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01:浮気と野球部追放

大変申し訳ございません。とある事情からサッカー→野球に変えさせてもらいます。本当に申し訳ございません。

 俺の名前は如月秋真。人口50にも満たない離島、快晴島に住むプロの野球選手を夢見る少年だ。

 といっても、小学・中学合わせて3人しかいなかったので公式戦に出たことは一度もない。自然の中で基礎練やバットの素振りの練習ばかりしていた。

 そんな俺に転機が訪れる。上垣昌さんというとある高校の監督が快晴島にやってきて俺の練習を見てくれていたのだ。そして、無名にすぎない俺を上垣先生が志築高校に推薦してくれたのだ。


「君は志築の救世主になれる逸材だ」


 ここまで言われたら仕方ない。俺はすぐに了承した。

 志築高校は十年くらい前までは全国優勝するほどの名門だったが今は落ちぶれ、さらに現在のコーチの伊津本が来てからの2年は一気に衰退の一途らしい。学園に出資している政治家のドラ息子であるそのコーチの素行の悪さと指導力の低さから、上垣先生は重視されており、推薦は驚くほどうまくいった。

 そして、快晴中学を卒業して志築に入って一ヶ月、一軍として練習しながら恋人もできてまさしく順風満帆だった。


 ――しかし、その上り調子も長くは続かなかった。


 上垣先生が不慮の事故で休まざるをえなくなり、代わりに監督になったのがパワハラセクハラ上等かつ碌な指導をしないくせに自分の気に入った選手しか使わないコーチの伊津本だった。奴のせいで多くのまともな部員とマネージャーが辞めていき、野球部にはチンピラしか残らなくなってしまった。

 それでも、俺は野球部に残り続けた。恩人の上垣先生が帰ってくるまで護りたかったし、何よりも最低なクズのせいで夢を諦めたくなかったからだ。


 ……だが、それも今日までらしい。


「……ぐっ!」


「はっ! 無名のお前が調子に乗ってるんじゃない!!」


 殴られ、ロッカーに衝突する。

 頭を打ったが、血は出ていないので大丈夫だと思う。


「おーおー! もっとやったれえ矢羽部!」


 ゲラゲラと笑いながら、殴った生徒を咎めるどころかさらに煽る大男……伊津本に嫌悪感を覚える。

 くそっ! 暴行がばれて大会出場停止を喰らったらどうするつもりなんだ!


「如月。お前みたいな無名がなんで上垣に気に入られてるのかは知らねえけどな……今の野球部にはお前みたいなのはいらないんだよ!」


「くっ! お前らどうするつもりだ! 上垣先生が帰ってきても、今の野球部に呆れて匙を投げられるだけだぞ!」


「ハーハッハッハ! お前、まだあの上垣が戻ってくるって思ってるのかよ! あいつは意識不明の重体だぜ!? 帰ってくるわけねえだろ!」


 伊津本の笑い声が癪に障る。

 ふざけるな……! せっかく、上垣先生が立て直した志築野球部をこんな奴らにぶっ壊されてたまるか!


「お前も懲りない奴だな。しょうがねえ……もうちょっと泳がせたかったが、もうネタバラシするか」


「……ネタバラシ?」


「来い!」


 矢羽部が部室の外に向かって叫ぶ。

 すると、見知った人物が現れた。


「な! 加奈子!?」


 吉田加奈子。野球部のマネージャーで俺の彼女だ。


「こ、ここは危ないから来るなって言っただろ!?」


「あー、うざいうざい」


 加奈子は普段は誰にでも優しい人物だ。

 しかし、今の彼女は普段と違って、とても軽薄な印象を受ける。


 そんな加奈子はまっすぐと歩いていき……伊津本が推薦したという元有名シニアのレギュラーの矢羽部とキスをした。


「……え?」


 意味が分からなかった。

 まるで当然のようにキスをする俺の彼女と矢羽部の光景を脳が受け付けない。


「ごめんね~。私、如月君よりも大吾の方が好きなの」


 加奈子が蔑んだ目をしながら言う。


「知ってる? 彼、中学では有名シニアのエースなのよ? 無名のあなたよりも素敵でしょ?」


「よく言うよ。推薦組って聞いて、如月に尻尾振ってたくせに」


「も~言わないでよ。あの時は野球のこと全然知らなかったんだから。あいつが無名だってわかってたら付き合わなかったわ」


「ま、そう言うことだから加奈子は諦めてくれ」


 信じたくないけど信じるしかなかった。

 加奈子は浮気していたんだ。それも、ずっと前から。


「……わかった。悪かったな、不甲斐なくて」


 失意のまま部室を出ていこうとすると、伊津本が「ちょっと待て」と言ってきた。


「これ書いていけや。お前みたいなチームの輪を乱す奴はいらねえんだよ」


 渡してきたのは退部届。

 もう、考えることも放棄したかった俺は反射的に書いてしまった。


 ……まあ、いいか。どうせ、矢羽部とはまともにチームプレイできないし。


 こうして、俺はどん底まで落ちてしまった。

 しかし、この時の俺は知らなかった。

 捨てる神あれば拾う神あり。俺の人生はここから先、上り調子しかないってことを。

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