事件当日_2
白髪の少女、西園寺八雲は天川夕希のストーカーである。
それも本人からは絶対に見つからない遠くの位置から双眼鏡で観察する猛者である。今まで本人にばれそうになったことすらも無い。
夕希の姉の朝美とも良好な関係を築けている。外堀埋めも完璧なのだ。
そんな八雲は集団痴女事件の当日も右手に顎をついて、それはそれはねっとりと夕希を観察してうっとりしていた。
「うふふ、今日も夕希君って素敵…でも、お一人で勉強されて大変そう…ああでも、そんな表情も…」
八雲は知る由もなかった―この後すぐに痴女事件が起こることなど。
八雲が夕希しか見えていないのは夕希以外に興味がないのもあるが、夕希以外を見ることが物理的に難しかったという理由もある。八雲は三階にある生徒会室、夕希達は別棟の一階にある教室にいるのだ。そのため窓際にいる夕希しか視覚的に見れないのである。
まあ八雲にとっては夕希以外はどうでも良いので夕希さえ観測できれば十分なのだが…
「ふぇ!?夕希君が汗拭った!?しかも後ろ姿の!!夕希仕草プロファイルNo.42を今日またお目にかかれるとは…四葉のクローバー見つけた気分です…」
八雲はレアな夕希の姿を見て小さな幸せを噛みしめる。しかし、そんな小さな幸せはその後の大きな幸せによって押し流される。
夕希が服をパタパタと涼みだしたのである。
「ふぇ?五つ葉のクロー…ばあ…?ふぁああ!!双眼鏡!!はやきゅ!!双眼鏡!!」
全力でカバンを漁り目当てのもの見つけ出す。
「あった!チャンスタイム!見え…見え…見えそう…見え…見えない!!!シィィット!!!」
角度を変え距離を変えセクシーショットを探すがついぞ見つけられない。
しかも、夕希が照れたように扇ぐのをやめる。
「くそお!もっとやれよおおぁあああああ!!」
そう思ったのもつかの間、夕希がこちらの方向を向いて胸元を開く―実際は扇風機に近づいて服の中に風を通そうとしているだけだがそんなことは八雲には知る由もない。
というかその前に、そんな細かいことは八雲にはどうでもよかった上に、落胆と幸福が交互にやってくるこの状況の下でまともな思考回路が働いていなかった。
「って、え!?それどういうこと??む…胸ちら!?ふぁ…ふぁああああ!!夕希君が私を誘ってる!!!誘ってるって!ねえ、私の愛についに気づいたんだって!ねえ!」
当然この生徒会室には誰一人いない。返答の無い教室に八雲は問いかけ続ける。
「はい!生徒会採決取ります!!夕希君が誘ってると思う人!!手を挙げてください!!はい!はあああい!!賛成一人で可決!!今参ります!!あなたの八雲が参りますよ~」
誰もいない教室で一人、生徒会の採決を取って一人賛成…
笑顔の八雲は全速力で夕希たちのいる教室へ走り出した。
階段を五段飛ばしで駆け下り、廊下は全力疾走、曲がり角で肩をぶつけようが関係ない。脳内のアドレナリンがそんなものすべて消し去ってくれる。走る走るとにかく走る、愛しの夕希の元へ。
「夕希さん!あなたの八雲が参りましたわ!」
ガラァァァラ!と勢いよくドアを開けた先に見えた光景は、八雲の予想とは違ったものであった。
「おらあ、速く破れろ!この布っ切れがあああ!!」
「この世におわします神に感謝して…いただきます。〇ーメン」
「ゆうちんのズボンの中真っ暗だねええ、でも私は退かない!全力で調べつくすよおお!」
シャツを破ろうとしているもの、手を合わせて隠語を言っているもの、ズボンの中に頭を突っ込んでいるもの。
「は?…何ですかこれは…?」
頭の中が疑問に満ち溢れる。今自分は誘われて夕希の元へ来たのではないのか?
私たちは幸せなキスをして終了なはずではないのか?疑問が浮かんでは消えていく。
「ああ…違ったんだ…そうですよね…夕希君がそんなに軽い男な訳ないですもんね」
徐々に思考がクリアになってくる。―夕希が人をあんなにいやらしく誘うわけがない。そういえばこの教室のエアコン治ってなかったか…。これはすべて事故だったんだ。―と八雲を落ち着かせる言葉が心の中を駆け巡る。
すると、どうだろう…この状況は三人の女が夕希に襲い掛かっている。これはどう説明したら良いものだろう。答えは簡単に一つだけ出てくる。しかし、何回思考しようと答えは一つしか出てこない。
「ああ…そうか、これってレ〇プされそうなんですね…」
それが分かった瞬間、八雲の心が突沸する。そして突沸と共に怒りの言葉が口から発せられる。
「私も混ぜ…いや…触るな!!!下女どもぉ!!!!」
※強姦は犯罪です。みなさん真似しない様に(いやこれまじで)
誤字脱字報告、その他指摘、ほんとに助かります…いや、自分で何回も確認しろよって話なんですけどね。