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スマートフォンにも意志は宿る? 〜IBis(アイビス) Ver.1.01.01〜

作者: Con-Kon

初めて日常ものを書きました。


拙い部分はお許しください(汗)

「⋯⋯もう寿命かもなぁ」


 目の前には一台のスマートフォン。そのモニターは半分ほどめくれ、内部の精密機械が丸見えになっている。


 確かにもう5年ほど使用しているが、まさかこうなるとは⋯⋯。


 高校を卒業し、中小企業に入社を果たし、その初給料で購入した、非常に思い入れが深い相棒。


 スマートフォン〈IBis(アイビス)〉。


 当時は最新型でありながら、カメラ機能を排除した事でコストパフォーマンスに優れているという点で人気を博した機種だ。


 当時のオレは初給料がやや少なめという事もあって、迷う事なくIBisを購入した。元々電話やメールさえ出来れば問題無いと思っていたのもあった。


 あれから5年。


 初めての相棒は、限界間近まで傷ついていた。


「⋯⋯そろそろ、機種変更の時期か」


 寂しいが、仕方無い。


 いかに科学が発展し、どれだけ便利になろうとも、スマートフォンに使われる部品は消耗品。


 つまりスマートフォンは消耗品。


 いずれ買い替えの時期はくる。


 今回もそうだと言うだけだ。


 オレは、携帯ショップへと向かった。




 ◆◆◆




 BRRR,BRRR....


「⋯⋯ん?」


 ポケットの中のスマートフォンが震え出した。


 これはおかしい。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 スリープを解除してみると、〈今日の天気〉の情報が更新されただけだった。


 オレは設定を確認し、サイレントマナーモードである事を確かめた。


 さらに、念のためバイブレーションの機能を停止させておいた。


 ⋯⋯こんな状態の画面でも、タップは反応するんだな。


 オレは感嘆しながらも、再びショップへと歩き出した。




 ◆◆◆




 ピポピポパポ♪ピポピポパポ♪


「うわっ!」


 いきなりポケットの中のスマートフォンが大音量で鳴り出した。


 同時に周囲の人たちが一斉にオレの方を向いた。


 オレは周囲の視線に耐えながら、急いでスマートフォンを取り出した。


 今の音は緊急地震速報のものだ。


 しかし、何故今なんだ?


 すると、すぐに誤発信だというお詫びのメールが届いた。


 ⋯⋯なんだ、誤発信かよ。


「⋯⋯ん?」


 ふと、気になる事があった。


(⋯⋯今の速報、もしかしてオレのだけか?)


 少なくともあの時、あの場で鳴ったのはオレのスマートフォンだけ。


 周囲からは聞こえなかった、⋯⋯気がする。


(⋯⋯何故だ?)


 オレのスマートフォンに、さっきから不可思議な現象が起こっている。


 その度にオレは立ち止まってしまい、時間を喰われている。


 ショップに着いたら、その辺も少し調べてもらうか。


 オレは気持ち早足でショップへと向かった。




 ◆◆◆




「やっと着いた⋯⋯⋯」


 ようやくショップにたどり着いた。


 ここに着くまでに、さらに2回ほどスマートフォンのバイブが鳴った。しかも、内1回は唯一登録している音楽サイトからの定期メールであり、特に必要も無かったので着信拒否していたハズだった。


 何なんだ、一体⋯⋯。


 店内に入ると、店員さんが声をかけてきてくれた。


「いらっしゃいませー!本日はどのようなご用件でしょうか?」


「一応、機種変更しようかなと思って来たんですが⋯⋯」


 そこで、オレはここに来るまでに起きたスマートフォンにまつわる出来事を説明した。


「⋯⋯はぁ」


 どうやら店員さんも半信半疑のようだった。


 無理もない。所有しているオレだっていまだに信じきれていない。


 でも、実際に起こっている事なのだ。是非とも調べてもらいたい。


「分かりました。ではこちらの方で調べさせていただきます」


「お願いします」


 なんとか調べてもらう事が出来た。


 結果が出るまでの間、最新の機種でも観て回るか⋯⋯。




 ◆◆◆




 ー30分後ー


「⋯⋯特にこれといった異常は確認出来ませんでした」


「え⋯⋯」


 そんな馬鹿な。


 あれだけ鳴りまくってたのに異常無しだと?


