04:決闘の申し込み
大変申し訳ございません。とある事情からサッカー→野球に変えさせてもらいます。本当に申し訳ございません。
「伊津本! あと、矢羽部!」
あの悲劇の一週間後、俺は直接伊津本のところに来ていた。矢羽部もちょうどよくいてくれたので二度手間にならずにすんで良かった。
「なんだ如月ぃ? 負け犬が何の用だぁ?」
伊津本がすごんでくるが全然怖くない。こいつは所詮、図体がでかいだけの小物のチンピラだ。まっとうに生きてきた大人が持つ威圧感は一切ない。子どものまま大人になってしまったんだろう……それも悪い大人に。
「いいのか? そんなことを言っていると、自分たちが負け犬になった時に余計に惨めになるぞ」
「あぁ!?」
「なめてんのか!!」
こいつらは短気だ。ちょっとでも気に入らなことがあると、すぐに怒鳴り散らし、簡単に暴行を加える……そんなの今の時代ではご法度だというのに。
「俺はあんたたちに決闘を申し込む」
「決闘だぁ……?」
「ああ。一か月後、俺が設立したベースボール同好会と野球部で試合を行う。もしも、俺たちが勝ったら野球部は俺たちがもらうし、あんたら現野球部は二度と俺らに近づかないことを誓え」
「バカか! そんなの俺たちが受けるメリットなんざねえだろうが!!」
「寝取られたショックで頭がおかしくなったのか!!」
「あーやだやだ。これだから短気は損なんだよ」
こう言われることは想定済みだ。思ったよりも言われたけど。
俺はポケットからスマホを取り出し、再生ボタンを押した。
『あ? 暴力を振られてる? そんなのただの弄りだろ。いちいちあいつらを否定するな!!』
『お前邪魔なんだよ。俺はプロのなるんだぞ? 下手や奴と練習したらこっちまで下手になっちまうだろ!』
『うるっさいわねえ!! ブスがひがんでるんじゃないわよ!』
そこから流れるのは様々な男女の声だ……その中には伊津本と矢羽部、そして、加奈子の声もある。
現野球部の選手とマネージャーたちの悪事の証拠だ。
「「なっ!?」」
伊津本と矢羽部が同時に驚きの声をあげる。いくらバカのこいつらでも、これがどういう結果をもたらすのかはわかるらしい。
「スマホの録音アプリだ。これにお前たち現野球部の悪事の証拠はたくさんある! 当然、音声だけではなく動画もな!!」
これは野球部を辞めていってしまったみんな、そして、志築でできた友人たちが集めてくれたものだ。選手とマネージャー……含めて二十人以上で。
「おっと、これを奪っても無駄だぜ。これは俺以外にも結構な人数が持ってるからな」
掴みかかってきた二人をかわしながら忠告する。
結構と言ってもベースボール同好会の皆だけだが。
「その小さい脳みそでも理解できたか?」
頭をトントンと叩いて挑発する。
煽りに対する耐性が一切ないあいつらは怒り狂った顔でなおこちらを襲おうとしてくるが、所詮はろくに基礎練習をしていない虚弱者だ。俺を捕まえることはできないし、万が一できても振りほどける。
「お前たちは試合を受けるしかないんだよ。当然、これをPTAや野球協会に提出されてもいいって言うんだったら受けなくていいぜ。それでも、お前らは野球なんてできなくなるから、俺らは野球部に復帰できるしな」
まあ、今までの鬱憤を晴らしたいから受けてほしいけどな。
「……くっ! わかった……代わりに俺らが勝ったらそのデータを消せよ!」
「おいおい、頼み方ってものがあるだろ? さっきも言ったように、俺らはいつでも野球部を取り戻せるんだ。いわば、この試合はお前らのためのものだ」
「ぐぬぬ……!!」
ここまで言ってやったのに、プライドのせいなのか向こうは素直にお願いしてこなかった。
お互いに無言の時が過ぎ……俺はため息をついた。
「わかった。しょうがないから、そっちの要求をのんでやる。どうせ負けるはずがないからな」
そう言って、この場を後にする。
「くそ! 覚えてろよ!!」
俺は彼らの負け惜しみを聞きながら、あの日にあったことを思い出すのだった。