11:監督の復活
「上垣先生の意識が戻った!?」
現野球部を予想の10倍の差をつけて勝った俺たちは、近所の大学生との練習からの帰り道、顧問である古典の先生から電話をもらった。
そこで、代表として俺・小澤・徳井で病院に行くことになった。
コンコンとドアを叩いて入室する。
「おう。来たか」
病室には一人の女性がいた。
みゆとみうには負けるもののスタイルがいい美人な人で、年齢は静香先生と同じ28歳。見た目はそれよりも若く見える。
「いやー、すまんな! 何やら迷惑をかけてるようで!!」
事故明けとは思えないほど豪快に笑うこの人こそ、志築高校野球部監督の上垣昌だ。
「いや。本当ですよ。色々大変だったんですから」
本当に大変だった。
加奈子はともかく、野球部が乗っ取られたのはこの人が事故で意識がなくなったからだしな。いや、この人は被害者だけど。
「徳井たちも大変だっただろう。練習場の確保とか」
「い、いえ……それもマネージャーの仕事ですし」
上垣先生が徳井を労う。
「……まあ、これで試合をしなくても良くなったな。元々、伊津本は上垣先生の代理なだけなんだから」
小澤が言う。
確かに彼の言う通りだ。上垣先生が戻ってくるなら、野球部は元に戻る。
「それ、本気で言っているのか?」
「……なわけないでしょう。こっちはずっと苦汁を飲まされてきたんですよ」
そして、これも彼の言う通りだ。
そもそも、取り返すだけなら試合なんていらないし。
「うむ。それでこそスポーツマンだ。よし! 私もさっそく、明日から君たちの練習に――」
「いや。安静にしといてください」
この人はバカか……バカだったわ。
少年漫画大好きで、現野球部のチンピラを説得してた時も根性論が多かったし。
熱血教師というか……まあ、そこが親しみやすいって評判なんだけど。
「……わかった」
納得いっていない様子だが、どうやら納得してくれたようだ。
「明日は休み、明後日から練習に参加することにしよう!」
ずこーとこけそうになった。
こ、この人は……!
「ま、まあ、それはいいです……それじゃあ、俺たちはそろそろ帰りますね」
どれだけ言っても無駄だろう。
適当に納得したふりだけしておいて、今日のところは帰る。
ま、どうせお医者さんが止めるし問題ないか。
◇◇◇
……なんて、一昨日の俺は考えていたが……。
「よーし! ノックを始めるぞ!!」
上垣先生の声がグラウンドをこだまする。
そう。上垣先生はなんと二日で完全復活を成し遂げてしまったのだ。
上垣先生がバットを振る。
前までは俺が担当していたノックだが、上垣先生がやってくれているので俺も外野として参加している。
体調は心配だが、上垣先生が戻ってきてくれたおかげで練習の質は格段に向上した。
「……それっ!」
「はあ!」
投球練習も教えられる人がいなかったが、今は何とかなっている。
とりあえず、俺と浦山と長瀬がピッチャーとしてやっていくことになる予定だ。
浦山は初心者ながらコントロールがよく、長瀬は身長が高いという理由で選ばれた。
大会で戦っていくにはピッチャーが一人じゃ無理だからな。
ちなみに平均球速と変化球は今のところこんな感じ。
俺(如月秋真):124キロ、なんちゃってカーブ・なんちゃってスライダー
浦山:76キロ、なし
長瀬:89キロ、なし
まあ、球速はそのうち伸びるだろうし、変化球も覚えていくだろう。
現野球部は相手もほとんどが初心者だから、矢羽部さえ抑えられればなんとかなる。
「問題は矢羽部から打てるかどうかだ」
ずっと言われ続けていることだが、矢羽部は結構強いピッチャーだ。
シニアで暴行沙汰を起こしてなければ、今頃は強豪校にいただろう。
「あいつは打たせて取るタイプだが、平均球速130キロあるうえ、キレのあるカットボールとカーブも投げる。しょうじき、初心者に打てる相手じゃない」
上垣先生が説明してくれる。
……それにしても、やっぱりすごい投手だ。気に食わないが、そこだけは認めざるを得ない。
守備力不足のうちを補える逸材なのに……勿体ない奴だ。
「だから如月、お前が打たなければならない……行けるな?」
「はい!」
上垣先生に指名される。
そうだ。4番に選ばれた以上、俺が打ってみせる。
それから、バッティング練習に入った。
みな、真面目に練習する。男子三日会わざれば刮目して見よという言葉の通り、みんな二週間前とは見間違えるほどの成長を遂げた。体も鍛えられ、技術も身についてきた。
そして……ついにvs現野球部が明日に迫った。