「本当に異常は無かったんですか?特にバイブレーション機能とかは⋯⋯」


「はい。特に問題は見受けられませんでした⋯⋯」


「⋯⋯⋯」


 絶句。


「しかし、このような状態になるまでお使い頂いた事は素直に嬉しく思います。もしよろしければ、新しい機種をご紹介しましょうか?」


「⋯⋯そうですね。お願いします⋯⋯」


 元々そのつもりで来たので異論は無かった。


 異常動作の原因は分からないままだが⋯⋯。


「オススメは、こちらですね」


 店員さんがデスク後方の部屋の中から持ってきたのは、黒い箱。


 そのフタには〈IBis Plus〉と書かれていた。


 しかしこれ、店内には置かれていなかったような⋯⋯。


「この機種はお客様がお使い頂いている〈IBis〉の正統後継機種です。2年前に登場したのですが、この最後の1台だけが中々売れず、倉庫の中に保管されていたものです。⋯⋯その機種をそこまでご利用されていたお客様なら、もしかしたらこちらの方がよろしいかと思い、ご紹介させて頂きました」


 店員さんがフタを開けて取り出したIBis Plusは、オレが使っていたIBisとほぼ同じ見た目をしていた。やっぱりと言うべきか、カメラ機能もついていなかった。


 違うのは、モニターの周囲の枠が若干浮き上がっているところだ。


 手に持ってみると、若干重くなったようだが、それ以外に違和感は特に感じなかった。


 値段は税込18,800円。新品にしちゃあかなり安い。


 ⋯⋯うん。これなら文句は無いかもな。


「これ、買います」


「ありがとうございます!」


 購入が決まり、一通りの説明を受ける。


 プランも引き継ぎ、諸々の合計金額は21,600円。


 予算は5万円ほど用意していたので、一括で支払った。


「それでは、前の機種のデータを移植しますね」


 そう言って、店員さんがオレのIBisを手に取った瞬間。


 BRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR......


「ひゃっ!」


 IBisのバイブレーション機能が、いきなり起動した。


「え、え⋯⋯?と、止まらない⋯⋯⋯?!」


「ちょっと、何やってるの!」


 カウンターの奥から店長らしき人が出て来るが、IBisが鳴り止む気配は無かった。


 ⋯⋯⋯やっぱり、オレの相棒には何かあるのかもしれない。


「すみません!ちょっと貸してください!」


「は、はい!」


 店長さんからIBisを受け取ると、IBisのバイブレーション機能は止まった。


「⋯⋯⋯」


「え⋯⋯?」


 店長さんと店員さんは何が起きたのかも分からないようで、呆然としていた。


「⋯⋯とりあえず、データ移植は良いので、新規での登録をお願いします」


「は、はい⋯⋯。分かりました⋯⋯」




 ◆◆◆




 それから30分後。


 新規でユーザー情報を登録し終えたオレは、新しい相棒〈IBis Plus〉が入った箱を抱えながらショップを出た。もちろん、前の相棒〈IBis〉もポケットに入っている。


 IBisの方はもう解約しているので、通話も出来ないただのサブ端末になった。


 この後は自力でデータを移植するという作業が待っている。


 多少は面倒だが、嫌では無い。


「⋯⋯⋯」


 結局、IBisの異常動作の原因は不明のまま。


 店長さんも、ショップの方で独自に調べてくれる事になった。


 最初は半信半疑だった店員さんも、最後にはオレの話を完全に信じてくれていた。


 まぁ、さすがに目の前であのような事が起きれば、嫌でも認めるしかない。


 しかし、何故IBis(コイツ)にあのような事が起こったんだろ⋯⋯。


 オレはポケットから相棒(IBis)を取り出す。


「⋯⋯もしかしたら、コイツには〈意志〉のようなものがあるのかもしれないな⋯⋯」


 そんな訳無いか。


 オレはIBisを再びポケットに仕舞った。



 その一瞬、IBisの右上にあるランプが青く光ったが、オレがそれに気づく事は無かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


スマートフォンの自我の芽生えって、案外こんな感じなんだろうな〜と思って書きました。


面白く感じていただけたならば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あえて何もわからない空白な部分があるからこそ、読者側が多く想像できますね(*´ω`*) [気になる点] 最後にアイビスが伝えたかったことは何だろうね。 何なら続編で知りたくなっちゃうかも。…
[良い点] 作品の構成が起承転結になっておりとてもきれいだと思いました。 ギュッと凝縮された内容になっていて、非常に印象に残ります。 主人公のスマートフォンに対する長年の愛情と、スマホの自我の芽生え。…
[一言] 自我が強くなって最終的にはメールや通話で話しかけてくるようになるとか? そこまで逝けばホラーな気がするけど(^_^;)
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