忘れ物いっぱい
八雲と別れ家の中でジュースを飲みながらゆっくりとする。
「それにしても八雲ちゃんってかなり育ちのいい子だったな…」
今日会った真っ白な少女に思いを馳せる。それに、自分よりはるかに体格の良い相手に食ってかかることなど早々できるものではない。
「今度、お礼にクッキーでも焼いて持っていこうかな?」
そんなことを考えると自然と笑みがこぼれてしまう。
―前世ではこんなことは無かったからだ。
教室で女の子と笑いあって、一緒に帰ったりして…こんなことは前世では考えることすらできなかった。
いくら前世で20年生きてきたとしても、この世界のすべてが夕希にとっては新鮮であった。
「童心に帰るってこういう事を言うんだろうな…」
そんな言葉を口走る。今がとても楽しい。
女神さまの言っていたフェロモンの性質がそのままだっていうのは嘘だったんだろうか?こちらの世界でも7年近く生きてきたが、そんなそぶりは見たことは無い。みんな前の世界のドラマで見てきたような普通の女性だ。
「はあ…ほんとに美味しいな…」
味覚も子供に戻っているためジュースが本当に美味しく感じる。
でも、なんか忘れているような……
その瞬間、玄関のドアが勢いよく開いた。
「ゆうき!!ゆうきいるの!??」
朝美姉さんだ。ドタドタッドタドタッ!
その足音はリビングに向かって近づいてくる。
「ゆうき!!?ゆうき!!いた!!いるじゃない!!」
そして、リビングにいる夕希の姿をとらえた瞬間、烈火のごとく怒りだす。
「ゆうき!なんで先帰ったのよ!」
朝美姉さんは激おこぷんぷん丸であった。
そのまま、夕希の胸倉をつかむ。
「いや、言い訳させて。ねえ。ねえ。」
「あたしをおいてかえるなあーーばかああ!」
と夕希の腰に抱き着いてブンブン振り回す。
「夕希のばか!わたし校門のところでずっと待ってたんだから!」
「お姉ちゃんごめんなさい!まってげろりそう!ごめんなさいって!ねえ!?」
こんなやり取りを何度もしながら僕はブンブン振り回される。
しかし、ブンブンブンブンっピタっとある瞬間に朝美の腕が止まった。
「本当に心配したんだから…。めちゃくちゃ探したんだから…」
朝美は泣いていた。
お姉ちゃんを泣かすなんて…なにがお姉ちゃんならなんとかなるだ…ちゃんと謝らないと。
「小6の女の人に絡まれて怖かったから逃げるしかなかった。でも、朝美お姉ちゃんのこと置いてったのはわかっててした。ごめんなさい」
夕希の言葉に朝美はハッとした顔をする。
「その小6の女には何もされなかった!?怪我とかしてない」
「怪我はしてないよ、ある女の子に助けてもらったから…」
「じゃあ、その子にはまたお礼言わなきゃだね。」
「お姉ちゃんもう怒ってない?僕のこと許してくれる?」
「うん、許す。でもあたしも悪かった。友達と喋ってて校門とこ行くの遅れた。それで夕希を危ない目に合わせた。こんなお姉ちゃん夕希は許してくれる?」
「許すよ、お姉ちゃん悪くないもん。それじゃ仲直りの握手しよ!」
「うん!」
と二人は握手を交わしたところ
「ただいまああ。夕希、朝美、お母さんを癒してぇ」
と残念な母親が帰ってきた。
「あら!二人して、握手して仲良さそう!お母さんも混ぜて!それ終わったらすぐにご飯作るからぁ!」
とてんやわんや
……。
………。
とまあ、こんな生活は僕が中学校1年生の夏まで続くことになる。僕は舐めていたんだ。僕のフェロモンの強さを…そして、この世界においての女性の男に対する執念を…
まさかこんなに読んでもらえるとは…書き溜め増やさないと…