05:ベースボール同好会発足
「野球部と……伊津本と戦おう」
ある日の昼休み……俺は、一年生の元野球部の選手とマネージャーを空き教室に集めていた。その数十三人。
志築高校は特に部活に力を入れている高校ではないが、古豪だったこともあって野球部の設備は豪華だ。といっても、甲子園と同じ大きさのグラウンドとかだけど。
だから、その見栄えの良さから野球部に入る部員やマネージャーは多い。その中には当然、現野球部のようなチンピラが混じってるけど。
「戦う?」
「ああ。お前たちも今の野球部に不満があるだろ?」
「そりゃまあ……」
現野球部に不満がある人物は多い。
真面目に練習しないくせに広いグラウンドを使っている奴らに他の運動部は当然不満を持っているし、ガラが悪いので他の生徒も迷惑に思っている。そして、当然ながら俺たち元野球部はもはや憎んでいると言ってもいい。
「でも、どうすることもできないんじゃない? 伊津本って政治家の友達の息子で忖度受けてるんでしょ?」
そう。俺たちがいくら学校側に訴えてもまともに取り合ってもらえない理由がこれだ。
そもそも、チームを衰退し続けている奴を使い続ける理由なんてこれしかない。
「だから、みんなにも聞きたかったんだ。どうすればいいのか」
俺の言葉に、元野球部のみんながうーん……と悩む。
「そりゃあ、俺たちも真面目に野球したいけど……」
「うん。上垣先生がいた頃はやりがいがあったし、なによりも楽しかったもんね」
やっぱり、みんな現状を良くないとは思っているらしい。
誰も意見を出せない状況が続いていると、戸口が手を挙げた。
戸口は野球未経験だし体も小さいが、一度も練習をサボらない真面目で根性があるやつだ。
「こ、これを使ってみたらどうかな?」
戸口がスマホを取り出す。
そこから一つの音声が流れた。
『おいチビ。うざいんだよ。ムカついて嫌な気持ちになったから慰謝料を払えや。払わなかったらぶん殴るぞ』
それは伊津本の声だった。
内容は純粋なカツアゲだ。本当に子どもみたいなやつだ。
「こ、これ、いつか使えるかなってとっておいたんだけど……これなら使えるんじゃない?」
「成程。確かに、それを流せば、いくらなんでもクビになるな」
「でも、それ一つじゃ伊津本だけだよね?」
マネージャーの樫原の言葉は最もだ。
だが、これは使えるぞ。
「それ以外にも悪事の証拠を掴めばいい。一応、他の部活の友達にも言っておく」
メッセージアプリで元野球部以外の友人たちに『今の野球部に脅されたりしたら、その証拠を押さえてくれないか?』と送る。
やっぱり、他の運動部からも現野球部は嫌われていたようで、『了解』という心強い返事が返ってきた。
「それらを教育委員会とかその辺に送れば、野球部は取り戻せるな」
小澤の言葉にみんな頷く。
どうしようもなかった現状の解決の兆しが見えてきた。
……しかし、俺はそれだけじゃ納得できなかった。
「それだけで満足できるのか?」
みんなに聞く。
「満足も何も……野球部を取り戻せれば、それで万々歳じゃないか?」
「いいや。少なくとも、俺は納得できないね。野球であいつらをぶっ潰したい」
伊津本はヤンキーの更生物語でも目指しているのか、あいつが贔屓するのは不良ばかりだ。ヤンキーにスポーツの素晴らしさを教えたいと言いながら野球部に不良を集めてくる。
そういうクズを好む反面、戸口のような真面目な選手は避けている。そもそも、あいつがチンピラだから優等生が嫌いなのだろう。
真面目に練習したい俺らからしたら単純に迷惑だ。グラウンドは占拠するし、遊ぶし。それをどうにかしてほしいと言っても、更生のためだから我慢しろだとか、自分たちだけよければいいのかだとか、自分に言えと言いたくなるような言葉で反論してきて、最終的には躾という名の体罰で訴えてくる。
そのくせ、真面目に頑張りたい俺に向かって、輪を乱す奴は邪魔だと言ってきやがった。
自分の手で叩き潰さないと気が済まない。
「だから、これを材料にあいつらと試合をしよう。勝ったら、二度と野球部には近寄らせない」
「……負けたら?」
「絶対に俺らが勝つからそんな心配はいらない」
これは確信だ。
そも、向こうもほとんどが初心者だから、練習してきた俺らが負ける理由はない。
「……そうだな。俺も随分と苦汁を飲まされてきたからな……一度でいいから叩き潰したかったんだ」
小澤が賛同してくれ、やがてみんなも頷いてくれた。