02:双子の幼馴染みと告白
失意の底に沈んだ俺は、快晴島に帰ってもボーとしていた。
道行く人たちにも心配されたが、俺のちっぽけなプライドが邪魔をして言うことができずに余計に心配をかけてしまった。
「シュウくん……?」
「シュウさん……?」
家に帰る前、俺の練習場と化していた寂れた公園でボーとしている俺に声をかけてきた人物が二人いた。
「……みゆ……みう……」
そこにいたのは柊みゆと柊みう。双子の姉妹でこの快晴島で俺以外では唯二人の未成年で幼馴染みだ。年齢は俺より一つ下の15歳で快晴中学に通っている。ちなみにみゆが姉でくん付けだ。
買い物の帰りだったのか、二人は私服でエコバッグを持っていた。
「この時間はいつもなら、自主練してますよね? どうかしたんですか?」
みうに尋ねられる。
ずっと一緒に過ごしてきたから、二人は俺の行動パターンを把握している。
だから、今の俺は不思議なのだろう。
「ああ……ちょっとな……」
できる限り心配させないように笑って答える。
本心ではすべてを吐露して叫びたかった。だから、誰も来ない(この島のほとんどがそうだけど)俺以外は使っていないこの公園に来たのだ。
でも、二人にだけは言いたくなかった。彼女たちにだけは弱いところを見せたくなかった。
「なんでもなくないです……教えてください」
「そうですよ。私たちとシュウさんの仲じゃないですか」
「べつになんでもないって」
「そ、そんなわけないですよ……」
いつもならこの辺で引いてくれるのだが、今日の二人は何故か引いてくれなかった。
「本当になんでもないんだって!」
「そんなわけないです」
「――――ッ!!」
思わずイラついてしまう。
もう気持ちがいっぱいいっぱいなんだから一人きりにしてほしかった。
「そんなわけないって……なんでわかるんだ!」
「だって、悲しい顔をしているじゃないですか……!」
「そ、それに、声だって震えてます!」
「――――!」
みゆとみうに言われた瞬間、何かが決壊したように頬に液体が流れる。
泣いてる……?
そっと自分の頬に触れる。
すると、自分の指が濡れた感触があった。
「一人でも! 試合に出れなくても、一度も泣かずに練習していたシュウくんが! そんな顔をするなんて普通じゃない! う、うぅ……」
「おじさんとおばさんの時だって……う、うぅ……!」
「な、なんでお前らも泣くんだよぉ……」
「だって……だってぇ……」
「悔しいんだもん……」
三人で泣いてしまう。しばらく、俺たち以外誰もいない公園に泣いている音がこだまする。
そして、ひとしきり泣いた後、俺はぽつぽつとしゃべりだした。もう泣いている姿を見られたんだ。かっこ悪いのは今更だ。
野球部が完全に伊津本に乗っ取られたこと。そして、加奈子が矢羽部と浮気していたこと。
それを全部聞いた二人は、最初に同時に「別れたんだ……」と言った。
「……そこ?」
「私たちにとっては一番大切なことだから……それに……」
「それに?」
「……それに、その程度で諦めるシュウさんじゃないですもん」
そう言ったみゆとみうの瞳は真剣だ。まるで疑いというものがない。
「……あっはっはっは!」
そんな彼女たちに……俺は笑った。
おかしかった。もうどん底といっても過言ではない状況なのに、それでも俺を信じてくれる彼女たちがおかしくて……そして、嬉しかった。
「……ねえ、キャッチボールしませんか? きっと、キャッチボールしたら気分晴れますよ」
「シュウくんは野球バカだからね」
「はは。ひどいな」
「でも、それがシュウさんのいいところです」
みゆとみうは何故か頬を染めながら言葉を紡いでいく。
「私たちが快晴小学校に転校してきた時……全部が全部嫌で引きこもっていた時……シュウくんは何度も私たちと仲良くしようとしてくれてたよね?」
「……まあ、うん……」
みゆの言葉に生返事をしてしまう。
あの時は初めて一緒に野球できる相手ができたと思って、ただただ嬉しかったからな。
「私たち、嬉しかったんです……都会では無視されたりバカにされたり……それよりももっとひどいこともされて……でも、シュウさんはずっと優しくて……」
みうの言葉に恥ずかしくなる。
こんなにも言ってくれているのに、未だに失意から抜けられない自分が恥ずかしくもなった。
「……だから、シュウくんが吉田さんと付き合ったって聞いた時は本当に悲しくて……悔しかった……私たちがもたもたしてる間にって……」
「……だから、次にチャンスがきたら……絶対に攻めるって決めたんです……」
耳まで真っ赤にして、たどたどしくも早口で言った二人はキッとこちらを見てきた。
そして、意を決したように深呼吸すると……その柔らかそうな唇を俺の顔に近づけ――
――ちゅ、という感触がした。彼女たちの大きな胸の柔らかい感触とともに。
「……え?」
「す、好きです! シュウくんのことがずっと前から!」
「わ、私もシュウさんのことが好きです!」
一瞬、何を言われたのかがわからず……理解した瞬間、ボッと顔が熱くなるのがわかった。
「別れたんだったら、もう遠慮しないで攻めますからね!」
「か、覚悟してくださいね! 一人じゃなくて私たち二人と付き合ってもらいますから!」
もはやゆでだこのように顔を真っ赤にした彼女たちの告白に……俺はかつてないほどの衝撃に襲われた。