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あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!

「え?男…男なの?」

「うん…」

「ま、まじ…?…こんな可愛いのに…?」

「え?いや…可愛いはやめて欲しいんだけど…」


 ねるちんの先ほどまでこれでもかと垂れ下がっていた目尻は今は真っすぐに半眼になっている。

 そして、僕の胸をさわりさわり。

 

「じゃあ、この胸も無い乳じゃなくて…?」

「そうだよ…あったらおかしいもん…」

「ムキー!!この髪の匂いは!?」

「それは多分素かな…」

「それは!それで!ムカつく~!!!!」

 

 ねるちんが頭を抱えたまま部屋の中を歩き回る。

 そんなねるちんを八雲ちゃんが静止させようと声を張り上げる。

 

「夕希君、ネルさん!聞いてください」


 しかし、「あ~まじかぁ、う~くそ~」と唸るねるちんには聞こえていない。何回呼びかけても意にも解さない。

 次第に痺れをきらした八雲ちゃんがドゴォ!!とねるちんのお腹を殴った。

 

「散々夕希君にお触りしたんだから話ぐらいは聞けよ」


 そして僕にくるりと向き直り満面の笑みを向けてくれた。


「さ、夕希君!これで静かになりました!ではここに夕希君を呼んだ理由を話しましょうか!」


 その笑顔が怖すぎて、そこから僕とねるちんの私語は無くなった。

 

 

 

 

 

 八雲ちゃんの話しをまとめると"ねるちんを僕の高等部案内役に兼、補佐係にするのでよろしく"という事だった。

 八兵衛がいるから大丈夫と断っても、「八兵衛さんは諸事情で夕希君と別クラスになってしまいましたから…ええ、ちゃんと理由はあるんですよ」と一向に引かない八雲ちゃんに最終的に僕の方から折れてしまった。

 ねるちんもねるちんで最初は「やりたくない!聞いてない!」とごねていたが、八雲ちゃんには逆らえない様で最終的には力で押し切られていた。

 

 そして今、こうして案内をしてもらう運びとなったのだ。

 

「ねえ、ねるちん?さっき案内役嫌がってたけど迷惑に思ってたりする?」

「いや~め―わくとかではないんだけど、単純にめんどかっただけだよ」


 ねるちんの言葉がぐさりと刺さる。前まではあんなに懐いてくれていたのに…時の流れは残酷だ。

 

「ご…ごめんね…」

「いーよー!まあ、知らない人とは仲良くしていこうってのがあたしの座右の銘だから、それに男の近くにいたら一杯女の子寄ってきそうだし!プラス思考で行かなきゃ!」

 

 時の流れが残酷、そう思ったのだが…

 

「…ん?…今なんて言った」

「男の人の近くにいれば女の子と一杯会えるってこと?」

「いや…その前の…」

「知らない人と仲良くするのが座右の銘ってやつ?」


 やっぱり…今日久しぶりに会った時からねるちんは何かが前と変わっているのだ。

 

「知らない人って僕たち小学校からだから結構長いよね?」

「あり?そうなの?」

「そうなのってそうだよ?僕たちが離れたのも1年半前だよ?」


 ねるちんは頭をポリポリと書き遠くを見つて小さく呼吸する。

 

「ああ、そうか…そーいえば言ってなかったね、あたしが昔の記憶が少し無い事」

「!!?それ…ほんと?」

「ホントもホント!!中学二年生のころかな?全部じゃないけど一部の人に関する記憶を無くしてるみたい、初めは会長のことも忘れちゃってたしね」


 記憶喪失…違和感の正体はこれだったのか。それと同時に心にもやもやしたものが生まれる。自分がねるちんをほっぽりだしている間、記憶喪失だったその事実が胸を締め付ける。

 

「そんなに心配しなくてもいいよ一時のショックだとかそのうち戻るとかお医者さんは言ってるし、無くした記憶も一部だけだから…」

「ねるちん…」


「それにね!あたしにはね…運命の人がいるんだ」


 うっとりした表情で空を見る。


「今はもう忘れちゃったけど…胸に熱く残るこの気持ちは消えなくって…その気持ちだけで十分…だからこれからもあたしは運命の女の人を探すんだよ!!」


 運命の人?女の人?…それに記憶喪失…この状況を考えると、嫌な予感がする。この子もしかして勘違いしてる!?中学二年生までのねるちんからの好意は間違いなく僕に向いていたはず、それは朴念仁の僕でもわかるほどだった。ねるちんの心の中では複雑な勘違いが起きているであろうことが予想できる。

 だから、できる限りねるちんの心持を確認したい。

 

「ねるちん…その運命の人ってもしかして…」


 確認したかったのだが…僕の声はねるちんの声にかき消された。

 

「さ!着いたよ!!やっぱり初めに案内する場所はここじゃないとね!」


 案内された場所は第二体育館…本来ならば部活をやっている生徒達が犇めいているはずだが、ねるちんはここに僕に見せたい部活があるのだろうか?

 まあ、ねるちんの記憶喪失は込み入った話だ。確認するのは今度でもいいかな?と案内された体育館の扉を開ける。


「…なに…これ?」


 中は人でごった返し、熱波が僕の顔を打つ。声があちらこちらから上がり、耳が痛くなるほどだ。

 なんだこれは?…この熱気は明らかにスポーツなんかではない。

 驚く僕の横をねるちんがズカズカと通り抜け入っていく。中でくるりと体を翻す。


「さ!見てよ、これがアーデルトラウト学園の名物!"羅生門の祭り”と呼ばれる集会!!」


 誘われるように僕の体は体育館内に踏み込んでゆく。

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