帰り道の恐怖
授業が終わり、夕希は急いでいた。
その理由とは
「お姉ちゃんが不機嫌になる。急がなきゃ…」
姉である朝美の存在だった。
いつも夕希と朝美はいっしょに帰っている。
しかし、夕希は放課後すぐにクラスの女の子に話しかけられるために朝美を待たせてしまうことが多く朝美は不機嫌になるのだった。
夕希に話しかける女の子同士には牽制しあう時間があり、その間隙を縫って教室を飛び出す。
「それじゃ!みんなまたね!」
「あっ」や「しまった!」などの声が聞こえるが気にしない
速攻で待ち合わせ場所の校門に移動する。
幸い、朝美はまだ来ていないようだった。
「ほっ、今日はまだみたい」
と夕希は胸をなでおろす。夕希としても姉である朝美のことは好きなので積極的に怒らせたい相手ではなかった。
かといって、朝美より早く来ることによって、問題がないわけではなかった。
「あ!あの子!1年生の男のじゃん!」
「ま!?どこ?あっ!いたっかあいいぃ!」
「うちちょっとはなしかけてくるわ!」
「ま!?小6にもなって小1狙うとか、おまえさすがにでしょ!」
「あれじゃん!若いうちにこなかけとくみたいな」
小6のギャル数人が獲物を見るように夕希を見ていた。
やばい来てしまった。
「ねえ、そこの子ーー夕希君だっけ?お姉さんとちょっとあそばない?」
小6、夕希の精神年齢を考えれば十分子供だがーー
(でっか!こわ!まじっ小6って怖い!)
身長差は4,50cmある。そんな人に囲まれて怖くないわけがなかった。
前の世界でいうと170cmである人ならば220-230cmの人達に囲まれることと同じである。
しかも小6といえば性の悦びを知りやがる時期であり、このままだと薄い本みたいになってしまう。
夕希としても初めては好きな人とって決めてるどうにかして断りたかった。
「まあ、いいから一緒に遊び行こうよ!楽しいよ!」
と手を引かれる
(やば、やばい!どうしよ、力つよ!抵抗とかムリじゃん!)
怯えで声すら出なかった。
「そこまでにしなさい!」
一人の少女が立っていた。白銀の少女だった。髪から肌、指の先に至るまでの白。身長は夕希と同じぐらいだが凛としていた。
「乙女ならば!男性には優しくしなさいと学びませんでしたか?今のあなたたち最低です!」
ものすごい剣幕で銀色の少女はにらんでいた。
しかし小6のギャルたちもただでは引き下がらない。
「何言ってんのー?つか邪魔なんだけど。ガキは帰ってろっての!」
銀色の少女の肩をつかむ。
「放してください!」
そんな、夕希を守ろうとしている銀色の少女だがわずかにそのきれいな手が震えていた。
その震えを夕希は見逃さなかった。こんな小さな子が僕を助けようと頑張ってくれているんだ、僕だって勇気を出さなきゃ。
「僕はお姉さんたちとは遊びません。僕はこの銀髪の子と一緒に帰る予定があるので。」
驚くほど簡単に声がでた。
そして、銀髪の少女の手を引きその場を離れる。
「あっおい」とか聞こえるが無視だ。さようなら。
校門からだいぶ離れたところ、で夕希は口を開く。
「さっきは助けてくれてありがとう。」
ニコッと笑う。少女の白い頬が僅かに染まり、言葉を返す。
「ううん、私こそ助けてもらっちゃっいましたね。実は私も怖かったんです。」
「じゃあ、おあいこってことで!」
「はい!」
と微笑みあう。
「僕の名前は天川夕希。あなたは?」
「わたしの名前は西園寺八雲と申します。2年生です。以後お見知りおきを」
礼儀正しくペコリとお辞儀する。
「ところで西園寺さんは家ってこっち方面なの?一緒に帰ってて大丈夫?」
家の方向が真逆ならこのままついてきてもらうのは申し訳ない。ここからは安全な道だからワンちゃんここでバイバイになるだろう。
だがその考えは杞憂だった。
「ええ、ここをずっと行ったところです。それに、知ってる道だからと安全ではないので家まで送りますよ。校門で誰かを待っていらっしゃるようでしたがこのまま帰っても大丈夫なのですか?」
「あっやば!お姉ちゃんを待ってるんだった!まあいいやなんとかなるでしょ!でもお姉ちゃん怖いからなあー」
オーバーリアクションをする。
「あはは!それは怖いですね!」
「そうなんだよー」
二人して笑いあって帰路についた。
白銀の少女―――西園寺八雲、黒髪の美男子―――天川夕希が歩く姿は周囲の視線を大いに集めた。
小1や小2とはいえ男と女が二人で歩く姿は珍しいのだ。
「夕…やば…。めち……くちゃにした…。」
「えっ?西園寺さんなんて言った?」
「いいえ、何でもないです。気にしないでください。それよりも西園寺さんなんて他人行儀な呼び方さみしいです。下の名前で呼んでほしいなって…」
「それじゃあ八雲ちゃんって呼ばせてもらおうかな」
八雲は夕希に笑いかける。もう八雲の顔は真っ赤であった。
なんて可愛い人なんだ。清廉潔白で透明という言葉が似合う人だなあと思う。
「ところで、八雲ちゃんってめちゃくちゃ言葉遣いきれいだよね。お嬢様みたい。」
「いえいえ、男性の前だから頑張って話してるだけですよ」
「そんなこといって、あの小6の人たちにも丁寧にしゃべってたじゃん!案外、あの家の人だったりして!」
町で一番大きな屋敷を指さす。そこはうちの小中高一貫の理事長のお屋敷らしいけどまさかそんなことは…
「お恥ずかしながら…あの見える大きな屋敷が私のおうちです」
「ほんと!?すごい!いつか遊びに行きたいなあ」
「ええ、夕希さんであればいつでも遊びに来てください」
そんなこんな徒然なるまま話していると夕希の家についてしまう。
「僕の家ここだから。バイバイなんだよね。」
「残念ですが、ここでさよならなんですね…さみしい…」
と八雲はシュンとした顔をした。
「そんなに寂しがらなくてもまた、遊びにいこうよ!」
「そうですね!また遊びに行きましょうね!約束ですよ!絶対ですよ!」
「あはは、そんなに心配なら指切りしよっか。」
と夕希と八雲は小指を合わせ指切りした。
「遊びはまた学校でちゃんと誘うよ!それじゃ、またね」
「ええ、それでは!」
夕希は家の中へ入っていく。
それを完全に見えなくなるまで見送る西園寺八雲。
……。
………。
夕希が完全に見えなくなってもまだ動かない西園寺八雲。
「ここが夕希君の家…いいことを知りました。」
と肉食獣のような目を浮かべて、唇をぺろりとなめる。
「それにしても夕希君なんて可愛いんですか。マジ天使。ペロペロ。学校ではクラスの女、外では姉がくっついているから入り込む余地がなかったけど偶然上手くいってよかった…」
「あの見ていることしかできなかった夕希君といっしょに遊びになんて…キャーーーうれっしいっーーー。それに、夕希君の毛髪まで頂けましたし…」
と太陽に右手に持つ一本の黒髪を透かす。
「ずっと見ていたい。きれいな黒色です…。いいにおいもするし。ああっでも急いで保存しないと鮮度がっ!」
「しかも、指切りできました。この小指で(自主規制)したら、すごくいいんだろうなあ。」
と完全に肉食獣それもハイエナのような目をうかべて、帰路につくのであった。