎・雅子 桃太郎…!



語り手 こうして桃太郎はチョベリグで親孝行な好青年へと成長しました。桃太郎は十数年後、夫婦に孫の顔を見せるのはまた別のお話…。これにて桃太郎と夫婦は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし


閉幕

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― 新着の感想 ―
僕もこういう類の童話の新訳を書こうと思っていて、ノリがおんなじ感じだったので親しみやすかったです。三人でできて、語り部が桃太郎に豹変するのを想像するととても面白くなりそうだなぁと思いました。参考にさせ…
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